自分が手話を学びはじめたのは、高校生2年生のときです。入門レベルが終わったころには、もう地元で手話通訳派遣を受けていました。技術などなにもないのですが、「いないよりまし」と言われて、ときおり派遣されていました。
手話通訳で嫌な思いをしたのはいくつもありますが、一番嫌だったのは、ろう者の結婚挨拶の手話通訳です。ろう者通しの結婚で、その親に結婚のあいさつに行きたいと言うのです。しかし、その片親が大反対なのです。二人は結婚したいのでしょうが、その親はまったく許したくない。行ったそうそうから、「早く帰れ」と言われてしまいました。手話通訳を連れてくるのも嫌なんだと言われて、第三者の自分も立つ瀬がないんですね。依頼された以上はきちっと通訳しなければならないのですけど、よくは思われていない通訳だったので。
映画の話にもどりますが、電車の中で聞こえる息子と、聞こえない母親が手話で会話をするシーンがあります。ろうの母親が、「みんなが見ているところで手話で会話してもらってうれしかった」というわけです。人前で手話をするのは恥ずかしい。息子もそう思っていると思って、母親も遠慮していたのでしょう。ところが、平気で手話を使って会話をする息子をみて、恥ずかしいと思っていないと気づいたのです。
人前で手話をしてはいけません。昔はそういう時代でした。