稲田には外見の善し悪し云々というより、「一目惚れをされたい」と言った様な感じの欲求があるみたいです。
子供の頃に読んだ漫画、視たTV(ドラマやニュース、バラエティ番組等)、実際に「誰が誰に一目惚れした」という現実や噂話を見聞きしたりして、「恋愛=一目惚れ=そんな自分は素敵」と言った観念を仕入れたのかも知れません。
もっと言えば、「相手も自分もお互いに一目惚れした者同士の恋愛」に強く憧れていたのでしょうか。
稲田から見た稲田の姿そのものは、贔屓目無しに客観的な判断を下せば「外見自体はそれほど酷くは無い。顔も体型もトータルで見るならそれなり」です。
少なくとも外見に何の問題も見ません。
では、何を問題にしているのかと言えば、「自分は一目惚れをされるか否か」という点です。
稲田は「本当の意味で一目惚れをした事があるのか?」…を出来る限り過去に遡って思い出そうと試みました。
その結果、一目惚れ同士の恋愛に憧れた事はあっても、実際に一目惚れをした事も無ければされた事も一度もありませんでした。
思い出せないだけで一度はあったかも知れませんが、それを加味しても稲田は「一目惚れをするタイプでも無ければ、されるタイプでも無い」と言えます。
ですから、稲田にとって「一目惚れを期待する事は正しい意識の在り方ではない」という事になります。
「一目惚れ=外見の善し悪しを決める重要な要素」という固定観念も手伝って、「一目惚れをされない自分はダサい」とか、元々は関係無い要素である外見をも貶めていたのかも知れません。
結論として、稲田は今の今まで「一目惚れ同士の恋愛を追い続けていた」という事になります。
タイプの女性を見る度に感じていた、あの刺激的なポジティブ感は、それを期待しているからこそ起こる反応だったのでしょう。
そこで、今度は過去に実際に交際した時、あるいは交際には至らないまでも心地好い関係になった時を思い出そうと試みました。
何れも、「年単位での何らかの交流が継続されている」というパターンがそこに在りました。
このパターンは一目惚れとは正反対であります。
以上の事から見えるのは、稲田は「速攻で(急いで)距離を縮めるタイプ」ではなくて、「縮めようと意識していなかったのに、気付いたら縮まっていたというタイプ」という事です。
それは恋愛に限らず、全てにおいてそんな感じです。
「何を得るにしても急ぐ必要は無い。むしろ急いだら駄目」というのが、稲田の性質なのでしょう。