先週の週末、江田島に旅行に行った。


とても良い所だった。

穏やかな海。穏やかで澄んだ空気。

こじんまりして、居心地のよい旅館。


旅館の方のすぐ前に、海水浴場があった。

小さな海水浴場。

沖には、ボートくらいのクルーザーが停船できる、場所があった。

浜辺からは歩いていける距離だった。


夜、私は妹ふたりと散歩に出かけた。


海岸に沿ってブラブラ歩いた。

宿で借りたランタンをぶら下げながら。

せっかくだからと、停船所に行くことにした。


初めはコンクリートで作られた、しっかりした道。

途中、プカプカ浮かぶ桟橋になった。

そこで、何かを私は感じた。

何かの気配。背中に感じた。

怖いとか、そんなのはなかった。

ランタンの灯のみでの桟橋は暗く、私達は早々に引き上げた。


桟橋からコンクリートの道に移って。

気配は消えた。


私は言った。

「何かいたね」

妹達は悲鳴を上げた。

「アホなこと、言わんといて!」

「怖いやん!」

気のせいかなあと思い、その日は何事もなく寝た。


翌日。

快晴だった。

雲一つない、濃い青い空。

その下、鮮やかな青のグラデーションを見せる海。

朝早くから、海で遊びをしている人がたくさんいた。

私は、ひとりで桟橋に行くことにした。


爽やかな空気のなか、人々の楽しそうな声を聞きながら歩く。

風は強いが、気持ちはとても良い。


桟橋に近づいて、足を踏み入れた。

やはり、気配がした。

そのまま、停船所まで進む。

船を付ける場所。眼の前はもう海という所でしゃがみ込んだ。

すぐそこには、綺麗な青い海。


後ろにそれはいた。

私の背後に、ぴったりと。

気のせいてはなかった。


ふと頭に浮かんだのは、真っ黒な人のようなもの。

怖い、と思った。

その気になれば、それは私を海に付き落とせる。


しばらくしゃがんで、海を見ていた。

それはずっと、私の背後に張り付いていた。


よいしょ、と立ち上がり。

桟橋に向かった。

それも付いてくる。

何か言いたげな感じがした。


桟橋から抜けたとたん、気配は消えた。

振り向くと、そこにあるのは、綺麗な青い海。

海遊びに興じる人々の歓声。


それは、海から離れられないのだな、と思った。


それから私は考えた。

観光したり、帰宅の新幹線の中でも。

すっと。


それは、何がしたかったのだろう。

怖くもあった。

でも、悲しみも感じた。


私は思った。

私に、あなた達を癒す力はない。

でも、あなた達を感じて、あなた達の悲しみに心寄せることはできる。

あなた達が、少しでも楽になるよう、祈ることはできる。


私はそれを必要以上に怖がらないよう、それの為に祈った。