カズさんが行ってしまった…。
もう会えなくなるわけじゃないのに、すごくすごく淋しい。
玄関で1人、カズさんが出て行った扉を見つめていると…
え⁉︎
…いつの間にか涙が頬を伝っていた。
まさか泣くなんて、自分でもビックリする。
「あ、大変!行く用意!!」
頬の涙を手で拭いリビングへ戻る。と同時に携帯が鳴った。
〔カズさん〕
「カズさんだ。もしもし?」
『やっぱし。』
「え?何が?」
『泣いてたろ。』
「な、泣いてないよ。」
『そこ、嘘つくとこ?いんじゃない、嘘つかなくても。
あー、そっか、気付いてないか。あれよ?アコの部屋、監視カメラ付いてるからね。バレバレよ、だから。』
「へ⁉︎」
つい、キョロキョロとカメラを探した。
『今、カメラ探したでしょ?分かっちゃう、なんでも。』
「うそ⁉︎」
『ふふふ。さ、じゃそろそろ切るわ。いってらっしゃい!』
「え?待ってよ。」
ツーツーツーツー
「カズさん…。あ、やば!行く時間!!」
バタバタと用意をして急いで出勤。
仕事中も、カズさんのことで頭の中がイッパイだったのは言うまでもない…。
.
その日の夜。
惣菜とビールで、私は夕食を手抜きで済ませていた。
…いやいや、仕事後のビールで至福の時を過ごしていた。
と、携帯が鳴る。カズさんからだ!
「もしもし…お疲れ様。」
『おお。お疲れ。
なに、またビール飲んでんの?至福の時~とか思ってんでしょ。』
「…ゔ。なんでわかるの。」
『え?言ったじゃん、監視カメラついてるって。あ、信じてないでしょ。本当なのにな~本当よ?』
「そうじゃなくて。なんで私の心の中まで分かるのかな~って。」
『……………。』
一瞬の間の後、ワントーン低めの優しく且つ真剣な声色で、カズさんは言った。
『俺にもよくわかんない。
アコのことばっか考えてるからかな。』
携帯から聞こえる大好きなカズさんの声。耳元で囁かれているようで、すぐそばにカズさんがいるような錯覚に陥いり、胸がキュンとした。
…会いたい。…もう会いたい。
…もうカズさん不足になっちゃったよ。
この気持ちを、素直に伝えるべきか迷っていると
『あ、誰か来た。
“おはよー。ニノ早いね、今日。あ、電話中?ごめん。”
いや、いいよ。
もしもし?ごめん、もう切るわ。また連絡する。』
お仕事の人が来たらしい。
もう少しお話してたかったのに…
「あ、うん。ありがとう、忙しいのに。じゃね。」
『おぉ。じゃ。』
ツーツーツーツー
電話が切れた後のこの無機質な音のことを、こんなに切なく感じたことがこれまでにあっただろうか…。
私は、半分程残っていた缶ビールを一気に飲み干すと、キッチンへともう1缶取りに行った。