美しい人びと 松園からローランサンまで | パラレル

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松岡美術館で開催中の「美しい人びと 松園からローランサンまで」展へ行って来ました。


松岡美術館は、松岡地所創立者の松岡清次郎が蒐集した美術品を公開するために設立した私立美術館です。

清次郎は、「優れた美術品は一般に公開し、一人でも多くの美術を愛する人に楽しんでいただこう。学術的価値のあるものは、その道の専門家や若い学究の研究資料として利用してもらおう。そうしてこそ私のこれまでの蒐集が意義を持つのではないか」と語っています。

 

当館は開館以来、所蔵品のみで展示を行っています。

これは、「私立美術館は美術品を蒐集した館の創立者の美に対する審美眼を、その一つひとつの美術品を通して、ご覧いただく方に訴えるべきところ」と考えた清次郎の意思によるものです。

 

本展では上村松園、伊藤小坡、鏑木清方、そしてフランスのマリー・ローランサン、ヴァンドンゲンらの女性像や男性像など、年齢や性別に囚われない美しい人びとを紹介しています。

 

まず目を引くのが、月岡雪鼎《傀儡之図》(江戸時代)です。

傀儡は人形操りの人形や、その芸能を意味します。

奈良時代には行われていた人形操りは、平安時代にあらわれた各地を流浪する芸人集団「傀儡」で男性が行いました。

傀儡の男性は木偶人形や剣を使った芸当をし、女性は今様や催馬楽など流行歌を歌い遊女のように共寝をしたといいます。

 

雪鼎は女性の人形遣いを単独像や、本作のように三味線の伴奏者との二人の図で描きました。

落款に「法橋」の文字が見えることから、本作は1765(明和2)年雪鼎が仁和寺より法橋位を賜ってから1778(安永7)年に法眼となるまでの間、40代頃の制作と考えられます。


月岡雪鼎《傀儡之図》(江戸時代)

 

蹄斎北馬《三都美人図》は三幅対の面白い作品です。

右幅は、新梅屋敷(現 向島百合園)の白梅香る早春の江戸美人です。

前髪辺りにはっきりと中剃りがみえ、江戸美人は女装した男性かもしれません。

 

中幅は、満開の桜を眼下に清水の舞台からひらりと飛び降りる京美人です。

江戸時代、清水寺では心願成就の「舞台飛び落ち」があとを絶たず、『清水寺成就院日記』によると1694(元禄7)年〜1864(元治元)年の間に234件記録され、本作のように「傘をさして飛び降りて、生還できれば恋愛成就」と信じられていたようです。

 

左幅は、住吉大社の太鼓橋を遠望する浪速美人です。

烏瓜文様の着物から季節は秋でしょう。

 

浪速の美人と、中幅 京美人の下唇は黒みがかった緑色に描かれています。

これは下唇に紅をたっぷり塗って玉虫色に光らせる笹色紅(略して笹紅)という当時上方で流行していた化粧法です。

北馬は、東西で異なるファッションセンスを細やかに描き分けています。


蹄斎北馬《三都美人図》(江戸時代)

 

松室加世子《竪琴》は異国情緒ある作品になっています。

加世子が、信仰に命を捧げるキリシタンの姿を描いた連作のひとつです。

歴史的な事件や事実を描くのではなく、自分の中で空想を広げた表現を試み、竪琴は神父が海外から持ってきたものと想像したといいます。

武蔵野音楽大学の古楽器をモティーフとし、絃は、同門の鎌倉秀雄の勧めにより、裁金という金箔を細かく裁断して貼り付ける技法で表現されました。

蝋燭の光に、爪弾かれた絃が揺らめくように輝いています。


松室加世子《竪琴》(1984(昭和59)年)

 

二つ目の会場、展示室5に入ると六曲一双の池田蕉園・輝方《浮舟・紅葉狩》に目が行きます。

左隻は輝方による、紅葉の名所が舞台です。

供連れの洒落た若衆と、すれ違いざま思わず彼を注視する良家の女性たちとの情景が、見どころを迎えた紅葉の下に華やいだ気分で描かれています。

芝居の一場面を見るようで芝居好きな輝方らしさが垣間見える作品です。

 

右隻は蕉園による、満開の桜の下、水面をゆるりと進む屋形船での花見の宴を描いた作品です。

豪華な衣装を纏う人びとが集う楽しい席のはずですが、舟縁にもたれる後ろ姿の若者から、どこかやるせない気分が漂います。


池田蕉園・輝方《浮舟・紅葉狩》(1912(明治45)年)

 

続いては、西洋の人びとです。

ルネサンス期に古代ローマ神話のヴィーナス像としてジョルジョーネら多くの画家たちが描いた「横たわる裸婦」像は、近代になると女神から人間の女性へと主題を転じ、物議をかもしながらも魅力的な画題として名作の数々が生み出されました。


ジャン=ジャック・エンネル《森の中に横たわる裸婦》

 

そして、本展の最後を彩るのがマリー・ローランサン《帽子をかぶった少女》《若い女》です。

《帽子をかぶった少女》は、ローランサンらしい、グレイを基調にほんのりピンクが添えられた少女は、夢見るような眼差しで微笑みを浮かべています。

 

《若い女》は、そんなメランコリックな表情ではなく、曖昧だった輪郭が明瞭になり、色彩には黄色やオレンジの暖色が加わります。

この若い女性は瞼や鼻筋が明確にあらわされ、眼差しにはっきりとした意思が宿っています。

薄絹を重ねたような衣装は、ローランサンが手がけたディアギレフのロシア・バレエやコメディ・フランセーズなど舞台美術からのモティーフでしょう。


マリー・ローランサン《帽子をかぶった少女》(1924年頃)


マリー・ローランサン《若い女》(1937年)

 

本展では、著名な「美人画家」たちの作品とともに、西洋絵画も紹介しています。

東西の美しい人びとを鑑賞できる展覧会です。

また、多彩なコレクションを持つ同館では、『情景のペルシア』展が同時開催されています。

異国情緒あふれる器も堪能できます。

おすすめします。

 

 

 


 

 

会期:2023年2月21日(火)〜6月4日(日)

会場:松岡美術館

時間:10:00〜17:00

  ※毎月第1金曜日は19:00(入館は閉館30分前まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)