策士なのかなんなのか

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夏期講習が始まる前、知りたくて知りたくなかった情報が耳に入った。

 

「てか木村さんって彼女とどうなんですか。」

 

「何、普通だよ。」

 

なんだ、彼女さんいたんだ。

気落ちしつつも、好きな人には幸せになってほしい気持ちの方が強く、見守ることに。

 

事務のお仕事にやる気が出てきていたのと、気分を改めたくて

夏季に行われる合宿に申し込んだ。

 

 

その合宿まであと2週間と迫ったとき、思いもよらない出来事が。

 

 

連絡先の交換

 

 

「ねぇね、聞きたいことがあるからって木村さんが連絡先知りたがってるんだけど、

教えていい?」

 

それは本当に突然で、緊張し出す私。

 

「なんだろ、いいよ!」

 

 

しばらくすると

 

「木村です。突然すみません。夏季合宿申し込んでたよね?」

 

「のんです。あ、その件についてですか?」

 

「うん、持ち物よく分からなくて。何持っていく?」

 

「えっと…ちょっと待ってください。あまり充実していないんですね…

タオルとパジャマだとか持って行きます!」

 

慌ててホテルのアメニティを確認して木村さんへ送る。

 

「うわ、本当だ。じゃあ俺も用意しとこ。」

 

「お互い頑張りましょう。」

 

聞きたいことって、持ち物だったんだ。

期待していなかったと言えば嘘になる。でも、頼りにしてもらえただけでも嬉しい。

 

「ねね、最近どう?」

 

「ん?楽しんでいますよ!木村さんこそ、彼女さんとは?」

 

「んー…なんかダメになりそう。」

 

え、どうして。諦めようとしているのに…どうして。

幸せになってほしい気持ちはホンモノだ。

 

 

自分の気持ちが溢れ出ないよう、キツくキツく蓋を閉じる。

 

 

「えっと…たくさん話して仲が深まるといいですね!」

 

「ありがと。一人楽しい?」

 

「独り身はフリーなのでそれなりに!」

 

「いいなー」

 

「いいなって。笑 彼女さん大切にしてください。」

 

「んー」

 

 

 

携帯を閉じて目を閉じる。

(幸せいっぱいな報告が聞けたら良かったのに…)

月に一度の会議の中で

 

私の配属された教室では、毎月会議が行われていた。

会議が終わると、そそくさと帰ってしまう方、仲間を誘って飲みに行く方とそれぞれ。

 

私は前者でした。

 

トリプルワークしていたので遊ぶ余裕がなかったのもあります。

 

配属されてから4ヶ月誰とも交流をしようとしないなんて、とんだノリの悪い奴。笑

5ヶ月目にして、初めて飲み会に誘われました。

 

「ねぇ、飲み会来なよ!楽しいよ。」

 

「いえ、私は行きません。」

 

我ながらバッサリ断るなんて感じ悪いなぁ。

 

「即答?!…本当に来ないの?」

 

ぐ…。

どうしてそんな顔するの。私がいたっていなくたって変わらないじゃん。

 

「…木村さんが奢ってくれるなら行ってもいいですよ。」

 

「おっ、言ったな?!じゃあ来いよ!」

 

「え、じょうだ…」

 

「奢るから来いよ。」

 

「あ、はい…。」

 

飲み会の場苦手なんだよなぁ。

仕事仲間と職場を離れた環境で一体何を話せばいいの。

 

メリットを見出すことができず、行くまではただひたすら憂鬱でした。

 

でも、ずっと灰色の世界に生きているような感覚が飲み会によって色付き始め、木村さんには感謝してもしきれない。

 

こんなに楽しかったの?

私どうして今まで避けてきたんだろう。

 

この日を境に、私は木村さんのことが気になりだした。

 

よく見るとかっこいい。

すれ違う度にいい香りもするな。

自信をもってお仕事している姿、生徒さんに親しまれている姿、そのどれもが良い。

 

これが、恋?

 

木村さんには彼女さん、いるのかな。

自分のことを滅多に話さないので、アピールするのも怖くて、密かに想いを馳せていた。

 

初めて出会った日の思い出

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以前、ちらっと不安で上手くいかなかったことをお話しました。

突然のデートのお誘い

 

それは、略奪愛だったから。

 

正確に言うと違うのですが、私が木村さんを意識し始めた頃

木村さんには彼女さんがいたんです。

 

 

 

 

 

学費のためにバイトを

 

私はいわゆる、苦学生だった。

大学生になった私に対して、母が「もう大人なんだから自分でなんとかしなさい」と言い、

金銭面の援助が絶たれたため、バイトをかけもちするしかありませんでした。

 

カフェと単発派遣を掛け持ちして賄っていましたが、

 

(まだ放課後の時間がある。もう一つバイトを増やそう。)

 

そう思い、応募したのが塾の事務。

無事面接が通り、研修を済ませた後、最寄り駅の教室に配属されました。

 

「初めまして!本日からお世話になります、のんと申します!」

 

「ああ!のんさん、お待ちしておりました。どうぞ。」

 

ご丁寧に挨拶をされ、案内されるがままついて行くとそこにはとても綺麗な教室が。

なんだか私を待ち構えているようにも思えた。

 

「入るときは大きい声で挨拶をしてね。」

 

「あっはい。こんにちは!」

 

「こんにちはー。」

 

私の初めての挨拶に返事をしたのが木村さん。

この日、私と木村さんは出会った。

 

 

第一印象は“怖い”。

 

 

「木村さん見た目怖いけど良い人だからね~」

 

と、顔に出ていたのか、室長さんが私にフォローを入れた。

 

「ちょっ、怖いって失礼な!」

 

「ははっ」

 

くすっ

なんだかあったかい教室だな。

 

頑張ろう。

 

学費のために。

 

給料を得ることだけが目的だった私は、しばらく淡々と事務の仕事をこなしていた。

 

その様子を見て、気にかけてくれたのがまぎれもない木村さんだった。