金子は、20分ほどで、100人ほどの人数を紙に書き込んだ。それを手にとって再び考え込み、人名簿から紙に新しい名前を書き込み、紙の名前を消したりして、最終的に30人くらいに絞り込んだ。すでに、沖川と約束した時間は過ぎていた。40分ほどかかって作業はやっと終わった。
その紙を持って、金子は元の個室に戻った。
「おう、もうできたか」
「すみません。だいぶ時間をオーバーしてしまいました」
「いや、構わないよ。20分でできるんだったら、君は天才だ。しかし、40分かかってできるとは、こりゃ人事の英才だな」
「いえいえ」
と金子は、頭をかいた。
「30人か」
「ええ、沖川さんの好みもあろうかと思って、多少多めにしておきました」
「君は、どう思うんだ」
「まあ、最初の10人は、言われた通りの人選で固い連中です。いや、固いというのもおかしいか。注文自体が変でしたからね。上司の言うことを聞かないとか、遊び人風とかありましたから。まあ中間管理職3人と補佐役2人はこれでいいと思います。あとは平社員ですね」
「わかった、君が迷った人選を聞かせてくれ」
「まず中田と今吉ですが、どちらも似たタイプです。ですが、中田の上司に対する物言いは、最近だいぶ激しいようです。『今の部課長は自工の言うなりだ。これで、消費者が望める車が作れるわけがない』と、ことあるごとに言って、上司は閉口しています」
「ほう、頼もしいじゃないか。で、今吉は」
「まあ、似たようなことを言うらしいですが、こちらは皮肉屋です。ねちねちと、上の言うことを皮肉っています」
「まだ入社して5年程度だろう。後輩の評判は」
「不思議なことにいいんです。後輩の面倒見はいいようです。今吉も、後輩には皮肉をいわないようです」
「よし、2人とも使ってみよう」
「はい」
とこうして人選を進めて行ったら、3人ほど、予定より多くなってしまった。
「どうしますか」
金子が尋ねた。
「いいよ、増えても。予定より3人増だ」
「ところで、長尾君は遅いなあ」
「約束は7時からでしたっけ」
「ああ、ちょっとママに聞いてみてくれ」
金子が階下のバーにいるママを電話に呼び出した。
「えっ、7時前にいらしているって。なんで上がって来ないの。・・・・・・・・・・・・・。ああそう。すぐに上がってもらって」
「どうしたんだい」
「いや、我々が込み入った話をしているのを聞いて、終わってからでいいと言って、下で1人で飲んでるようです」
「ほう」
沖川は長尾の細やかな神経に恐れ入ったのだった。
金子も
<この気の使い方は、沖川さんとどっこいどっこいだな>
と、感服した。