岸田首相は在任中、裏金事件など「政治とカネ」の問題や、旧統一教会問題など、安倍政権の“負の遺産”の後片づけに追われた面もある。
政治評論家の田村氏は、
岸田文雄首相は裏金事件を受けて1月に派閥解消を表明した。これに応じ、麻生派をのぞき、旧岸田派をはじめとする派閥が解散、または解散の意向を表明した。
派閥解消の総裁選への影響について、長く自民党の政務調査役を務めた政治評論家の田村重信氏は、
「総裁選イコール派閥の勢力争い、キングメーカーの力の見せどころだった。しかし、岸田首相の派閥解消で大きな壁が崩れて、9人が出馬できた」と話すが、決選投票となると状況が変わると言う。
「決選投票になることがほぼ確実となり、また旧派閥が台頭してきています。背景で2人のキングメーカーが動いている」
田村氏が指摘する2人とは、麻生太郎副総裁と菅義偉元首相だ。
麻生氏は安倍晋三元首相、菅氏、岸田首相と3人続けて、キングメーカーとして影響力を保ってきた。今回の総裁選では、自らの派閥から出ている河野氏を支援し、議員会館で他の議員の部屋を訪ねるなど活発に動いていた。しかし思惑と異なり、河野氏は情勢調査で伸び悩みが明らかになり、決選投票に残るのはほぼ絶望的な情勢になっている。
石破政権は阻止したい麻生氏
「キングメーカー(麻生氏)は、もう2回目のことしか考えていませんよ」
とこっそり打ち明けるのは、河野氏を推す麻生派のA議員。
「小泉氏が残れば、麻生氏は勝ち馬に乗ろうと決選投票でそこに票を集めるでしょう。ただ、盟友の安倍晋三元首相が高市氏を応援していたので、そちらでいけと指令がくる可能性も十分ある。石破氏と高市氏が残った時はどうなるか。最近になって麻生氏は、この2人なら『高市で行く』とハッパをかけている。岸田首相にも『高市に乗らないか』と連絡していると伝わっている。麻生氏は石破氏と犬猿の仲なのは知られるところなので、石破政権だけは阻止したい。そして『俺が本当に動くの投票前日と当日』と呟いている。まさにキングメーカーです」
総裁選でまだ態度を決めかねているB議員は、こんなことを教えてくれた。
「議員会館の私の事務所に麻生氏がお見えだったようで、電話もあった。1回目は誰に入れてもいいから、決選投票では『高市についてくれ』というお考えに聞こえました。石破氏とは仲がよくないから、やっぱりなと。ただ高市氏は総裁選の最大の焦点となる政治とカネでいえば、裏金議員が推薦人の半分以上を占めているにもかかわらず、『知らなかった』と会見で述べたことや、党員にリーフレットを大量に郵送したことがマイナス。解散総選挙が近いので『選挙の顔としては無理』と考える議員がけっこういる」
菅氏が支援する小泉氏は失速気味
一方の菅氏。岸田政権では非主流派に転落し、自らに近い河野氏が出馬することを知りながら、小泉氏をかつぎ、横浜での小泉氏の街頭演説では菅氏も演壇に立って応援演説をした。
小泉氏の支援には、旧安倍派の萩生田光一前政調会長や旧二階派の武田良太元総務相も加わり、当初は「当確」という勢いだった。事実、横浜での小泉氏の街頭演説で、演壇に立って挨拶した菅元首相。
しかし、小泉氏は総裁選が進むにつれて「失速」していった。
小泉氏の推薦人のC議員が、陣営の内情を教えてくれた。
「党員票で小泉氏は、石破氏、高市氏に次ぐ3着と苦戦です。しかし議員票では菅氏の奔走もあってトップ、70票以上は取れるでしょう。2着までに入って決選投票になれば、萩生田氏や武田氏を陣営に引き込んでいますし、旧茂木派などにもプッシュして集票をしているから勝算はある。しかし決選まで進めるかどうか。菅氏は『おい大丈夫か』『早かったかなぁ』と小泉氏の勢いの陰りを察知して、石破氏と高市氏の決選投票の準備をしているようで、電話で情報集めに懸命です」
高市氏とはウマが合わない菅氏
石破氏と高市氏の決選投票となった場合、菅氏は麻生氏とは逆に、石破氏につくという。
菅氏のグループ「ガネーシャの会」のD議員はこう話す。
「菅氏は高市氏とは以前からウマが合わず、距離感がある。菅政権時代も、高市氏を閣僚や党三役には入れていない。また、菅氏は小泉氏の前に石破氏に声をかけていたけれど、ハッキリと返事をしないので愛想を尽かして小泉氏に方向転換した経緯がある。石破氏もその後、推薦人集めで苦労している段階で武田氏ら、菅氏の側近には頭を下げてお願いに行っている。決選投票を前に石破氏が菅氏に頭を下げれば、菅氏は確実に石破氏で動きます」
具体的にはどう動くのか。
「21年の総裁選で提携した小泉氏、石破氏、河野氏の『小石河連合』を再結成して、小泉氏だけでなく河野氏らに分散している議員票をまとめあげる作戦です。
最後は菅氏と距離がある岸田首相とも手を組むかもしれない。石破氏と岸田首相は親しい関係です。そうなると、林氏や上川氏の議員票にも食い込めます。それに党員票では石破氏が1着でしょうから、これが党員の世論だと、説得もしやすい」
石破氏と高市氏の決選投票は、菅氏と麻生氏のキングメーカー争いにもなってくる。
岸田首相もキングメーカーになろうと勝ち馬に乗る?
「岸田首相の最大の功績は、派閥を解消したこと。それが総裁選の土壇場で派閥の論理が復活するとなれば岸田首相もつらいところでしょう。一方で、今後、自らもキングメーカーの一人として威光を発揮していくには、首相、総裁なので最高の舞台です。どこかで麻生氏や菅氏と通じて、勝ち馬に乗ろうとするはずです。なにせ旧岸田派からは2人が出馬し、議員票は一定数、岸田首相に近い場所にあるわけですから」
と話し、こう続ける。
「自民党は派閥を解消したものの、キングメーカーの解消までには至らなかったということです。新総裁がキングメーカーに操られているようでは、自民党の未来はないと思いますね」
(AERA dot.編集部・今西憲之)(AERA dot.編集部・今西憲之)
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