カツァリス-CD・演奏・思い出など (その2) | れぽれろのブログ

れぽれろのブログ

美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

ピアニスト、シプリアン・カツァリスを巡る思い出を綴ります。
(前回の記事はこちら→

<前回のあらすじ>
学生時代まではオーケストラ曲が中心で、
ピアノ独奏曲はあまり熱心に聴いていなかった自分。
社会人になり、その頃の友達にショパンを勧められ、
たまたま購入したのがカツァリスのバラード・スケルツォ集。
このCDがきっかけでショパンにハマることになりました。
その後、リストやシューマンなどのカツァリスの録音に触れ、
さらにテレビでカツァリスの映像が放送されているのを見て、
カツァリスというピアニストにどんどん興味が湧いてくるのでした。
そして・・・。


カツァリスの演奏を初めて聴きに行ったのは、2006年の秋です。
自分は2004年ごろから、いろいろな演奏会やオペラ、
そして美術館などに一人で頻繁に出かけるようになります。
この頃は20代も半ばを過ぎ、経済的にも安定してきて、
生活に余裕が出てきた頃です。
自分はこの頃以前は、どちらかというと友達に誘われるままに
あちこちフラフラと付いて行く、誘われなければあまり出かけない、
出かけても近場の図書館や本屋さんに行く程度・・・といった生活だったのですが、
この頃から自分で計画的に趣味にお金を使うようになります。

このころ、いろんなピアニストの演奏を聴きに行きに行ってました。
クリスティアン・ツィメルマン、エフゲニー・キーシン、ラファウ・ブレハッチ、
ラン・ラン、セルジオ・ティエンポ、横山幸雄、及川浩治、小山実稚恵、
山本貴志、関本昌平、などなど。
そんな流れの中でカツァの演奏を聴いたのですが、これらの人と全然違う
世界を見せてくれたのが、カツァの演奏でした。


2006年秋、この年のカツァのプログラムはショパンとリスト。
場所は西宮の芸術文化センター。
舞台に登場するや否や、拍手を遮り、椅子に落ち着いて座る前に(笑)
ショパンのプレリュード20番の冒頭和音をジャーンと鳴らすカツァ・・・。
前半はショパンを10曲演奏したのですが、途中の拍手はことごとく遮り
(両手を合わせて「ごめんなさい」のポーズ)
約45分余りの間、ほぼアタッカで10曲を休みなく連続して弾き続けました。
な、なんなのだこの演奏家は・・・笑。

ショパンのノクターン20番(遺作)と2番(op.9-2)、
ものすごく楽しい装飾を付けて演奏し
(この2曲はカツァの定番で、アンコールなどで今もよく演奏されます)
そして、エチュードop.25-12という難曲で、内声で遊びまくるという(笑)、
これまたすごい演奏が続きます。

ソナタ2番の3楽章(葬送行進曲)をものすごく美しく演奏します。
しかしこの曲、中間部の最後の超ppp→後半の冒頭の超fff、という
楽しいギャップも付いていました。

ポロネーズ、マズルカ2曲、幻想即興曲(これも内声にびっくり)と続き、
最後は個人的に大好きな曲、子守唄。
斜め上の虚空を見つめたまま、全く手元を見ずに子守唄を弾き続けるカツァ。
自分の記憶と観察に間違いなければ、後半のA→A♭のトリルのあとの
跳躍の部分まで、全く手元を見てなかったのではないかと思います。

前半の演奏に何だか圧倒されて、後半のリストはなぜかあまり記憶にない(笑)
のですが、「孤独の中の神の祝福」などを演奏されておられ、
リストの方も壮絶な演奏であったようにおぼろげながら記憶しております。
(後半はなぜか日記にメモも残ってません。)

この演奏会では、アンコールがまたびっくり。
いきなりマイクを持ちだし、語り出すカツァ。
英語なので自分はすべて理解できませんでしたが、
世界のいろんな地域の音楽だとかで、やれスペインだ、次はロシアだと
あれこれ語りながら計8曲を演奏されました。
これはアンコールというより、ほとんど第3部と言ってもいい内容・・・笑。

とくに印象的なのがゴットシャルクの「バンジョー」という曲で、
後半になるに従いどんどん音が増えて加速して行きます。
手の動きが強烈です。ナニコノ曲・・・。
この曲はその後の演奏会でもアンコールの定番としてよく演奏されています。

明らかに他の演奏家と比べて一線を画すカツァの佇まいを見て
「この人には一生ついて行こう」と、大げさな決意をしたのでありました。
(ちなみに、もう一人、クリスティアン・ツィメルマンもすごく好きになった演奏家で
ツィメルマンについてもどこかで書いてみたいと思っています。)


さて、このときのショパンの演奏に雰囲気が近い録音といえば、こちら。

・In Memoriam Chopin - Live at Carnegie Hall

カツァ_カーネギー

2枚組CD。
1999年のカーネギーホールでの演奏会の録音です。
プログラムはオールショパン、カツァの生演奏の世界が堪能できる
CDとなっています。

ノクターン2番、幻想即興曲、葬送行進曲などは、
自分が鑑賞した2006年の演奏とほぼ同じスタイルでの演奏。
カツァは一見好き勝手に演奏しているように見えますが、
実は同じ曲の場合の演奏の型はほぼいつも同じ。
カツァなりの楽曲に対する解釈が(かなり自由な解釈ですが)、熟考の結果
特定のスタイルに行きついた、といった印象を受けます。

このCDは、個人的に好きな3曲・・・舟歌、幻想曲、子守唄が
収録されているのがすごく嬉しいです。
舟歌がいいですね。
ラストの軽い終わり方も、カツァらしくて魅力的です。

一番楽しいのはやはり後半のメイン曲。ピアノソナタ3番です。
カツァのレッスンでのセリフ。
「ソナタ形式楽章の提示部に繰り返し記号がある場合、必ず守りなさい。
そして、繰り返し後は少し表現を変えて弾き、観客を飽きさせないように。」
このピアノソナタ3番の1楽章の繰り返し、少し表現を変えるどころか、
全然違う曲になっとるやないかと(笑)、思わず突っ込んでしまうような
楽しい演奏になっています。
どの楽章も内声を際立たせた面白い解釈。
とくに4楽章、こんな難しそうな曲をすごく自由に弾き、
そして謎の内声メロディまで聴こえてくるという(笑)、
壮絶な演奏になっています。

この演奏の様子はDVDにもなっており、一部はYouTubeでも鑑賞できるようです。
YouTubeを見ていると、結構な割合で「親指下向きマーク」が付いているのも
印象的。
やはりこのような表現は、人によっては認めることができないのかもしれません。
好き/嫌いの分かれる演奏家、それがカツァリス。


ということで、まだ続きます。