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*曲題


ジョルス・シュミエールというフランピス出身の魔術師が発明した、マジックビジュアルと魔法結晶を利用した“マジックシネマトグラフ”という複合映写機が可能にした、映画と言う新たな娯楽。

それはとてつもない画期的な発明として各国で話題となった。
我がリーズオリア王国にも、やっと映画の為の施設が作られ、博覧会にて上映される。


「えー、紳士淑女の皆様、上映中は冠りものを足元の籠に入れて頂きます様よろしくお願い致します」

進行役の男がしきりにアナウンスを行う。
と言うのも、フランピスでは貴族のご婦人方の高々とした帽子が邪魔で、後ろの席の客がスクリーンを観る事が出来ないと言う問題があったそうだ。

「旦那様、旦那様……楽しみね!」

「ああ。いったどういったものなんだろうね」

ベルルは用意されていた赤いフワッとした椅子にちょこんと座って、上映を今か今かと待っていた。
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ットなど高額で貴重なので、客席は貴族ばかりであるが、僕らはコネクションがあったので真ん中の良い席に着く事が出来た。

スクリーンの脇には音楽隊が並んでいて、映画の音楽を奏でるらしい。
語り部の男性がスクリーンの横に現れ、大きな拍手が起こった。
僕は劇場やコンサートに行く事は少ないが、何だかそう言ったものに近いなと感じる。


『星世界旅紀』

陽気な音楽と共に語り部が語り始める。

『魔法使いたちは議論した。あの赤い星へ行くにはどうしたら良いだろうか……』

映像には、魔術師たちが集まって会議をしている風景が映っている。
画面は時々、ぶれたり色が飛んだりするが、思っていた以上にスムーズに人物が動くものだ。
薄い一枚のスクリーンに動く人間が存在する……それはとてつもない驚きと興味深さがある。

最初、僕は内容よりその技術の方が気になったが、次第に突拍子も無く目まぐるしい映画の内容から目を逸らせなくなる。

ナレーション以外はサイレントで、動く映像と共に音楽隊の優雅な音楽が流れているのだが、キャラクターの魔術師たちが言い合いをを始め帽子を投げつけ、しまいには殴り合いの喧嘩を始める。
僕は思った。魔術師なんだから魔法で喧嘩をすれば良いのに、と。

しかし肉弾戦は続き、最終的に屍の上に立った魔術師の案である「空を飛ぶビン」作戦が議会を通る。
魔法のビンを作って、それに乗って星まで行けば良いと言う案だった。

この時点で色々と突っ込みどころは多いが、童話の様なものなので気にしない。これは有名な童話の「空飛ぶ魔法の小瓶」をモチーフにした映画であろう事はすぐに分かった。
しかし、リアルな人間が真面目に演じつつ、声も無く有名なクラシックだけであるので、正直かなりシュール。

映像の中の舞台セットも手作り感満載であり、それがまたシュール。
人の顔をした星に、魔術師たちの乗った魔法のビンが突き刺さり、いざ星面着陸を果たす。魔術師の冒険はこれからだ。

さてベルルはいったいこの映画をどう思っているのだろうか。
僕はチラリと彼女を見てみる。映像の光だけを頼りに彼女の表情を伺うが、ベルルは……これ以上無いと言う程興奮した様子で、前のめりになって映画を見ていた。

映像は、前から勢いよくビンが飛んでくる場面や、赤星人と争うシーンなど、ハラハラする所もあり、確かに普段感じる事の出来ない興奮をスクリーンから味わう事が出来る。その度に会場から感嘆の声が沸き起こり、ベルルもまた無自覚に声を出したり、小さく体を動かしたりして、映像を楽しんでいた。






「面白かったわね、旦那様!! 特に魔術師たちが、赤星人たちに捕まっちゃった所は、ハラハラドキドキして、私、目が離せなかったの」

「……そうだな」

「でも、最後に魔法でやっつけちゃった所はとても爽快だったわね。赤星人が、ちょっと可哀想だったけど……」

ベルルは映画を見終わっても、その興奮が覚めやらぬと言う様に語っている。
僕にとっては、あのシュールな映像を前にポカンとしていたらいつの間にか終わってしまったという感じだったが、ベルルがあまりに楽しそうに語るので、何だか面白かったような気がしてくる。

僕には早すぎる映画であったが、ベルルにはちょうど良かったのだ。

その後、ホテルでディナーを頂いて、部屋へ戻った。
一日中遊び倒したので、僕らはとても疲れていた。

「はあ~……とても楽しい日だったわ」

ベルルはそう言うと、ドレス姿のままポテンとベッドに横になった。

「こらこらベルル。風呂に入ってからじゃないと」

「……そうね」

ゆっくり起き上がり、目を擦るベルル。

「旦那様も一緒にお風呂、入りましょう」

「……ああ、分かっているよ」

こっちこっちと、ホテルの一室にある小さな風呂場に手招きするベルル。
僕は上着を脱いで、そちらへと向かった。










……チャプン

ベルルが湯船で舟をこいでいた。
頬が湯に浸かってしまって、その度に僕はハラハラする。

「大丈夫かい……ベルル」

「う……ん」

ベルルはゆっくり頷いて、そして大きくバシャンと、湯に顔面を突っ込んだ。

「わあああっ、ベルルっ!!」

ベルルが驚いた様に顔を上げると、前髪がべったりと目にかかってしまっている。
僕は手で彼女の顔を拭いてあげ、前髪を分けた。

「そんなに疲れてしまったのかい? もう上がろうか?」

「……でも、でもせっかく旦那様と一緒にお風呂に入ってるんだもの……。それに体を温めないと……」

ベルルは眠た気であったが、いそいそと僕の隣にやってきて、腕を取る。もう何度も一緒にお風呂に入っているのだから、流石に慣れてきていたが、それでも肌が触れ合うと言うのは少々緊張するものである。

彼女は僕の肩に頭を乗せ、再び湯船の中でピヨピヨと寝てしまった。

「……これは一緒に風呂に入って正解だったな」

一人で風呂に入って寝てしまうと、危ない。
僕も仕事が遅い時など、たまにあるけれど。

ホテルの風呂は大浴場程の大きさは無かったが、白く丸い浴槽の造りが、ゆったりとしていてくつろげる。
魔法結晶を浴槽の底に組み込んでいるので、常に湯の温かさが失われない。

チラリとベルルを見る。
肩は相変わらずか細く、肌は白い。

最初から恥ずかしがる事無く僕に素肌を晒した彼女だが、それは彼女の無知故であり、世間知らずの裏付けだ。
いままではベルルの事を知るだけで精一杯であったが、これからは常識的な事を色々と、彼女に教えて行かなければならないだろう。

だいたい男女間の常識や異性への興味などと言うものは、同世代の友人との付き合いの中で知っていく事も多い。
彼女にはそう言った友人が居ないのが、少々可哀想な所である。
魔獣たちはベルルにあまり世間の事を教えたりしない様だし、そもそも奴らは魔獣だし。


『ご冗談を、坊ちゃん。……跡継ぎ様でございますよ』

ああああ、そしてこんな時に、サフラナからの“お世継ぎ”プレッシャーを思い出したりする。
きっとのぼせたのだろう。

「べ、ベルル……そろそろ上がろうか。もう体も温まっただろう?」

「ん~……旦那様の肩で寝るの、とても気持ち良いのに……」

「駄目だよそれじゃあ。ちゃんとベッドで寝ないと」

ベルルの頬は火照っていた。
ペシペシと触れ、彼女を湯船の温かな眠りから起こす。確かに風呂の中で寝るのはとても心地が良いのだが。

立ち上がらせ、肩からバスタオルをかけて、浴場から連れ出した。


このホテルのバスローブは、真っ白で肌触りの良いものであったが、ベルルには少し大きいようだった。
ベルルは肩幅が狭く、また細く、背も低いので大人用のバスローブは少々だらんとなる。
しかし袖や裾の長いバスローブを引きずるベルルは、大層可愛い。彼女は動き難そうにしているが。

「旦那様、もうお休みになる?」

「ああ。君も眠いんだろう?」

「ええ……」

ずるずるとバスローブを引きずって、ベッドの上にぺたんと座りこんだベルル。
そしてそのまま横になった。

大きいバスローブが緩いのか、僅かに肩からずり落ちてしまっている。それに気づいてしまった僕はゴホンと一度咳払いをして、いそいそとベッドに近寄ると、さり気なく彼女のバスローブを整えた。

「旦那様……?」

「ベルル、ちゃんと掛け布団の中で寝ないと。湯冷めしてしまうよ」

「旦那様も、早く寝ましょう?」

「ああ」

僕は掛け布団を彼女にかけ、自分もそのベッドの中に入る。
ベルルは当たり前と言う様に、僕の腕の中に入ってしまうので、僕は彼女の背を引き寄せポンポンと撫でた。
風呂上がりのベルルの体はとても温かく、そして柔らかい。バスローブ一枚か……。

「………」

無理矢理、今日鑑賞した映画の場面や音楽を思い出していた。
有名なクラシックの音楽を使っていたが、あれは何と言う曲題だったかな。
良く聞くんだけどなあの音楽。

僕はそのリズムを何度も頭の中で繰り返す。妙な気を取り除く為に。

「ふふ……旦那様、くすぐったいわ」

「……?」

ベルルが不意に笑った。何故だろうと思ったら、僕は頭に流れる映画の音楽に合わせ、ベルルの背でトントンとリズムを打っていた。
指で軽く、無意識に。

「あ、すまないなベルル……っ、起こしてしまったか?」

「いいえ。旦那様、映画の音楽を思い出していたでしょう?」

「あ、ああ。良く分かったな」

別の雑念を取り除く為であったが。

「私もちょうど夢の中で思い出していたのよ。ふふふ……同じ事考えていたのね! あの音楽……何と言う曲なのかしら。たしか、王宮のパーティーでも流れていたわ」

「そ……そうだったな」

そうだったか。僕はあまり覚えていない。
ベルルはひょこっと顔を上げ、何だか嬉しそうにしていた。

「旦那様、明日も楽しい?」

「……ああ。勿論、博覧会はまだ始まったばかりだからね。もっと沢山のものが見れるよ」

僕はベルルの少し湿った髪を撫でる。博覧会は、彼女をもっと広い世界へ連れて行ってくれるだろうか。
ベルルは片方の手を僕の腕の下に回し、僕の背のバスローブを握って、安心した様に目を瞑る。

「おやすみなさい、旦那様」

「ああ……おやすみベルル」

こんなに安心しきって、僕の腕の中で眠ってしまう、可愛い僕の妻。
これはこれで、贅沢なため息が出てしまうものだ。


そして僕はもう少し、多方面の事に興味を持った方が良いな。
いまだに、あの有名な良く聞くクラシックの曲題が思い出せない。

ベルルに教えてあげる事が出来なかったじゃないか。
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