貧困救済キャンペーンの勘違い

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ビル・エモット(元エコノミスト誌編集長)「これからの10年、新黄金時代の日本」(PHP新書、2004年から06年にかけて日本の雑誌に書いたコラムを集めたもの)を本屋で立ち読みしてたら、表題の見出しが飛び込んできた。


そこに並んでいた小見出しは「有名人たちの善意の行方」「お金では貧困は解決できない」「支援金より貿易の自由化を」で、ふ~ん、あれを批判してるんだな、どんな論法かと読み進んでみた。


・アイルランドのロック歌手ボノとボブ・ゲルドフなどの有名人が、2005年アフリカ支援者と一つに合わさって奇妙な組み合わせができた
・この運動は、90年代にダイアナ妃やハリウッドの男優や女優がやっていたのと同じで、2005年7月のスコットランドサミット前にボノとゲルドフがロックコンサートをやって盛り上げて多額の資金を集めた
・しかしこれでは貧困救済にならない、ホワイトバンド・キャンペーンでバンドを生産したのは中国の労働搾取工場だったとあとで暴露されたが、おかしなところがある
・先進国政府が、アフリカの国家予算に融資しても、効率的な政府組織がなく、汚職も多いので金は途中で消えるうえ、施しに依存していては自立できない
・貧困撲滅に必要なことは、自国の生産物を輸出する能力を大きくすることだが、先進国は、農産物や繊維製品について市場を開放しない、市場開放には議会で法律を改正し、国内の利益集団を説得しなくてはいけないので進まない、そこで資金援助で貧民を救済する振りをするだけだ


ひところ、開発経済学でこんなことが盛んに言われたことがあり、ずいぶん古い論法をまだいっているのかとあきれた。


前出の新書には、2005年の初めに、ライス国務長官が初めてロンドンロンドンを訪問したとき、12人のイギリスのオピニオンリーダーがアメリカ大使館に呼ばれ懇談したそうだが、ビル・エモットも呼ばれたと自慢げに書いてある。こんなところをみると、相変わらずイギリスのオピニオンリーダーなのだが、それがこんな遅れたことを言っているなんて、イギリスでは日本と同じで、遅れた論客がまだ活躍してるのだとわかった。


このブログでくどいぐらいに何度も書いているが、世界の最先端の潮流では、マーケット・オリエンテッドな手法で途上国の貧困を撲滅する実験的な試みが行われている。


私はこの方法こそ政府援助や国連の活動を超えて、新世代の支援策で希望の星だと確信してるが、ボノなどの活動は、こうした潮流の一部だと理解してる。足元で起こっているそれが目に入っていない知性なんて、たいしたことがないと思ったのである。


現在は新旧が交代する時期であるが、オピニオン・リーダーもそうなのだ。ビル・エモットもだめになったもんだ。

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1月25日に始まったダボス会議 に、国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長、国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長が参加した。


アナン事務総長
「スポーツは世界の言葉。社会的、文化的、宗教的な違いを超越することができる」


ブラッター会長
「世界のサッカー人口は2億5000万人。10億人が何らかの形でサッカーにかかわっている」


ロゲ会長
「スポーツは民族的少数派も(差別なく)取り込むことができる」


世界経済フォーラムのシュワブ会長によると、スポーツ界の代表がダボス会議に招かれるのは今年が初めてだそうだ。


スポーツの効用に、平和づくり、経済開発があるという発想が斬新だ。この提唱をきっかけにして、スポーツによる具体策が開発されるのだろう。ダブス会議は、また新しいことを一つ始めた。


貧困撲滅策は、グラミン銀行のマイクロクレジット、アメリカの社会起業家がやっている途上国でのビジネス開発、このblogでも何回か書いたが、ユニリーバ・P&Gモデルと呼ぶべきやり方、ビルゲーツがやっている疫病撲滅策など、いいモデルが出始めている。それに加えて、今度はスポーツによる貧困撲滅策だ。


貧困撲滅策をめぐり、ロールモデル競争が行われている。アイディアの出場所は欧米で、日本発のものは一つもない。昨年あったホワイトバンド・キャンペーンの成功をみると、日本だって貧困撲滅に関心は高いが、国際競争力のあるモデル開発はない。


NGOの話を聞くたびに、あぁ、これじゃだめだと嘆息してしまう。


IT産業では、アマゾン、eベイ、グーグルなど、ビジネスモデルの独創性で勝ったが、これと同じで、貧困撲滅の独創的なビジネスモデルで日本の力を発揮しなくてはと思うが、そんな雰囲気はない。


前回、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の女性の理事が、ferocity(獰猛)に貧困撲滅策を考えている話を書いたが、このくらいでなくては生まれない。

なんとかならないものか。

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カナダのバンクーバーにあるバンシティ信用組合 のことで、これも成功したコミュニティバンクとして有名である。1945年に設立されたときから、初めて女性起業家向け融資をやったほどの先進性文化を持ったいた。資産総額は100億ドル、会員は32万人、42支店を経営。


HPには、「Vancity is within a category of its own creation ? as one of a kind, as a unique entity that is beyond a bank, and beyond a credit union 」と書かれており、銀行や信用組合を越えたユニークな存在を自負し、それを目指す。


ここが1992年にピア・レンディング・プログラム(PLP)を始めた。
PLPは、グラミン銀行のマイクロクレジットに学び変形したもので、
1、4~7人の起業家をグループ化(半分は女性)
2、一件当たり、8万円から41万円の小額融資を行う
3、金利は通常融資よりも1%高く、さらに、融資額の7%を管理料として徴収、 

 これでセミナーなどの経営指導を行う
4、メンバーは、お互いに事業計画を評価し合い、連帯保証人となり、相互責任

 と相互扶助システムを形成
5、融資対象は、花屋や菓子屋、庭師や服飾デザイナーなどの小規模事業
6、返済率は96-98%と高く、不良資産は発生しない。


ここも、コミュニティ・バンクのロールモデルである。どこの国でもすぐれたコミュニティバンクは似ており、ここにも成功するエッセンスが集約されている。


バンクーバーでは有名な存在らしく、2004年にはいろんな賞を受賞してるが、例えばこうだ。
★Award: Top 25 Employers in BC
BC Business(ブリティシュ・コロンビア・ビジネス協会)から働きやすい企業ランクのトップ25の19位に選定

★Award: Best Employer in Canada
Maclean's Magazine が選出したトップ100の経営者にランク

★Award: 2004 Imagine New Spirit of Community Partnership Award
Canadian Centre for Philanthropy が選出したコミュニティをつくり、仕事を創造した企業に選定される


信用組合が日本にもたくさんあるが、学んで変身したらどうだろうか。

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Bendigo Bank は、オーストラリアのコミュニティバンクで、日本でも大変有名で、ロールモデルになる。


ホームページの表紙には、「顧客が成功し、コミュニティが成功することが、成功した銀行をつくりだす」「コミュニティが成功することが、私たちのように、ビジネスを成功に導く偉大な場所をつくる」と書いてある。成功したかったら、自分のことだけでなく、基盤のコミュニティを作り直せという。


オーストラリアでは、80年代に金融自由化で、4大銀行は、地方の小さなコミュニティから撤退、三分の一の支店が閉鎖された。

このとき、ビクトリア州の地方銀行であったベンディゴバンクは、1998年にコミュニティバンクへ進出した。
コミュニティバンクは、ベンディゴバンクのフランチャイズで、それぞれ地元で設立された独立自営の銀行で、ベンディゴバンクが、金融のノウハウを提供(融資、資産運用、保険、クレジットカード、eバンク、Phoneバンク。。。)、利益は折半する。290支店のうち、100以上はコミュニティバンクになっている。


金融アナリストたちは、コミュニティバンク・モデルは古いモデルで、コストがかかりすぎて成り立たないと予想したが、それは大間違いで、社会貢献サービスを打ち出している銀行の方針が消費者に受け入れられて預金が集まり、利幅が大きいので儲かり、貸し倒れも少なかったので、コミュニティバンクへの進出は成功した。


こうして、ベンティコバンクの株価は上昇し、業界トップの成長率を誇っている。

消費者(市民)は、社会性コンシャス、環境コンシャス、健康コンシャス、文化コンシャスになっており、これに関する消費が伸びる。銀行だって同じである。ベンディコバンクの挑戦は、社会貢献から一歩を踏み出し、社会事業開発に乗り出したことで成功した好例である。


日本だって、すでにそんな時代になっているが、制度が追いつかず(コミュニティバンクの申請を金融庁にやっても認可になるかどうかあやしい)、挑戦ができないが、遠からず変わるのではないか。そうしたときのモデルである。