外は蒸し暑い。モワッとした空気の中、冷たい梅酒を飲む。喉が気持ちいい。
あっという間にグラスは水滴だらけになり、氷も小さくなっていく。
こんな遅くに上空をヘリが飛んで行った。
外で何か話をしている人達の声が、ボソボソと聞こえる。
遠くには、ビルの灯りがチカチカしていた。
と、目の前の通りに大きなワンボックスカーがゆっくり入ってきて停まった。
その後部座席から人が降りてきてマンションの中へと入って行った。
今の…カズさんかなぁ。
違うかなぁ…
違ってもいっか!
:おかえりなさい
そう送るとすぐに返信がきた。
≫:アコもウチに監視カメラつけた?
:つけた(笑)
≫:後で電話する。
:待ってる^^
梅酒を飲みながらベランダで寛いでいると、
……後でって言ってたのにすぐに着信がきた。
ベランダで喋るとうるさいと思い、グラス片手にリビングへ戻ってから通話ボタンを押す。
「もしもし。」
『何やってたの、ベランダで。』
「外見ながら梅酒飲んでた。なんで気付いたの?ベランダにいたって。」
『監視カメラ付いてるからね(笑)』
「ふふ、そうね。…おかえりなさい。」
『ただいま。あ、アコ。そっちに忘れ物しちゃったんだけど、届けてもらえないかな。』
「うん、いいよ。忘れ物って?」
『じゃ、よろしく』
ツーツーツーツー
え…切れた。
忘れ物ってなんだろ。あ、玄関のゲームのソフトかな。
他に忘れ物…
部屋中見渡してみたけど、それらしき物はない。じゃきっとこれだな。
ゲームのソフトを持ってカズさんのウチへ行く。
ピンポーン♫
中から
『はいはーい。ちょ待ってね。』
と声がして鍵が開けられる。
ドアノブを引くと、ガチャンッ!とドアガードが引っかかった。
その隙間からカズさんが笑いながらこっちを覗く。
『アコ、ドア引くの早いよ(笑)ほら、一回ドアしめて。』
「すいません…」
ガードを開けてカズさんがドアを開けてくれた。
『じょーだん。わざとよ、わざと(笑)アコがそうするんじゃないかって。』
「もぉー。あ、忘れ物ってこれ?」
ゲームソフトを差し出し聞いてみる。
しかし、
『違う。それじゃない。』
「え、違うの⁉︎他に忘れ物、見当たらなかったよ?」
『あ、あった。これこれ。』
そういうとカズさんは私の事をフワッと抱きしめた。
『この子よ、忘れもの。朝ね、玄関にこの子忘れてきちゃったのよ。』
「///もぉ、カズさんったら…」
『だって会いたかったんでしょ、俺に。』
「うん…。」
『奇遇ですなぁ。俺もよ、会いたかった。アコに。』
「うん…。」
しばらく抱き合うと、
『充電完了』
そう言ってチュッと軽いキスをして体を離した。
「ごめんね、明日朝早いのに」
『“ありがとう”よ、どちらかと言うと、俺が。忘れもの届けてもらったんだから。』
「うん、そうなんだけど。充電してもらっちゃったし。」
『じゃあ尚更よ、“ありがとう”。俺も充電してもらっちゃったもん。』
「うん…。そうだね。ありがとう」
『ありがとう。ごめんな、今日は一緒にいれなくて。』
「ううん、いいの。付かず離れず、でしょ?さ、じゃあそろそろ戻るね」
『ん。じゃあ。おやすみ』
「おやすみなさい」
そう言って私からカズさんの唇へキスをした。
カズさんは一瞬驚いた顔をしたけれど、私からのキスを受け入れてくれた。
唇を離すと
『アコ、もっかい。』
その顔があまりにかわいくて、私は吸い寄せられるようにカズさんの唇へと再びキスをした。