『PERFECT DAYS』。(パーフェクトデイズ)
カンヌ国際映画祭で主演の役所広司が男優賞を受賞した作品だ。
鑑賞前の情報で、
監督がドイツ人であること、
主人公平山(役所)が初老で寡黙で、生業が公衆トイレの清掃員であること
などから、日本人に対する思い込みあり、初老男性のありふれた孤独ありの
普通の映画と思っていた。
でも違った。
平山の判で押したような日常は、彼が必死でしがみつく唯一無二の彼の人生そのものである。
彼の日常は人を憎んだり恨んだりしなくていい世界、
差別のない公平な世界だ。
そこで彼は「好きなもの」を慎重に選び、求め、愛しむ。
消極的で意気地のない生き方だろうか。
違う、と思う。
差別のない公平な世界で生きることの晴れがましさー彼にはそれがある。
人が人生をかけて辿り着いた幸福感ともいえないか。
映画では平山のそれまでの人生についてほとんど触れていない。
圧倒的な幸福感を前に、過去の説明は無用なのだと感じた。
ラストシーンが素晴らしい。
平山を幸福感へ誘う好きなもののひとつに
職場への行き帰り、車中で聞くカセットテープある。
繰り返し聞くことで彼の感情と一体化したかのような名曲たち。
この日、朝焼けの中、仕事に向かう車中を流れるのは、
ニーナ・シモンの『Feeling Good』。
リフレインされる歌詞がある。
It’s a new dawn,it’s a new day,it’s a new life for me
(夜が明けて、新しい一日が始まる、さあ、私は私らしく生きる)
And I’m feelin’good
(なんていい気分)
ここ数日、平山には人の優しさに心揺さぶられるいくつか出来事があった。
歌声に気持ちが高まったのか、
ハンドルを握る彼は泣き笑いのような顔になっているー
私は大切な人を送った。
これまで、何度も取り返しのつかないことをしてきてその度に
落ち込み苦しんだ、と思ってきた。
でも、それは間違いだった。
彼を失うことこそ取り返しのつかないことであって、
それ以外のことは、いくらでも挽回できて、実際そうしてきたではないかーと。
そう考えて
彼はそれを気付かせてくれたのだと悟った。
これからの人生、何も怖がるな、と私に告げているのだ、と。
『PERFECT DAYS』。
ラストの主人公の泣き笑いの顔。
私も確かに同じような顔をして
ありがとう、何度もそう言ったのを覚えている。