片隅 北人⑥ | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

季節はいつの間にか、十一月の末になっていた。



希子とあまり話をしなくなってから、もう一ヶ月近くが経ってしまっている。



最近は、席も近くないし、放課後も忙しくて、みんなで揃って集まることも少なくなった。



反対に、夏喜と希子が、どんどん距離を縮めているように思う。



放課後は、いつも二人で一緒に帰っていく。



もしかしたら、もう付き合っているのだろうか。



いや、黎弥や颯太、周りも何も言わないし、多分、まだそういうわけではないと思うんだけど。



だったら、今が最後のチャンスなのかもしれないと思う。



希子に想いを伝える。



夏喜と付き合ってしまって、二人が手を繋いだりキスをしたり、そんなことをしているんだと考えると、嫉妬で頭がどうにかなってしまいそうだ。



そうなる前に、と思うけれど、今さらどんな顔して、好きだと言えばいいんだろう。



夏喜と付き合ったらいいやん、と俺は言った。



"私が、なっちゃんと付き合っても、それでいいと?"



そう言った希子の顔は、何だかとても悲しそうだった。



あれは、いったいどういう意味だったのだろう。



"もういい"



と突き放されたあの時から、うまく希子に話しかけられずにいる。





はぁーー、っと長いため息をついた。



自分の部屋のベッドに座り、開いたカーテンの隙間から覗く、星空を見つめた。





「すっげぇ長いため息」



自分じゃない声がして、驚いて振り向いた。



すると開け放ったドアの入り口に、左肩で寄りかかって立っている颯太がいた。



「は?何しよっと?」



「一応ノックしたっちゃけど」



言いながら、颯太は部屋に入ってきて、ベッドの縁に背中を預けて、床に座り込んだ。



「いやいや、全然聞こえんかったし。第一、何しに来たと?」



「いいやん、別に。中学ん時からよう来よったし。おばさん、快く招き入れてくれたけん?」



ちっ、とため息が出そうになる。



確かに、中学から一緒の颯太とは、その頃からよく一緒に遊んだ。



こうして家にも遊びに来たことは何度もある。



家も近い。



だけど、いきなりどうしたというのだろう。



「数学の教科書忘れたっちゃん。宿題出来んけん、北人に借りようち思って」



「さすが。真面目やな」



俺だったらきっとそういう時は、もう宿題なんか諦めるのに。



「そこ、カバン入っとるち思うけん、持ってってよかよ」



「サンキュ」



颯太は床に転がったままの俺の通学カバンを開きだした。



「で?何のため息やったと?」



「……」



そう来ると思った。



颯太がこういうのを聞き逃さないはずがない。



いつだって好奇心の塊だ。



「別に…」



「希子なぁ、夏喜に取られそうやもんなぁ?」



数学の教科書をパラパラめくりながらさりげなく言う颯太に、ぐっと喉が詰まる。



気付かれているだろうことは分かっていたが、本当にそう言われると、自分が情けない人間に思えてくる。



「いいと?このままで?」



「いいと?っち言われても…」



「まぁー、俺は別にどっちでもよかけどね?でも、希子の気持ち考えるとなぁ…」



「え、颯太希子の好きな人知っとると?」



「は?」



前のめりになって颯太の肩に手をやると、颯太は怪訝そうな顔してこちらを振り向いた。



希子の好きな人は颯太ではない。



颯太と希子は、何だか友情だけではない特別な仲の良さがあった。



だから俺は颯太のことが好きなんだと勘違いした。



そんな颯太は希子の好きな人を知っているのだろうか。



「北人、マジで分からんと?」



「…分からん」



お手上げだ。



この、颯太でもなければ、おそらく黎弥でもない。



あの二人は幼馴染みで仲がいいけれど、そういうのとは、違う。



初めは俺も嫉妬したけれど、希子を見ていたら分かる。



あれは恋愛感情じゃない。



今は分からないけれど、きっと、夏喜でもなかったはずだ。



夏喜のことが好きなんだとしたら、おそらく告白されてすぐに付き合ってるはずだから。



だったら、誰だ?



クラスの中の誰かか?



まさか、健二郎先輩のことをまだ引きずってる、という線はないと思うけれど。



「希子のこと見てたら、すぐに分かるっちゃけどねぇ?」



最後に二人で話したあのベランダでの会話を思い出す。



希子の、悲しそうな横顔。



まさか…



もしかして。



万が一、もし万が一そういうことがあるんだとしたら。



俺は…




「あの二人、今度デートするらしいよ?」



「え…?」



「さすがに希子も、もう夏喜のこと好きなんかもなぁ?」



そうだ、もう遅い。



もし万が一、希子の好きな人がそうだったとしても、もう今さらだ。



希子はもうすでに夏喜に心を許し始めている。



夏喜と希子が二人で楽しそうに笑い合う姿が想像できる。



夏喜の、希子を優しく見つめる瞳。



それに応えて、希子も嬉しそうに笑う。



夏喜といれば、希子はきっと幸せになれるはずだ。



「後悔する前に、気持ちだけでも伝えとった方がいいっちゃない?それとも、自分が告ったら、みんなの雰囲気が悪くなるとでも思っとる?」



「……」



そんなんじゃない。



俺は、ただ、ただ単に希子を失うのが怖かっただけだ。



友達としてでいいから、ずっと傍にいたかっただけなのだ。



そんなの、希子に大切な人が出来てしまったら、簡単になくなってしまうものなのに。



「今さら…」



「今じゃなきゃいつ言うと?今が最後のチャンスやん?」



「颯太…意外と優しいとこあるったい?」



「別に俺はどげんでもよかし。この面白い状況、外から眺めてんのが楽しいだけやし」






「颯太、いっつも人の話ばっかやけど、颯太こそ、好きな子とかおらんと?」



「俺?」



「うん、中学ん時から結構モテるとに、付き合ったりとかせんやん?本命、おらんと?」



「好きな人とかおらんよ?」



「ふぅん、そうったい」



「…俺は、人を好きになったりとか、そういうの、ないみたい」



「今まで、一度も?」



聞いたら、片方だけ口角を上げて皮肉そうに笑った。



颯太のこういう表情は、珍しい。



「一度も」



いつと明るくておしゃべりで、幸福の落差がないような颯太の、裏の顔を少しだけ覗いた気がした。