どうやったら、振動を減らせるか?

 

この記事を読んで分かること

 

外力を受けて振動する製品の防振・免振設計の計算を実験と理論計算で説明しています。

 

モーターの振動が製品に伝わるのを防止する、

建物の免振など。

 

モーターが振動する時の異常音防止などで、

しっかり固定したほうがいいのか、

柔らかい材料で振動を吸収すればいいのか、

どちらがいいでしょうか。

 

振動伝達率を下げて、振動が伝わりにくくする方法について、説明します。

 

元になる振幅をU、

振動を受ける側の振幅をA、とする場合、

 

振動伝達率 A/U

これをできるだけ小さくすると、振動源から製品に振動が伝わりにくくなります。

 

動画にしました。ぜひ参考にしてみてください。

 

 

 

どれぐらい減らしたら、免振と言えるのか?

 

目安は、

A/Uの比率が100%未満で、免振できている。

元の振動より、伝わった先の振動を小さく(100%未満)している場合は、免振できています。

 

10%ぐらいが、良好な絶縁と言えます。

振動が10分の1になった、という意味です。

 

何をどうしたら、免振できるか

ばねの力と振動源の質量とを使って、免振になるように設計できます。

 

ブランコをこぐとき、足をばたばたするだけでは、ブランコは揺れません。

ブランコが揺れやすいタイミングに合わせて、体重をかけるとブランコは揺れます。

座っているより、立ってこぐと、体重移動が大きくなって、ブランコを揺らしやすくなります。

 

振動も同じ。

 

ブランコが揺れやすいタイミングは、固有振動数。

この記事では、抵抗力がない時の角振動数ω0、と表現しています。

 

固有角振動数ω0は、ばね定数k、モーターなどの質量mで決まります。

 

(定数:従来はじょうすう、と読んでいましたが、近年ではていすうと読むのが正しいとされる)

 

体重移動する頻度。どれだけ早く移動するか、遅く移動するか。

モーターの回転数を角速度で表現した、ωで示します。

 

振動を伝えにくくしようとしたら、ブランコが揺れにくいタイミングで体重移動したらいい、

または、ブランコのロープの長さを変えてみる、そんな感じです。

 

目安は、

ω=ω0

これだと、ブランコは勢いよく揺れます。共振状態と言います。

 

ω/ω0>√2

であれば、免振。振動を伝えにくくできています。

 

ω0が小さいほど良い。

 

これは、後で述べる

ばね定数k を小さくする→柔らかく保持する

質量m を大きくする→振動源の質量を増やす

ことで実現できます。

 

地震に対して、建物を免振する場合は、建物の質量を増やすと揺れにくくなる。

 

計算に必要な情報

 

モーターの振動が、製品に伝わりにくくすることを検討する場合は、

モーターの振幅 U

製品の振幅 A

 

地震で建物が揺れないようにするためには、

地震の振幅 U

建物の振幅 A

 

対策に必要なデータは、

 

対象物の質量 m

対象物を支える構造のばね定数 k

振動源の周波数 f(または角振動数 ω、回転数など)

 

ダンパなど振動の抵抗力 γ、もしくは、

対象物を減衰振動させて測定できる、1回目の振幅A1、2回目の振幅A2の比

 

計算式

 

1. 抵抗力がない時の角振動数 ω0

 

ω0=√(k/m)

 

k 

ばね定数。ばねを1m延ばすのに、何N(ニュートン)の力が必要か、という数字。

大きいほど変形しにくい強いばね。

 

m

振動源の質量。kg。

 

2. 抵抗力の大きさを表す係数、γの計算

 

δ=ln(A1/A2)

γ=2ω0δ/√((2π^2)^2+δ^2)

 

え~っと、γってどう計算するの、とか、1回目の振幅、2回目の振幅とか、測定できないよ、という場合は、

ざっくり計算を、後で説明します。

 

3. 振動源の角振動数、ωでの、振動伝達率

 

ω=2*π*(振動源の周波数f)

これは、仕様書などでわかっていたらそれを使ったらいいですし、

測定してもいいです。

 

4. 式

1~3を、次の式に入れると、

振動伝達率 A/U が計算できます。

 

A/U=√((ω0^4+γ^2ω^2)/((ω0^2-ω^2)^2+γ^2ω^2)))

 

A/Uが1以下だと、製品の振幅Aは、振動源の振幅Uより小さい、免振できている、と言えます。

実験してみました

 

振動モーターを、ばね定数が小さい、中ぐらい、大きい、の3種類の固定方法で、容器に固定して、騒音を測定しました。

 

実験1 ばね定数が小さい(輪ゴムで固定)

 

 

 

 

モーターの振動数82Hz(4,920 RPM)以外では、-60dB程度です。

 

実験2 ばね定数が中ぐらい(串と輪ゴム)

 

 

-51dBと大きくなりました。

激しく振動しています。

 

実験3 最後、ばね定数が大きい(串で固定)

 

これも-50dBぐらい。

甲高い音がします。

 

実験結果を、振動伝達率の計算値と比較

 

実験1の計算例です。

 

対象物の質量 m 0.003kg (3g)

対象物を支える構造のばね定数 k 50N/m

 

これで、抵抗力が無い時のω0を計算できます。

ω0=√(k/m)=129.1 rad/s

 

振動源の周波数 f 4,920 RPM。角振動数で表すと ω 129.1 rad/s。

 

γの計算

 

δ=ln(A1/A2)

 

実験で得られた

A1 12 mm

A2 8 mm

より、

 

δ=0.4055

これを式に代入して

 

γ=2ω0δ/√((2π^2)^2+δ^2)=5.3026

 

ここまで計算したら、振動伝達率を計算できます。

A/U=√((ω0^4+γ^2ω^2)/((ω0^2-ω^2)^2+γ^2ω^2)))

=6.79%

 

つまり、この実験では、輪ゴムぐらいの小さいばね定数だと、振動伝達率を下げることができます。

 

実験では、容器の重さが軽かったので、効果が微妙でしたが、

実際の製品設計で、

容器の質量>>モーター(およびその分銅)の質量

であれば、効果がはっきり見られると思います。

 

 

右端の赤い点が、モーターの回転に相当する角振動数。

グラフの頂点(共振点)から十分離れている。

 

実験2の計算

一方、同じ計算を、ばね定数中ぐらい、の試験に当てはめると、グラフは、

このように、共振状態であることが分かります。

 

実験3の計算

最後に、ばね定数が大きい場合。

振動伝達率は1以上で、免振とは言えない。

 

まとめ

 

今回は、免振設計を、実験と理論計算で調べてみました。

 

免振設計、共振点をずらして(√2以上)対策する以外では、

剛性を上げる、

質量を増やす、

ゴムや、バネを変えてみる、

ダンパを追加してみる、

制振材を貼り付ける、

などがあります。

 

これらの対策でうまくいかない場合、あるいは、対策コストのわりに効果が十分でない場合、

計算して対策検討してはいかがでしょうか。

 

また、今回の計算を使って、「わざと振動を強く見せる」ということもできます。

共振点を合わせるようにすると、派手に振動します。(実験2)

抵抗力の大きさを表す係数、γのざっくり計算

おまけ。

 

今回の実験で得られた結果を経験値として、ざっくり下記のように計算してもいいでしょう。

 

今回の実験、計算は、特に説明しませんでしたが、「減衰振動」の計算です。

 

振動源のモーターが止まったら、製品の振動はしばらく続くが、そのうち止まる。

地震が止まったら、建物の揺れはしばらく続くが、そのうち止まる。

 

そういうタイプの振動。

 

この場合、γは

2*ω0

より小さいことが知られています。

 

小さいほど、揺れが長く繰り返す。

 

ですから、ω0が分かれば、

 

いつまれも揺れているな、と思ったら

γ=0.02*ω0

ぐらいで計算していいでしょう。

 

すぐ止まるな、と思ったら、

γ=0.2*ω0

ぐらいで計算していいでしょう。

 

よくわからない、という場合は、

γ=0.1*ω0

でざっくり計算していいでしょう。