自工と自販の合併に関するそれぞれのレポートは、それぞれのチームで、12月下旬にまとまった。
自工のレポートには、販売に関する懸念材料などが書かれていたが、おおむね合併を支持する内容だった。自販のレポートは、自工の販売に関する懸念材料を払拭していた。また、自販の立場から、生産に対して、ユーザーの立場から、これまで以上に注文をつけられるとの内容が精密に書かれていた。自販チームリーダーの沖川と自工チームリーダーの長尾の連携プレイだった。
自販チームのリーダーの沖川は、このレポートが完成した時、自販社長の小池には見せなかった。まず、自工副社長の富田雄一郎に持って行った。すでに、前々日、自工のレポートは出来上がっていた。
それを一読した雄一郎は、自工社長で親せきである富田秀二に見せた。秀二はそれを一読すると、雄一郎を社長室に呼んだ。
すでに年が明けており、年明けの始業日だった。
「二つともよくできたレポートだったよ。これを、君の社長就任の時に発表してくれたまえ」
「えっ、私が社長に。とはいえ、工販合併は、あと、数年待たなければいけないということですか」
「何を言っているんだね。今年6月の改選で、私は社長を退くよ」
「何をおっしゃいます。まだまだ、社長にはやってもらわなければならないことが山のようにあります」
「そんなことは君がやってくれ。私はもう疲れたよ」
「はあ。では、代表取締役会長で残ってください」
「代取会長なんて、必要かね」
「私一人では、心もとなく思います」
「ふーん。それについては、もう少し考えさせてくれないか」
「いくら考えられても、私の考えは変わりませんよ」
「まあ、そう言わないでくれよ」
「今返事をもららわなくても構いませんが」
「わかった。近々、私の希望は伝えるとしよう。君の言うとおりになるかもしれんが・・・」
「了解いたしました」
そういうとい、雄一郎は、社長室を出て行った。そして、、沖川と長尾に電話で、工販合併の内諾を得たことだけを伝えた。
沖川はそれを持って、自販社長の小池にレポートを渡したのだった。
丸1日かかって読んだ小池は、沖川を社長室に呼び出した。
「きさま、何さまなんだ、こんなレポートを出しやがって。工販合併だと。いい加減にしろ。そんなことをしたら、これまで築きあげた販売網を、自工の連中にがたがたにされてしまうぞ」
そう言って、レポートの撤回を迫るのだった。
「撤回は、私の一存ではできません」
「なんだと。どういう意味なんだ」
「自工のレポートも合併推進で、すでに自工会長、社長の内諾を得ているそうです。うちのレポートも内諾をいただいております」
「何、なんだと。そんなこと、私が許さん」
「許されなくて結構です。しかし、もはや二つのレポートによって、トミタが動き始めるのを止めることはできませんよ」
そう言うと、沖川は、話が終わっていないのに、さっさと社長室を後にするのだった。