2009年06月28日

龍工房

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組紐の展示会は人形町で開かれた。毎年夏になると悩むことがあった。羽織の紐のボリュームだった。薄い羽織に名店の紐は重すぎた。男物が売れない呉服業界では需要があっても少ない需要に応えることは出来なかった。店を訪れたのは春だった「こんな羽織紐が欲しいんだけど」「入れしいなぁ、丁度いま作ってるところです」「いつ出来るの?」「展示会がありますからお知らせしますよ」心待ちにしていた日が来た。6月10日人形町の会場は静かな熱気に包まれていた。希望通りの紗の羽織紐を購入して展示場を拝見していると「これいいでしょう」「なに?」「帯揚げですよ」「帯揚げ!」帯揚げはその柄までは見せられない「絞りでね、大きな赤い丸は浮き、釣り糸は金糸、釣られているのは鯛、ねっ可愛いでしょ」自分のデザインを自慢げに話していたその人は、それでも無邪気に笑っていた。「いいなぁ女の人は楽しみが多くって・・」今まで無邪気だったその人が「でもねぇ、そんな楽しみを見逃す人も多くって」今度は少し寂しい顔になっていた。
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2009年06月19日

浅草ホッピー通り

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浅草演芸ホールに程近くにその通りはあった。「昼日中からなにやってんだい!」おかみさんの罵声が聞こえてきそうな時刻だった。土曜日曜には馬券を求めて場外馬券場周辺は一種独特の空気が漂っていた。勝った負けたの鬼気迫る雰囲気とはかけ離れたアットホームな空気がそこにはあった。フランスにもイタリアにも行ったことはないけれど、でもシャンゼリゼ通りで、ミラノの通りできっと見受けられるであろうそれに似ていた。肴は生ハムではないもつ焼き、ワインじゃあないホッピーを傾けててはいるけれど気持は同じ、今日のこの時をどれだけ楽しく愉快に過ごすかだった。刹那の楽しみ、束の間の喜びに違いはないけれど、浅草に今までと違う空気が流れ始めたことに間違いはなかった。
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2009年06月07日

キッチンあづま

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「おいメシ食ってきちゃえよ、お前今日昼夜だろ」
前座は昼席夜席のどちらかで半日を過ごす。時として落語会の手伝いで寄席を休まなくてはならないことがある。
「代わりが見つかんないんだよ、悪いけど昼夜やってくんねえかな」「いいですよ」
お互いさまのこと、断る者はほとんどいなかった。
「はい、じゃあちょっと失礼します」「ジュウジュウ焼きか?」「えっ、ムリでしょう」
末廣亭隣にあるキッチンあづまのジュウジュウ焼きは鉄板の上にキャベツその上に豚肉を重ねて焼き上げる。特製のタレをかけるとジュウジュウとハネたタレは肉汁の香気を放って天井に立ち上った。
「いいよ、食って来いよ」
よく働く前座には兄弟子達が5日目に小遣いをくれていた。勿論自前のこともあるけどそんな時もあった。
「いいんですか」「いいよ」「ごちそうさまです」
ジュウジュウという鉄板の音だけで満足だった。白飯を頬張る前座は間違いなく夜席への英気を養っていた。
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