ブラックジャックだったら本当に治せたか考えてみる

 最近絶賛手塚派まんが道を爆進中である。手塚派を爆進するには50年ほど遅い気がするが今さら爆進する。今さらと言っても高校くらいの頃いくつか読んだので知ってる作品は知ってる。新しく読むことは、まず漫画を手に取らない生活になったので全部記憶から出す。手塚先生もアメリカからアシさんに指示を出すとき全部思い出していたらしい。一緒にするな!と言われそうだから次に行く。

 手塚先生の代表作の一つブラックジャックはイメージよりずっと治すの治さないのという話が少ない。治せるのは当然としてどう通すとか、治したけどこの人どうなるの?みたいな方に振れることが多く、まず治す治さないの話がないことも多い。ふと頭をよぎった回に、「報復」というのがある。海外の金持ちが孫を助けて欲しい、難病を治してくれ!と頼みに来るがああいう先生なので絶賛逮捕中だ。ブラックジャックだって牢屋から出してもらえなければ手術ができないし、牢屋に放り込んだのは他ならぬ日本医師連盟、医者が医者を閉じ込めて出さないという状況。ブラックジャック以外はダメだ!という金持ちはついに折れざるを得なくなり、日本の医師に任せたら手をこまねいているうちに発作が起きてあえなく子どもは死ぬ。ブラックジャックもさすがに残念そうで、ギャングの部下に息子を撃たれた日本医師連盟の会長はブラックジャックに泣きつくんだけど……という話。オチをぼやかしているみたいに書いているけど最後の二コマ以外全部書いちゃってる、だいぶ前の漫画だしいいか。とても手塚派とは思えないスタンスで本題に入ろう。

 この話、子どもがかかったのが本気の難病のはずで、これがこうでああで……と素人了見で考えたらブラックジャックであろうと治せそうにない。ジャック先生は鮮やかに治すのと同じくらい頭を抱えていることも多い。治せないときは治せない。治したいのに治せないからいつも苦しむ。誰でも彼でも引き受けたら先生やってらんないのよさ、気に入った人か金より命な人しか治さない。金より命な人は気に入る傾向があるので「お金どうでもいい」と思っていたら治してもらえるかもしれない。

 問題の「報復」回の難病だが、記憶の限りでは治せそうにないのに「ブラックジャックがいれば治る」という感じのストーリーだった。治せるのだろうか。素人了見では無理そうだが素人通り越してバカになれば治せるかもしれないのだ!考えてみよう。バカ田、バカ田~♪と歌いながら文庫本を探した。なんとなく売り払わずにキープしている漫画の中にブラックジャックもある。

 今は「報復」と区別のために書いているが思いだした段階では「こういう話があったけどなんだっけ」とサブタイトルもわからない。ネットでサブタイ一覧を見てこれっぽいなとあたりをつけ文庫版六巻を読み直す。たぶん手塚先生が判断材料を描いているはずである。

 病名は本態性なんちゃらかんちゃら、ここはどうでもいい名前なので飛ばす。孫を治してほしい!と頼んできたイタリアの億万長者ボッケリーニさん。ぎゃー!でもまあこの人は作中すでにイタリアンマフィアのボスと明言されてるようなもんで、今さら驚かんでもよい。驚いたけど。お孫さんのピエトロが病気で困っている。ピ、ピエトロ!と一回驚いて「ピエトロが吸血鬼なのは別の漫画だ」と調べてから気がつく。血液の病気だから吸血鬼伝説の元ネタになった病気かと思った。いろいろごっちゃにしすぎだ。一人で焦って一人で落ち着いて、次に進む。

 病気のピエトロはろれつが回っていない。子どもだから喃語なのかと思いがちだが子どもだってはっきりしゃべらせようと思えば吹き出しの中のことだからその範囲、喃語なのかろれつの問題なのかわからない年齢の患者だ。ほとんどの読者が喃語だと考えるはずで、ろれつが回っていない可能性が同時に存在するけどみんな気にしない。「漫画だから」ここは要チェック。

 一応CCUというなんかそれっぽいところに入れられるピエトロ、それ相応に検査を受ける。薬品で何かしてたり、超音波かなあという感じの器具を当てられたり。はっきりわかるのはレントゲン、これは腰骨でこれは肋骨周りで……よく見たらどこを撮ったかわかるように描き込んであるけど医療現場の常識を知らないので全部はわからん。医療現場の常識なんて五年に一回くらい「新常識!」と言って変わるのでもう誰もわかるまい。

 日本医師会の病棟で「どーしようもない」と診断が出る。だから医者を探してるんだろーが!というおじいさまのお怒りもごもっともな中、発作が起きてピエトロは幼い命を落とす。後ろの天馬博士がなんか読んでるけどここは流す。おじいさまは「ブラックジャックなら治せる」と考えていたし、この話の根本として「ブラックジャックさえいれば!」という点が確定している。治せるかどうか、バカ田大学を第一志望にしている僕がわかるのだろうか……と思って読んでたら、案外わかった。原因を間違えてるんだ。

 日本医師連盟の人たちは、血液の病気だからと言って血液しか見ていない。薬品を使った検査は体液とか体組織、超音波エコーは異物の有無、レントゲンは骨格と臓器。血管が詰まる病気だと言ってるのに、誰も血管を見てない!医師連盟の会長が「血液凝固阻止剤は?」とそんなもん入れたらそれこそ死ぬだろうとバカ田の一つ前の素人でも思うことを叫んでいて、とりあえずここではヤケになっているのだろうと好意的に(?)解釈しておくがこれも血液の話、血液が固まらなければいい!というところから動かない。これは狭窄というやつなんだから、

血管が細くなって詰まりやすくなる → 血液がたまっていく →血栓になる

 というルートがまず間違いなくある。血管に引っかかりができてそこで血が固まるなら、根治解決を目指すなら血管を治すべきだ。治すどころか見てもいない。ヤブ医者にかかったから死んだのであって、ブラックジャックどころかまともな範囲の医者なら余裕で治せる!作中に何人かいたブラックジャックのお気に入り、椎茸先生とは言わずとも田舎で無免許医やってた五十の手習いおじさん(名前忘れた)でもたぶん治せる。前屈の時に後ろから軽く押してやるとか一緒に散歩するとかで十分治る可能性が、とっても高い。全部調べたつもりで原因だけはすっぽ抜けてたから死んじゃった!と困る日本医師連盟の元ではそりゃあ医者なんかできない、免許はあっても漫画家になりましょう。