三日ほどが過ぎた。野中はじりじりしていた。そんなところへ、野中のデスクが鳴った。
「鳥崎という方から電話です」
『ようやく来たか。まさか、やっぱり止めたというのではないだろうか』
不安によぎりながら、受話器を取った。
「東京地検の鳥崎です。さぞご心配だったと思います。連絡が遅れて、申し訳ありません。国税と地検の合同会議を開きたいと思いまして、日程、出席者をお伺いしょうと電話を差し上げました」
「検察のご厚情に感謝いたします」
「いや、お礼はこちらの方が言わなければなりません。ありがとうございます」
最初の会議は、11月末に、東京都内の法務省所有の建物で開かれた。皆、いわば顔見せのようなものだと思ったが、地検は詳細な説明を要求してきた。ようやく本腰でやるきだな、と国税庁の連中が感じたのだった。
東京国税局資料調査部の田中一課長、大田三課長が、暖房の効いた部屋で、汗だくになって説明する。時々、地検特捜の検事から、鋭い質問が浴びせられるが、2人はそつなく答えていた。
「ところで、ブツが出るという確証はあるのですか」
「あります」
と野中が答える。
「どこにあるのですか」
「家宅捜査の直前にお教えします」
「そんなことでは困ります」
検察官の言葉に、
「まあ待て」
と、特捜部長の鳥崎が割って入った。
「これだけの情報をとってきてくれたんだ。我々は、国税庁の方々を信用するしかない。行けと言われたら、突撃するだけだ」
「しかし」
「一度、検察は死んだんだ。一度死ぬのも、二度死ぬのも同じことだ」
ようやく、検察官は押し黙った。ディープ・スロートがいるとは、隠し通さなければならない。
「でも、ブツがいつまでもそこにあるとは限りらないじゃないですか」
別の検察官が言う。
「その点はご心配なく。どこに移しても、分かります」
「通信機でも仕掛けたのかな」
と、検察庁側の別の人間が、冗談っぽく言う。
「まあ、そんなところです」
野中は軽くいなした。