1月も下旬になった。土曜日、自宅で新聞を読もうとした雄一郎は、びっくり仰天した。

 「トミタ社長に富田雄一郎氏 秀二社長は会長へ」
 とでかでかと載っている。慌てて何新聞かを確認すると、ブロック紙だった。各紙に目を通すと、経済新聞にも、大きく載っている。他は、一面、経済面、三面、あげくは社会面も見たが、何も掲載されていなかった。

 そこで、トミタの社長人事が載っている一面の本記原稿と経済面の関連原稿をじっくり読み始めた。どこにも、工販合併のことは載っていない。

 「しめしめ」

 と多少ほっとしたが、これもいつ漏れるか分からない。

 それにしても、人事を誰が漏らしたのか。内々に、秀二会長が根回しをしているとは聞いていた。とすると、この人事を面白がらない人物が流したのかもしれない。

 雄一郎は、各役員の顔を思い浮かべ、自分をどう見ているかを考えてみた。しかし、どうにも思い当たらなかった。

 やおら、電話を取ると、秀二にかけた。

 「新聞にわが社の会長、社長人事が載っていますが」

 「ああ、載ってるね」

 「どしましょう」

 「すぐ、会見をしよう。今日の三時でどうだい」

 「えっ、今日の三時ですか」

 「うん」

 「でも、だれが何の目的で流したのでしょうか」

 「誰が漏らしたかは分かっている」

 「えっ、だれなんですか」

 「私だよ」

 「・・・」

 「夕べ、中央新聞の記者と経済日報の記者が別々に来たんだ。それで、最初に来た経済日報の記者と雑談していたら、なにかの拍子に『工販合併なんてことないでしょうね』といってので、びっくりしたんだよ。もうばれているのかと。それで、『なんの話だ』とごまかしたんだが、これ以上、関心を持たれては困るからと思って、役員人事をちらっと漏らしたんだ。それから、次にきた中央新聞の記者にもそう言っておいた。君のところに来た記者は何も言ったなかったかい

 「三人来ましたが、誰もそんなことは言いませんでした」

 「わかった。これは一挙にことを進める好機だ。午前11時に緊急役員会を開くよう秘書に連絡をしておいた。そこで、合併も決める」

 「しかし、合併の話は、自工の他の役員には、まだ何の話もしていませんが」

 「まあ、私に任せておきなさい。それから、私が新聞に漏らしたということは、絶対に内緒だからね。誰にも言わないでくれたまえ」

 「それは分かっております」

 「記者会見の席には、小池君も出てくれるよう、秘書を通じて頼んでおいた」

 「自販も一緒にですか」

 「そうだ、そこで人事については私が全部いうが、合併については、君と小池君でやってくれ」

 「わかりました」

 めまぐるしい1日の始まりだった。