「じゃ。あとで。」


後ろで影のように、

僕の耳に口をつけるようにして、

囁いた後、


目黒くんが去っていく。



松本先生は、

そんな僕たちを怪訝そうな目で見てたけど、


すぐに表情を切り替えて、

僕たちの方に向かう。




「さぁ。新入生オリエンテーションどうだった?」



「面白かったぁ。」


佐久間くんの嬉しそうな声。







「こらこら。

小学校 10年生みたいな感想するんじゃない。」




軽く戯れるように嗜める松本先生の声に、

「はーいっ。」


佐久間くんも嬉しそう。




「かっこよかったっす。

さすが、先輩たちです。」



一番前の席の内藤大吾くんが、

少し英語が混じったような独特のイントネーションで、答えると、



「うん。かっこよかった。」


「坂本生徒会長。同じ高校生とは思えねえよな。」

「いや、八村先輩のダンクっしょ。」

「井ノ原先輩、優しそう。懐深そう。

ああいう人に俺はなりたいなぁ。」

「やっぱり、ダンス部の刀群舞(カルグンム)。

シンクロしててかっこいいっ。」

「櫻井先輩のオーバーヘッドもすごかったし。」



みんなが口々に話し出す。




「まぁまぁ。

みんなにとって、かっこいい頼もしい先輩たちっていうことでいいか?」



松本先生が苦笑いしながら、

諌めると、







みんなが、やっと黙って、

うんうんとうなずく。





「じゃ、そんな素敵な先輩たちに憧れているだけではまずい。

君たちは、

その先輩たちのそばで学んで、

そして高校一年生として、後輩たちに伝えていかなくてはいけない。


どの中学校で学んでいたとしても

今までみたいに、

高校生に甘えていいっていうわけにはいかないからな。」




ごくん。


みんなが、息を飲んだような雰囲気がわかる。



そっか。

もう高校生なんだ。


おんなじ校舎で学んでいた内部からの子も、

いろんな中学校で学んでいた外部の僕たちも、

みんなおんなじ。


松本先生は、

その一言で、

僕たちが高校生としておんなじ立場で、

頑張っていかなくてはいけないことを教えてくれる。





「ということで、

その先輩たちと学校をよくしてくれるために、

頑張ってくれる委員を決める。


オリエンテーションで、

何をやるのかは、ちゃんと聞いていたはずだ。



一番最初に学級委員を決める。

級長と、副級長だ。


決まったら、

この後の進行は、その二人に任せる。



誰かやってくれるやつはいないか?」




その声に、

みんなの視線が、なんとなく一人に集まる。



一番廊下側の二番目の席 阿部亮平くんだ。




「阿部ちゃん先生ー。

また、級長やってよー。」


佐久間くんの元気な声。



「阿部ちゃんしかいないんじゃねえか?」


宮舘くんも、


「阿部くんがいいと思います。」


ラウールくんの、大きな声。


七五三掛くんも、浮所くんも、佐藤勝利くんも、

みんな頷いてる。


「あの、僕、

中学校の時の生徒会長とか、級長とかも、

やらせていただいていたんですけど、

僕、またやらせていただいてもよろしいでしょうか。」



阿部くんが立ち上がって、

みんなの顔を見回すと




「お願いしまーす!」



大きな拍手。



すごーい。

すごくみんな信頼してるんだ。



でも、僕もこの二日間だけど、

阿部くんはいつもみんなの先頭に立ってて、

みんなのことを優しく見ててくれて、

声をかけてくれる。


それが、仕切ってるとかじゃなくて、

本当にみんなのこと

考えてくれてるんだ。


すごい人だってことは、

それだけでもわかる。




「じゃ、僕と一緒に副級長やってくれる人はいますか?」




しーん。



みんなが、

貝のようにだまりこんだ。









⭐︎つづく⭐︎









コメントは非公開です。