さきほどは、
お見苦しいところをお見せして
申し訳ありません。

お口直しにと
思いまして。

こちらを。











椎名林檎さん 作詞作曲。


私の話をちょくちょく読みにきてくださる皆様は、

私が書くだろうと予測してたでしょ(笑)




 

さきほど、

娘が、録画しておいてくれた

Mステをみて、描きたくなったので、

書き下ろしでお贈りします。




まだ、お聞きではない方は、

ぜひ、聞きながらどうぞ♡













 本音と建前




いい感じで歳をとった。




「一緒に飯でも食おうか。」



誘われたホテルの最上階。

ラウンジの個室は、

最上級の夜景と

食事、飲み物を提供してくれる、



昔とは違い

好きなこともできるようになった。

好きなものを好きと言えるようになった。

手にした自由は、

今まで積み重ねてきたものへの対価。




それなのに、

ただの食事なのに

このように人目を憚り、

声を顰めて話すのは、

有名税ってやつか。



歳をとったら歳をとるなりに、

笑い皺も、苦い思いも、

自分の心を誤魔化す術(すべ)も

身につける。





「おいしいね。」




屈託のないように見える雅紀の笑顔は

建前の仮面。


何も悟られないかのように


眼下に広がる彩色の夜景と相まって

妖艶に輝く。





「うん。そうだな。

ここのホテルは美味い。」




当たり障りなく答えると、




「くふふ。」




雅紀の目が、

夜景のように黒い瞳の中、

艶色にくるくると煌めく。

  



「ちがうよ。翔ちゃん。



一緒にいる人が素敵だから、

飯がいつもより美味しく感じるんだよ。」




落ち着いた微笑みは、

昔の喧騒の時代などは、

思い出せない。



ただ、妖しくて、

美しくて、

大人の色気で俺を翻弄する。






思い描いた場所へと、

上へ上へと昇るために、

皆で誓った約束。



そのためには、

なりふり構わずいろんなことをしたし、

人に頭も下げまくった。

先達にいろいろなことを学んだ代わりに、

昔からの暗黙のルールとやらにも、

縛られた。


それでも、

爪痕を残そうと、

皆でタッグを組んで、

一人一人がやれることを積み重ね、

やっと今の俺たちがいる。




軽い食事と、

美味しい酒。



雅紀が

カクテルグラスを斜めに傾け

くいと飲み干し、

ひょいと置くと、



両手をテーブルの上に置いて、

軽く手を重ね合わせてた俺の手の上に、

軽くその手を乗せる。





「ね?もういいんじゃない?」




「なにが?」




俺が望んでる答えなど返ってきやしないと

諦めつつも、

雅紀の顔を見れば、



聖母のように

にっこりと微笑み、

託宣を告げるかのように口を開く。




「ねぇ、翔ちゃん。


もう。お互い素直にならない?

大人なんだし。


二人で約束破っちゃおうよ。」



昔の雅紀のいたずらっ子のような煌めく瞳。




いつ言い出そうかと思ってたけど。

先に言われたか。




昔の俺らの約束。




みんなで仲良くいるために、

特定のやつとだけ、仲良くしない。

もし、

恋心を抱くようなことがあっても、

それは自らの胸の内に秘める。





俺たちも、

もういい加減、いい歳になった。

本音を解放して

好きなように生きても許される時分だ。






「いいのか、雅紀。」




「もとより、承知。」



にっこりと立ち上がる雅紀の手には、

ホテルのルームキー。




ちゃらちゃらと、

派手に回しながら、

逆の手で、

俺に手を伸ばす。




「では、いざ。

目眩く世界へ。」



「ああ。」




今まで自分の本音に蓋をして、

建前の笑顔を振り撒いて

精一杯足掻いてきた。



そんな俺たちに、

やっと極上のご褒美か。





俺の手を取りエスコートしようとする雅紀の手を引っ張って、


ぐいと、

俺の腕の中に閉じ込めると、




「それは、こっちの台詞だ。

覚悟しとけよ。

極上の天国を見せてやる。」




雅紀の耳に囁いた。









⭐︎おしまい⭐︎












大人しか味わえない

極上の世界を貴方に。












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