むかし家今松 | 古今亭志ん輔 日々是凡日

むかし家今松

$sinsukeのブログ

錦魚兄の家は、前座の溜まり場だった。そこへ行けば、誰かが飲んでいた。その日、錦魚、扇好、朝太、〆治は、外でだいぶ飲んでいた。家に着くと「ちょっと、飲み足りないねえ」「でも、もう酒ないんでしょ」「ないない」「何言ってんの、馬鹿にしちゃあいけないよ」そう言ったのは錦魚兄のオカミさんだった。飲み会で同席していた女性の家にそのまんま居ついてしまった錦魚兄だった「馬鹿にしちゃあって、何かあるの」「ジャーン!Old Parrじゃあ!」「ウワッ、見たことあるけど、知らない。ねえ、これって良いウィスキーなんでしょ。サントリー?」「無礼者!スコッチの名品でしょ」なんにも知らない前座達だった。味わうこともなく、スコッチの名品は、あっという間になくなって行った。「アッ、時蔵呼ぶの忘れてた」「不味いんじゃない、あれ、うるさいよ」「だよな」すぐさま電話「うん、そうなの、スコッチの名品が手に入ったの。サントリーじゃないよ、来る?」両国から雑司が谷まで、どうやって来たのだろうか、凄まじい勢いで駆けつけて来た時蔵さんだった。Old Parrの空瓶にはサントリーレッドが灯油のポンプを使って注入されていた。悪気ではない、せめてもの心だった。「Old Parrだって」「う、うん、そうOld Parr・・・」時蔵さんがロックでグビッと飲む所を、他の全員は固唾を呑んで見つめていた。「・・・」「どう?」「ヒッヒッヒ、クゥー、違うねえOld Parrはさあ」「・・そう」「まあ、お前達には分からないだろうなあ、この香り。例えて言うなら・・・そう、灯油にも似た香りの良さだなあ・・うん!」「はぁ、成る程・・・」みんな一緒に笑った、卑屈な笑いだった。