なるほど、そういうことか、と思った。
雨が残る駅前、希子と一緒にいたのは、北人だった。
図書室に寄るから先に帰ってて、そう言われて、俺は一人で学校を出た。
だけど、駅に着く頃に雨が本降りになってきて、希子のことが心配になった。
"傘持ってる?"
"今どこ?"
何度かラインをしても、全く既読にならない。
あんまりしつこくするのも性に合わなくて、そのまま電車に乗ったけれど、どんどん強くなっていく雨と共に俺の心も同じようにざわついた。
普段、スマホの返信は早い方の希子。
もしかしたらこの雨で、事件とか事故や、変なことに巻き込まれていたら。
いや、もしそうでなくても、傘を持たずに、学校から出れずにいるのかもしれない。
とうとう俺はもう一度電車に乗り引き返した。
迎えに来た、と引かれたとしても、傘がなくて濡れていたら心配だった、と伝えよう。
再び駅に降り立った時、スマホを確認したけれど、やっぱり既読は付いていない。
今どこにいるのだろう、着信をかけた瞬間だった。
見えたのは、希子の後ろ姿だった。
こちらに背を向け、誰かと向かい合っている。
その向かいにいたのは、北人だった。
一瞬にして、心臓がドクン、と跳ねる。
二人は、一つの傘を分け合うようにして立っていた。
希子、とすぐに声をかければよかったのかもしれない。
傘がなくて、北人が送ってくれたんだ、ありがとう、って言えればよかったのかもしれない。
今、希子に一番近いのは、この俺だ。
北人なんかよりも、俺が一番、希子に近い存在なのだから。
だけど、二人のその異様な雰囲気に、俺の足は一歩も動かなくなってしまった。
ぽつぽつ、と雨が弱まっていく中、二人のシルエットが、完全に、一致した。
スマホを持ったままだった右手がだらん、と下に垂れる。
ふらりと、体ごと揺れてしまいそうだった。
やっぱり、希子は、北人のことが好きなんだ。
俺がどんなに希子のことを好きでも、彼女の気持ちは、抑えられないのかもしれない。
俺が希子のことを好きな気持ちが、消えないのと同じように。
そう思わせたのも、二人のシルエットが重なったのは、希子の方から近づいたような気がしたからだ。