144 ロモランタン攻城戦 | Κύριε ἐλέησον -Die Weltgeschichte-

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[ロモランタン攻城戦]

 ―――フランス王軍接近の知らせは、
    ヴィエルゾンに到着していた2千ばかりの黒太子軍、
    トゥアール付近を東進していた6千ばかりのチャンドス軍の双方に伝わりました。

  ―――8月29日、ヴィエルゾン。

黒太子は、考え込んでいました。

   「殿下……。」

「ちっ!煩い!黙っていろ!」

 ―――っく……、困ったな……。
    フランス軍は1万以上の大軍…。
    今の俺の軍だけでは到底……。―――

悩んでいる間にも、フランス軍は接近していました。
直接やりあえば、勝ち目は殆どない。
もたもたしていれば、直ぐにフランス軍に追いつかれてしまう。

焦っていた黒太子は、
しかし、いつものように略奪を命じたのでした。

 夏の行軍。
軍内の食糧も減る一方で、決断し切れない黒太子に対して不満が募って来ていました―――………

 ……―――一方。
    兵数の多いチャンドス軍も食糧の限界が近付いていました。

    「フランス軍がブロワでロワールを越える……?!!
     黒太子殿下……!
     ヴィエルゾンに留まっている時間は有りませんぞ……!」

ロワール川にある都市ブロワからヴィエルゾンへは南東65km程。
黒太子軍はその場所に留まる事も許されておらず、
さらに北に進む以外の道はありませんでした。
もちろん北からはフランス王軍が接近中。
1万以上いるフランス王軍に、黒太子軍は勝ち目はありません。

    チャンドス軍は直ぐに黒太子軍と合流する事を考えました。
    オービニーから方向を西に変え、サルブリを陥としました。

  ―――ロモランタンなら我々に味方してくれる可能性が高い!
    軍備を整える為にも即刻ロモランタンで合流を!!!―――

8月30日、前日に襲撃したヴィルフランシュ=シュル=シェールを出発し、
なんとか無事にチャンドス軍と合流を果たした黒太子軍。

   ―――そして、ロモランタン。

しかし、既にロモランタンはフランス王軍によって包囲され、
待ち伏せられていました。

   「まずい……!」
   「もう引き下がる訳には……」

傭兵達の不満は爆発寸前でした。

   ――ここに着けば食糧があるんじゃ無かったのか!!――
   ――また戦えってのか!!――
   ――飯を食わせろ!!――
   ――ヴァロワ軍を蹴散らせればありつけるんだ!――
   ――攻撃だ!!――

    ・・‥‥……―――……‥‥・・

ロモランタンを包囲するのは、
フランス国王ジャン2世軍、王太子シャルル軍ら合わせて1万人程。

これを攻撃するのは、イングランド王太子エドワード黒太子とジョン・チャンドス軍約9千人程。
チャンドス軍の傭兵達も、急な進路変更で疲弊がみえていました。

 ―――イングランド軍による攻撃が開始されました―――。

騎兵と歩兵による野戦。

数時間、両軍激しく衝突しました。

互いに多く死者を出しながら――――――

太陽は高度を下げていきました―――………

―――――……‥‥・・

‥‥……―――ソルドル小川、イングランド野営地。

  ―――死傷者の運搬、治療が忙しく進められていました。

   「被害報告は!」
   「百数十が死亡……、敵軍も同等と思われます。」
   「ロモランタンは明確にどちらに味方するか判断を出していない!」
   「なんとしても市に足掛かりを!」

       ………―――「朗報!朗報です!」

   「黒太子殿下!
    イングランド軍に朗報があります!
    ランカスター公殿より援軍が急進中!
    御大将はクレシーでの名将サフォーク伯ロバートが嫡男、
    ウィリアム・デ・アフォーク殿!」

      「おぉ!サフォーク軍ですと!?」
      「あの名将ロバート殿の嫡男とは心強い!!!」

サフォーク伯軍と言えば、クレシーの戦いの折の戦果が有名となっていた軍。
その軍が到着するとなれば形勢逆転間違いなし!
この朗報によって、イングランド軍の士気はぐんと上がりました。
ところが黒太子は、冷や汗を握っていました。
それは、事実が、ウィリアムの騎兵隊は攻城兵器を運搬する、
非戦闘員を含めても200人程の軍に過ぎなかったからでした。

 ―――8月31日。

ロモランタン近郊の攻城戦が、今日も開始されました。

    ――攻め込めぇぇ!!――
    ――我々にはそろそろサフォーク軍が到着するんだ!――
    ――サフォーク軍が到着すればイングランド軍の勝利は間違いないぞ!!――

サフォーク軍の到着に湧き上がるイングランド軍。

これに対して、フランス軍も反応を見せ始めました。

――え?なんだって?――
――敵軍は、サフォークが到着すると言っているぞ?!――
――サフォークのロバートと言えば、
  クレシーで散々やられたという話を聞いたことがあるぞ……!――
――そんな軍が援軍に到着するというのか?!――

イングランド軍の高揚に動揺したフランス軍。
気持ちが散漫した軍は、弱くなる。

激しい野戦が繰り広げられましたが、
フランス軍の士気は極端に低くなってしまっていました。

「おのれっ!不確かな情報に惑わされるとは……!
 このままじゃ全滅だ……!
 撤退!
     撤退ーっ!!!!」

ついにオルレアン軍は、ロモランタンの包囲を解いて敗走する事になったのです。

  ―――――……‥‥・・・

 ・・‥‥……――――……‥‥‥・・

    ――フランス軍撤退!!――
    ――ガスコーニュ軍の勝利だ!――
    ――攻め込めぇ!!――
    ――この塔が緩い!行けぇぇ!!!――

攻略の障壁だったフランス軍を追い払ったイングランド軍は、
一挙に攻城に取り掛かりました。

   「とは言っても……」

     「フランス軍を敗走させたとは言え、
      この戦いは決して大勝利ではありません。」

    「ええ、
     殿下、、ダルブレ殿が、戦死されました……。」

「くっ……、彼の軍が居ないのは痛手だ……。」

    「死者も数百に及びます…。
     フランス軍が立て直して来れば、
     今日のような強運の勝利は……。」

「うむ…、分かっている。
 キツイな……。」

黒太子の表情は固いままでした。

そんな夜に、こっそりと、ウィリアム・デ・アフォーク(1339-,17歳)の軍が到着していました。
彼の荷は、四輪の馬車で丁重に運ばれていました。

   「エドワード殿下。
    例の物をお持ちしました。
    無事に、事故も無く………」

その荷物、一つの木箱を見つめながら黒太子は応えました。

「あぁ。事故が無かったというのは、
 これがここにあり、ウィリアム達が無事にここに居る事だけで分かる。」

   「そ……、そう、、ですよね……。
    もし何か起きていたら、僕達は全滅していたでしょうから……。」

そう言って、自分達の運んできた物に再び恐怖したのでした。

  ・・‥‥……―――――

 ――――9月1日、ロモランタン包囲。

フランス軍を敗走させたとは言っても、
眼前にあるロモランタンを攻略しておかなければ厳しい。
イングランド軍は、午前中から攻撃を開始しました。

しかし市は、一向に降伏する素振りは無く、イングランド軍に抵抗していました。

「………。
 よし。あれを試してみよう。」

しばらく考え込んでいた黒太子はそう言いました。
そして黒太子は、昨夜到着したアフォーク軍を呼び出しました。

アフォークによって運ばれてきた木箱を開梱すると、
中は羽毛や藁で厳重に保護されており、
中身は、ガラスで出来た小さな瓶が詰まっていました。
瓶は片手で持つと少し余る程の球体に近い形で、
小さな口はしっかりと蓋で密封されており、
紐が付いていました。
瓶の中には、黒い粉末がぎっしり詰まっていました。

    「この瓶は、いったい?」

周りの兵士達は、これが一体なんなのか、想像もつきません。

    「胡椒?これが、戦闘のなんに役に立つ?」

兵士達は疑問符だらけでした。
もちろん、アフォーク軍はその脅威を知っていました。
これを使うのは当然彼らの軍。

「ウィリアム、投擲隊と代われ。」

黒太子はアフォークに命じました。

攻城戦が続けられている中、
トレビュシェットに小瓶がセットされ、瓶から出ている紐に火が付けられました。
アームを押さえているロープが切られ、小瓶が城壁内へ発射されました。

  弧を描いて舞う小瓶――――……‥‥・・・・ ・ ・

    ……………‥‥・・・・

   ・・・・‥‥―――どごぉぉぉぉぁぁぁぁん!!!!!――――

突然けたたましい炸裂音と共に、
閃光が放たれ白煙が広がりました。

城内の兵士達は、唖然としました。
物凄い音と物凄い光……

 「なんだ?!??!」
  「何が起きた?!?!」

再度それは投擲され、凄まじい爆発音を響かせ、
兵士達にとてつもない恐怖心を与えました。

    「ぎゃぁぁぁっ?!」
   「いったいなんなんだ?!?!」
     「神の怒りだぁぁ!!」
      「逃げろぉぉ!!」
     「何かが祟ったのだ!!!」

もちろん、神の怒りなどではありません。
瓶の中には火薬が詰められていたのです。
炸裂したガラス瓶の破片が飛び散り、それが兵士達に怪我を負わせました。
爆発自体は大した事は無く、危険なのは、
爆風で飛び散るガラス片のみ。
つまり、殺傷能力は殆どありません。

しかし―――

    ばぁあぁぁあん!!!!

      どぉぉぉぉおぉん!!!

今まで聞いた事の無い爆音というものに、兵士達は狼狽しました。

城内の慌て振りは、城外のイングランド軍にも十分伝わっていました。
もちろん、彼らすら、その武器の脅威に驚愕していました。

「す……、すごい……。」

黒太子もその一人でした。

「なんという武器なんだ……!
 ふふふ……。
 凄いぞ……!
 これが、勝利というものだ……!
 制海権を我が国が手にし、
 ヴェネツィアとの交易によって得た代物……!
 モンゴル帝国軍が使用して中国を統一した切り札!!
 これぞ本当の軍事力なんだ……!!
 ふふふふ……!!
 面白くなってきた……!!」

   ・・‥‥……――――――

 ……―――9月3日。

ついにロモランタンは、この攻撃に恐れをなして降伏。
黒太子に鍵を渡したのでした。