荒川弘版『アルスラーン戦記』第25章『ペシャワールへの道』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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田中芳樹「週に一度のアニメ『アルスラーン戦記』を楽しみに毎日原稿を書いてます」(巻末コメントより)


普通の原作者だといい意味での『大人のリップサービス』という解釈が妥当なコメントですが、この人の場合はアニメが終わったら原稿書けなくなるかもというイイワケの伏線を張っているように思えてしまうのが、日頃の行いというものでしょう。勿論、私の被害妄想で終わるに越したことはないのですが、そろそろ、新刊本を出して欲しいところ。順番からすると、次は『創竜伝』でしょうか。アニメ版はバフマンがまるまる一巻分早く退場するという意外な展開を迎えた本作。今回のポイントは4つ。


1.地行術

こちらもアニメ版で先行公開された魔導の術。脳内イメージでは『トレマーズ』のような巨大モグラ的な想像をしていたのですが、アニメで公開されたように、なかなかに機敏な行動を取れるようです。更に漫画版ではモンフェラートに尾行されていたヒルメスを地下に逃がすなど、他人も地中に引きずり込める模様。魔導の術というよりもスタンド能力っぽい。原作では地行術を操るアルザングは、アルフリードに会ったばかりのナルサスに討ち取られるのですが、アニメでは現在に至るも存命中。バフマンの早過ぎる退場を思うといい奴ほど早く死ぬという田中芳樹的価値観が、何気にアニメのオリジナル展開にも組み込まれているようです。
さて、アバンタイトルで挿入されたヒルメス暗殺(未遂)事件。ヒルメスが逃げ遂せたのが魔導師たちの助力によるものというのは、漫画版のオリジナル設定でしょうか。しかし、確かに納得。魔導師たちはヒルメスの祖父の時代から宮廷に勢力を伸ばしていたという描写がありましたし、国王の迷妄に乗じて地上に災いを成そうと考えているような連中ですから、パルスの火種になるヒルメスを助けておこうと考えたのも自然の成り行きですね。ナイスな原作補完です、多分。


2.おのれダリューン!

ギスカール「……タハミーネ本人がアンドラゴラスの生首を見ぬかぎり、兄と結婚できぬと言うのだ」
ヒルメス「」


原作では銀仮面を被っていたので、恐らくは露見しなかったでしょうが、漫画版では魔導師に揶揄されたように、ダリューンに仮面を壊されていたので、モロに驚愕の表情が出てしまいました。完全に素の反応じゃないですか、ヒルメス。ついでに次のコマのフスラブも大概驚いた表情。コイツがヒルメスやギスカールの周辺をウロついている理由は、第一部の終盤で明らかになるんですけれども、それを思うと、コイツでも本気で驚くほどの事案であったという表現なのでしょう。
さて、そのヒルメス。『アンドラゴラスを殺してしまえば、それきりです。生かしておけば、色々使い道がございますぞ』と主張していますが、実際問題として、アンドラゴラスを生かしておいて、ヒルメスの得になることは少ないと思います。アルスラーンに対する人質になるのは確かとはいえ、ヒルメス本人の気性と武勇と才幹を考えると、そうした作戦に出るとは考えにくい。恐らくは単純に個人的な怨み辛みをぶつける相手が欲しかったのでしょう。政略的には何の得にもならない発想ですが、人が人を怨むというのはそういうものかも知れません。私にも覚えがない話でもありませんし。


3.たまには俺以外の誰かが苦労しろ

ギスカール「誤解するなよ。おぬしが説得せねばならない相手は俺ではなく、兄とボダンだ」

今回は他人に問題を丸投げするという、ギスカールにしては珍しい展開が生じていました。ちょっとホッとしてしまいますね。何かと苦労の多いギスカールの人生、たまにはこういう日があってもいいのではないでしょうか。しっかし、荒川センセの描くギスカールの表情の豊かなこと豊かなこと。話題を切り出す際の苦渋の表情、タハミーネの要求を語る際の思案顔、異教徒の王を殺したくてたまらないボダンに対する拗ねた物言い、上記の台詞で魅せたヒルメスを煽る態度……描いてて楽しそうです。ヒルメスのほうには何気に作者の愛が感じられないように思える分、余計に際だって見えます。
そんな中でも今回一番の見所は、

ヒルメス「私としても、王弟殿下に王座についていただきたいが、アンドラゴラスの件に関しましては……」
ギスカール「いやぁ、無理にとは言わんよ。先にも言ったろう? おぬしには本当に感謝しておるのだから」


でしょうねぇ。完全オリジナルシーンでしたが、原作にあっても違和感ゼロ。それでいて、ドドドドドドドドドドとかゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴとかいう漫画的な擬音が聞こえてもおかしくないシーンでした。


4.普通は死亡フラグです

ダリューン「ペシャワールで会おう!」

そう言い残して、ルシタニアの追撃部隊に突入する黒衣の騎士。創作の世界では九分九厘死ぬキャラクターの台詞ですが、本作では相手をするルシタニア兵のほうに死亡フラグがたったシーン。単騎であれだけの敵を退けるとかどんだけだよ。多分、ルシタニア軍にはダリューンに関するガイドラインができている頃でしょう。八人がかりなら大丈夫だろうと襲い掛かったら、全員がダリューンの『馬』に蹴散らされたとか、戦利品の黄金の兜を持ち歩いていた兵士が襲われて、気がつくと顔の上半分がなくなっていたとか、アルスラーンの半径一ガズに近づいてダリューンに殺される確率は150%、斬り結んで死ぬ確率が100%で、運よく生き延びても落馬して折れた槍に刺さって死ぬ確率が50%とか、様々な噂話が飛び交っていそうです。まぁ、上記の件に関しては全部事実なんですが。

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