髙田郁の「みをつくし料理帖」といえば、4年前に全10巻で完結した時代小説の人気シリーズです。
大坂から江戸にやって来た女料理人が主人公という変わった設定の小説は、登場人物のほのぼのとした温かさと、じんわりくるストーリー、そして何より物語のなかで取り上げられる美味しそうな料理の数々などで、人気がありました。
去年NHKの時代ドラマで、黒木華さんが主人公の澪(みお)を演じて、話題になったのも記憶に新しいですね。私の澪のイメージにぴったりだった彼女の演技を毎週楽しみに観ていました。
今年になってその特別編ともいうべき文庫書き下ろしが出ていたのを知らなくて、ラン友のロ〜ガンさんが読み終わったものを譲ってくれたので、さっそく読んでみました。
設定は澪が御典医の永田源斉と結婚して大坂へ戻り、新しく店を開いてから4年後の出来事。四つの短編で構成されていて、懐かしい登場人物たちのその後が描かれています。
「花だより」
澪が江戸で働いていた「つる家」の店主種市と、戯作者清右衛門と版元の坂村堂、そしてお手伝いの老婆りうが、ひょんなことから大坂にある澪の料理屋を目ざして出発するのですが、箱根の山を超えたところでアクシデントが。
「涼風あり」
澪のかつての想いびとで御膳奉行の小野寺数馬とその妻となった乙緒、数馬の妹早帆の料理をめぐるコミカルなやりとり。
「秋燕」(しゅうえん)
澪の幼馴染で、共に大坂を襲った洪水で孤児になり、吉原の花魁あさひ大夫になった後、豪商の身請けのおかげで大坂にあった生家の淡路屋を再建して「こいさん」となった野江の話。
本編では詳しく語られなかった野江の吉原時代の逸話や、身の回りの世話をしていた又次との出会いと別れが描かれています。
「月の船を漕ぐ」
やはり最後は主人公の澪と夫の源斉との話ですね。
流行病いの対応で、激務のため食事もろくに摂れない源斉。一方澪は、大坂で開いた料理屋「みをつくし」が大家から立ち退きを求められ、思い悩むうちに源斉が倒れてしまいます。
「口から摂るものだけが、人の体を作る」
「食は人の天なり」
「命を繋ぐ最も大切なもの、それが食なのだ」
「『美味しい』という味わいだけではない、心身を養い、健やかさを保ってこその食、食べる人を思ってこその、食」
心に響く言葉がいっぱい出て来ます。
食欲の落ちた源斉になんとか口にしてもらおうと、澪が試行錯誤してたどり着いたものは,,,,,。
シリーズ全般の内容と比べると、ちょっとストーリーに勢いがないのは残念でしたが、番外編としたら結構面白く読めました。特に最終話は涙腺が緩みます。
どうやら続編の予定はないようですね。作者曰く、「読者の皆さんの心の中が澪たちの住まい」だそうです。はい、そうさせていただきます。