「真瑠子、明日は休みたから、ちょっとした仕入れも兼ねて、満月さんの所に行こう。
もしかしたら、2日位泊まることにするかも。
まぁー、毎年のことで、あるのだけど。去年は、都合で行けなかったけどね。真瑠子は、始めてだから、俺としたら、どんな顔をするのか、愉しみだ。」
何故突然、秩父の斑鬼の所に、行こうと思ったのかが、真瑠子には、分からなかった。
先日、深山家で、これと言って不満は、無いのだが、陸王に不満を爆発させたと言うか、結果、恥しさだけを露呈する八つ当り事件を起こしてしまった真瑠子には、何と無く、恥しい感じだ。
この恥しさも、陸王には、知られていると思うと何とも言えない。兎に角、恥しい。
だが、最近は……陸王の脳内を探れる様に、なっていた。その様に陸王が自身の、思考の扉を、開放しているから、当然の事なのだが、嬉しかった。
そして何より、こうした、テレバシーの様な事が出来るのは。陸王様と私だけらしいのだ。
それだけの事だが、とても嬉しい。自分と陸王との秘密だからだ。
「秩父で、何が有るのですか?東秩父には無くて、秩父には、有る物は……」
真瑠子は、スマホを見ながら、考え始めた。
陸王もスマホを弄り始めた。
が、直ぐに、ラインを打ち終わった。
「明日は、キッチンカーで行くか、真瑠子カーで行くか、それともフュージョンで、行くか……
どれにする?真瑠子が決めてね。」
少し、考えると答えは、簡単に出た。
「やはり、秩父ですから……フュージョンで行くのがいいですね。
それに、雨も無さそうだし。
後ですね……。私が陸王様と籍を入れた事をまだ、私の姉弟と、塔子ちゃん。佳美と冬子だけに電話で話しただけだから……
正直、ちょっと楽しみです。」
陸王は、了解してフュージョンで、出掛ける準備に取り掛かった。
真瑠子も家や車、自転車を仕舞、鍵を確認した。こんな時小さな家だと、心配事項が少くて済むのが嬉しい。
自分の家が、余りにも小さい事を、何だか変な気分だ。陸王様が、「この位が、丁度良いと、自分で拵えた家。同棲を始めてから、不思議な物で、これと言って不自由は無く過ごして来た。
と言うか、今迄のアパートの頃の方が、色々厄介だった気がする。
戸締まりも終え、陸王にしがみつき、フュージョン後ろで、くつろぎの体勢になった。
そして1番大切な、ヘルメットのマイクのスイッチを入れた。
こればかりは、テレパシーで繋がっていてもでも……、風の音で良く聞こえ無い(笑)
「陸王様……深山家で調べて居る、あの……黒い奴……何だったのでしょうね。」
真瑠子が、いきなり言い出した。フラッシュバックの様な事なのだろう。
「あれは、素敵な物では、なかったな。
多分斑鬼の所にも、連絡が行ってると、思うけど……満月さんの対応が、どうなるのかが、ある意味楽しみだよ。」
国道140号から南に進路を取り、大血川沿いに進んて、入沢沿いに入り、バイクでも…ちょっと狭い獣道の様な自然道を数十メートル進むと、場違いな程の広場になった。
「ここが到着なのですか?」
真瑠子は、その長い足を振り回し、荷台の大きなコンテナボックスを跨ぎ公園の様な処に、降り立った。
「またこっちから入って来たのか、楓は駐車場の方で待ってるぞ……」
「え……ちゃんとした道もあったのですか?陸王は、何の躊躇もなく、走って来たので、済みません。」
陸王は、心無しかゾワゾワし始めた。
「あっ陸王…………もしかしたら、真瑠子ちゃんに、今日の趣旨を何も話して無いな。」
真瑠子は、動き易い服装で、何日かお世話になるかもしれないから、着替えを用意してくれ……と言うのが、陸王との会話だった。
「何か大切な行事でもあるのですか?」
真瑠子は、恐る恐る満月に尋ねた。
「元々は、うちの方の何代か前のご先祖が原因でね……」
満月が、静かに話し初めた。
何でも、この秩父地区は、大昔から水山岳地帯で水も少なく、その上穀物の取れ高も低い。
なので村の為に、自分の山に渋柿6本。梅の木を9本。山栗を6本。
東の斜面に植えた。明治の中期までは、重宝したが………
戦後には、梅干しを漬ける者も、干し柿を拵える者も、干し栗を拵える者も数が減る、
という生易しい状況では無く、居なくなった。
それだからと言って、樹木を伐採するのも、忍びなく、満月から陸王に相談を持ち掛けられた。
南高梅の様な立派な、青梅。
勿論無農薬。
なので、梅シロップを拵える事にした。
以前は、喫茶店のマスターと一緒に店でも販売していたので、マスターか保存瓶を少しづつ貯め始め、今では、何十本にまで増えている。
しかし今の時期なので青梅だけなのだが、梅の木なのでは、あるのだが高さは6メートルは、超えている。なのて剪定もしているが、一本の梅の木で50キロ以上は収穫出来る。収穫するのも大変なのだがそれ以上に、ヘタを取り除く作業や洗う作業の方が、辛いのだ。
「なぁ、陸王……千枚通しみたいなやつは、持って来たか?」
フュージョンのトランクから、数本の千枚通しを取り出した。