職場に嫌いな人が1人いる。
自分で分析してみると、実に他愛ない事が原因で、その人を嫌っている。ひとえに男として器の小さい、至らなさから来ている。仕事が出来ない事について、そして出来ない理由の、言い訳を並べ立てられる事に対して、ついつい、とやかく言ってしまう。要はオレ自身の器量で、采配すれば片付く問題の筈なのに…
その女性は肥った50代の女だった。
本名にしないで仮名にすると、嘘っぽくなるので、実名にした。彼女は池という。
社内で避難訓練があり、身体の不自由な児童を抱き抱えて搬送しなくてはならない。
その為大人1人でも児童を抱いて運べる、担架があり、予備訓練を試みた。
五十嵐さんという40代の女性が、あたしが実験台になると立候補してくれた。
続いて30代の山本さんも「私も乗ってみた〜い」と協力に両手を上げてくれた。
訓練に協力してくれて有り難いとはいえ、内心大変だと思った。1人で成人女性を抱き上げなくてはならないからだ。
その時、ほんわかムードを打ち破るただならぬ殺気を感じた。
誰だ?
オレを凝視している視線の主は?
それが池だった。
普段人の嫌がるトイレ掃除とか、床の掃除機がけとか、その他一切の雑用を率先して、やろうとしない池さんが、我こそはその担架に揺られてみるべきではないかと、オレに自殺を求めるかの空気を醸し出す。
「な、分かってるよな」と湿り切った熱帯モンスーン気候のようなテレパシーを、繰り返し繰り返し送り続けていた。
見た目池さんは90キロは有りそうだ…
池さんがのったら、右肩骨折、左肩脱臼は免れない。
だからテレパシーの発信を障害を起こして、食い止めなくてはならない。
「あ〜、OK、五十嵐さんならやってみようか」
「そーだね〜、山本さんなら楽々だよ」と、
懸命に防波線を張り巡らした。
が、その時池さんは、オレの防波線をもろともせず楽々突破して、明らかにこう伝えて来た。
ワ゛ダ ジ モ゙ お姫様抱っこしてほしい。
オレは………叫んだ。
もう死む〜!
ブルブルブル
ダメダメダメダメ
クワバラクワバラクワバラ
アワアワ泡
ブルブルブル
ダメダメダメダメ
クワバラクワバラクワバラ
アワアワ泡
…逃げても逃げても無駄なんです。