『真田丸』第28回『受難』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

御存じのように、三谷さんの歴史劇は既存のキャラクター像を捻ってくる&登場人物全員に見せ場があるのが特徴で、その辺は『真田丸』でも踏襲されているのは周知の事実です。今回でいうと市松こと福島正則。基本的に市松は短慮な脳筋の代名詞で、歴代の大河ドラマでも主人公サイドの人間に絡んでは手酷い目に遭うオチ担当要員にされることが多いのですが、本作では何気にイケメンのうえ、非常に人当たりのよい男として描かれていました。正直申しあげると清正と正則は逆のほうがいいんじゃあないかと思わないでもありませんが、これがキャラクター全員に捻りと愛情を入れる三谷さんの作風なのでしょう。
尤も、この作風は登場人物全員を『いい人』にしてしまいがちなのですよね。いや、スズムシや秀吉は決して『いい人』ではないですが、それでも『憎めない人』なのは間違いありません。思い返すと穴雪も温水も北条氏政も『憎めない人』でした。これはこれで、キャラクターものとしては正しいのでしょうけれども、人間の暗部を抉らなければいけない歴史劇では、時にパンチ力に欠くことになります。今回でいうと秀次誅殺の顛末。秀次が秀吉による善意のパワハラに追い込まれたのは斬新であり、充分に面白かったのですが、そのあとの畜生塚への叩き込みに説得力を欠いたのは否めません。あの流れでは妻子の誅戮にまでは至らんよなぁ。皆の善意が空回りした挙句、誰もが死んで欲しくないと思っている人間が死ぬというのは『組!』での河合切腹の回のほうが上でした。
逆にいうと畜生塚への叩き込みの経緯を除くと、今回も三谷さんらしい小技とトンチの効いた内容でした。或いは秀次誅殺回を徒に暗くならない物語に仕立てた力量に感じ入るべきなのかも。そんな今回のポイントは7つ。


1.ウザい女

豊臣秀次「うっとおしい!」
きり「はい、私は何処へいってもうっとおしがられます。相手が関白さまだろうと、いいたいことは遠慮なく申します。そういう性分なんでございます!(キリッ


台詞を抜き書きするとGOとかおにぎり女とかを思い出してしまいますが、きりちゃんがいうと何故か憎めないのが、本作におけるキャラクター造型の巧みさでしょう。『優しい言葉の一つでもかけて欲しかったワケ?』と秀次に発破をかけるシーンのきりちゃん、マジ、ウザ可愛い。『あたしはアンタの母上じゃあないのよ!』とか、前世期末のヒット曲を思い出しました。全く、きりちゃんは信繁さえ絡まなければ、相応の礼儀と分別を弁えたマトモな女性なのですね。あれ? つまり、問題は信繁にあるのか?


2.今週のスズムシ

真田昌幸「おまえが(官位を)返上すれば、源二郎も同じことをする。そうなって、一番悲しむのは誰じゃ? わしじゃ! お主を豆州と呼ばせてくれ……のう、豆州よ。伏見城の普請、やはり、おまえがやれ」

兄弟の仲を思う親心と見せかけておいて、実は自分の都合しか語っていないスズムシ。そのうえ、息子に伏見城の普請を丸投げする件は鬼畜外道な所業というより他ありませんが、この程度はスズムシにとっては日常茶飯事&今回は出番も少な目なので、意外とマトモなことをいっているようにさえ思えてしまいます。むしろ、気掛かりなのはスズムシ本人。仕事を抜け出してのキャバクラ通いに血道をあげるスズムシに、次回予告の出浦さんは激おこの御様子。ヤンデレ出浦さんが如何なる手段に訴えるのかが気になります。『俺の昌幸をフヌケにした太閤許さん』と石川五右衛門ばりの暗殺事件を企ててもおかしくないレベル。


3.南方先生、出番です

「父は朝鮮より帰ってきてから、ずっと具合が悪いのです。熱がなかなか下がらなくて……本人は何も申しませんが、随分とだるそうです。それから……」

本作の刑部はハンセン病設定ではないそうですので、当時の風俗や病状から考えると唐瘡かも知れません。先回、一部の視聴者(主に私)の間で治部との冷戦説が囁かれた刑部ですが、ひょっとすると相方への感染を憚ったのでしょうか。闇深の割にいい奴です。しかし、信繁から『秀次の出奔を何処から知ったのか?』と問われた治部が何気に言葉を濁していたのも気になります。どう考えても刑部の睦言が出所しか思えないのよね。そして、刑部に誘われるままにホイホイと奥についていってしまう信繁。家康から連れションに誘われた時もそうでしたが、本作の信繁は頭が回る割に日常パートでは他人を信用し過ぎるように思います。スズムシと異なり、こういう場面での脇の甘さは誰に似たのやら。


4.ホラチョ

豊臣秀次「菊亭は私の妻の実家(さと)! 晴季卿は私の舅だ……となると貴女は妻の……姉?」
「」


薫さん、まさかの経歴詐称疑惑が浮上! 急な来客とはいえ、系譜上『義弟』に当たる人物と顔をあわせる危険を察知できなかったのでしょうか。信繁の脇の甘さは母親譲りであったようです。昌幸の正室が菊亭晴季の息女という『通説』を巧みにコメディに仕立てる技量は流石の三谷さんですね。実際、年齢的にも身分的にもスズムシの正室が菊亭晴季の息女というのは無理があり過ぎる話ですが、これ、どこから出てきた話なのでしょう。菊亭は主君たる信玄の正室・三条夫人と同格の家柄ですので、武田滅亡後に真田が甲信地方を治めようという政治的思惑で吹聴したと私は見ているのですが。何れにせよ、真実に薫さんが菊亭晴季の息女だとしたら、秀次に連座させられた可能性もあったので、この時点で経歴詐称が露見したのは僥倖であったかも知れません。
そして、真相はどうあれ、事の次第を徳川家に報告しようとする稲と、それを阻まんとするおこうさん。

「其方、旦那様の前の奥方だったそうですね……私が知らぬと思ったか!」
こう「……そうであろうがなかろうが、私は真田家をお守りするだけにございます!」


後述しますが、序盤の病弱設定は何処に行ったのかと亭主が疑いたくなるレベルのおこうさんのハッスルぶり。取り敢えず、お兄ちゃんが居合わせなくてよかったです。この場にいたら、お兄ちゃんの胃に天正大判並みの穴が開きそうでしたので。


5.今週のMVP

真田信幸「殿下とは比べものになりませぬが、私も振り回されて、今日までやって参りました。あまりに大き過ぎる父、私の声だけが何故か聞こえぬ祖母、病がちなのかどうかよく判らない最初の妻、決して心を開かぬ二度目の妻、ここぞという場面で深夜バスの目を出す相方、朝五時起きのタレントの部屋に深夜3時まで居座るディレクター、クリームパンをつまみ食いしただけで激怒するカメラマン、そして……あまりに恐ろしい舅」
豊臣秀次「それは……難儀であったのう」
真田信幸「振り回されながら生きておるのは、殿下御一人ではありません」


己の生まれの不幸を呪う秀次でしたが、しかし、相手が悪かった。不幸自慢でお兄ちゃんに敵う人間はいません。しかも、秀次は今回で退場ですが、お兄ちゃんは確実に最終回まで出演するので、その苦悩はまだまだ続くんだなぁ。この件は面白過ぎて、何度もリピートして見ちゃいましたよ。
それでも、秀次の執り成しでお兄ちゃんと信繁のギクシャクした関係は修復成功。善意のすれ違いで身を破ることになった秀次の善意による行動が、主人公兄弟の仲を取り持つという展開は地味に泣けた。これが秀次と秀吉の間でも成功していたら……意地や見栄の拗れが親族の不和を招いたという構図を描き、且つ、笑いと涙の双方を視聴者に提供したお兄ちゃんが今回のMVPでしょう。


6.ある意味平常運転

豊臣秀吉「いつものわしと思うな」

どう見ても何時もの秀吉です。
本当にありがとうございました。


第二部初頭で寧々が評したように、今回にかぎらず、秀吉は結構残酷な仕打ちをやらかしているんだよなぁ。見せしめの殺戮も厭わないしさ。尤も、秀次事件に関しては、謀叛人なのに切腹が許されたり、通常は助命される女子までが刑戮されたりと、経緯や結末、その後の処置にチグハグなところが多いのも事実。この辺、本作では器用に史実と巷説を切り貼りして、あくまでも秀吉と秀次の善意のすれ違いが原因として構成していました。しかし、冒頭で述べたように、妻子悉く処刑に至る勢いはなかった。下手な悪意よりも善意と期待を裏切られた反動のほうが大きいというのも一理ありますが、イマイチ納得いかない。或いは『わしの怒りを孫七郎に見せつけてやる!』という台詞から慮るに、本作の秀吉は狂って秀次を殺したのではなく、秀次の死で狂ったという解釈なのかも知れません。


7.羽ばたいた飛べない鳥は

真田信繁「私には妻にしようと心に決めていた女子がおりまする」
きり「」ガタッ!
真田信繁「おまえじゃねぇ、座ってろ。刑部様の娘御は正室として迎え入れ、その者を側室としたいのです」
きり「」ガッツポーズ!
真田信繁「座ってろっつってんだよ!」


真田の里での隠し扉まみれの日々が此度も伏線となった、信繁三人目の妻とのなれそめ。ここの件も些か強引というか。何故にたか一人が許されたのか、明確な回答はありませんでした。秀吉から憑物が落ちた頃合を見計らっての進言であったのでしょうか。それにしても、今回も哀れなのはきりちゃん。信繁は『追い討ちをかけるようですまん』と前置きしていましたが、本心は『これで今度こそ腐れ縁が切れる』との喜びを噛み殺しながら、結婚の報告をしたと思います。色々と準備がよ過ぎるんだよ! 先週のお兄ちゃんの言葉を借りると『そういう抜け目のなさが無性に腹立たしい』のだよ! しかも、

きり「あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ! 私が側室になる筈の男の娘が何時の間にか源二郎の側室になっていた。何を言っているか判らねーと思うが、私も何をされたのか判らなかった。頭がどうにかなりそうだった。□リンとか、たかちゃんの年齢の辻褄が合わないとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ」

これはひどい。信繁も秀吉とは別の意味で充分にサイコパスの気質あります。
そうはいっても、信繁も現時点でたかを側室にするのではなく、海外へ高飛びさせる時間稼ぎとしていた模様。頼るは呂宋助左衛門。

助左「太閤殿下のなされようは目に余る。力を持つと人は変わります。手前はそのような無理無体に対して、常に戦いを挑んで参りました。この呂宋助左衛門、あらゆる弱き者たちの守り神でござる。喜んで力をお貸し致しましょう」

いやぁ、これは確かに助左ですわ。『黄金の日日』の助左ですわ。三谷さんは『黄金の日日』が大好きと述べておられましたが、確かにあの作品の助左の物言いそのままです! 本作の秀吉は『黄金の日日』と違って、登場した段階からそんなに変わっていませんし、今回の秀次事件も権力者の傲慢ではなく、善意のすれ違いに端を発するものでしたが、そんなことはどうでもいいと思えるレベルの再現度。中盤で秀吉が『呂宋の匂いがする』とクンカクンカスーハースーハーしていた呂宋壺も、一説には現地民の便【要出典】器という話もあるくらいです。この呂宋壺に幾らの値をつけるかという助左と秀吉のガチバトルは『黄金の日日』の白眉回なので、今回の放送で興味を抱かれた方は是非、視聴をお勧めします。私的大河ドラマでもベスト3に入る作品なので。

あ、そういえば、今回は徳川秀忠が初登場でしたな。近年の大河ドラマ的には永久に封印したくなるレベルの存在ですが、彼も本作の直江兼続のように名誉回復の機会が与えられると信じたい……のですが、何やら不気味なキャラクターでした。部下相手にあそこまで頭を下げなくてもいいでしょうに。生真面目過ぎて物事の程度を知らない為人なのかも。まぁ、どう足掻いてもゲゲゲ以下になることは絶対にないと思うので、最低限の安心感はあります。

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