

『笹子峠・矢立の杉 其の二』
一番はじめの倶楽部走が、ここ笹子峠でした。
あの時は、駅から旧道まで2キロ程度の道のりで、すでにくたびれ果てたのを覚えています。
今回は駅の段階でくたびれ果てていたおかげで、まさに初心に返ることが出来ました。
もう、旧道までの道のりの遠いこと、数を増していくように感じるトラックや
ダンプの憎いこと、いい陽気も「暑すぎるんでい」とのこと。旧道までの間に二度も足を止めてしまいました。
旧道、旧道です。
もう、トラックもダンプもいません。
風が気持ちよい、小鳥たちの声が気持ちよい、日差しが、新緑が心地よい。
これで登りじゃあなかったら天国なのですけどね。
まあ、いろいろあったけど、もういいや。
甲斐大和から輪行しよう。
お尻の下にはタオルを敷けばいいさ。タオル一枚無駄にすればいいんだ。
峠を目指してトボトボトボトボ。
峠のすぐ手前、矢立の杉まで来てみると「車両全面通行止め・4月中旬」まで(※1)。って、おい!今日はもう中旬だよ。ここまで来てそれはないだろう、、、入口
に書いておけよなあ。
しばし呆然。
しばししばし後、「それはあってもなくてもこれはあるんだからしかたがないか」。
矢立の杉(※2)を撮影して、戻る準備をしていると、軽自動車が一台あがってきました。
降りてきたのは、いかにも役場の少しお偉いさんとその部下といったいでたち。
支度中の私に向かって「ご苦労様です」「はあ、あ、ご苦労様です」「あちらへ越えるのですが」「いえ、通行止めだし、上で作業している音が聞こえるから引き返すところです」「いや、自転車は大丈夫」「え?」「車は駄目だけど
自転車は平気。行ってご覧なさい」「あ、ありがとうございます」。
行ってみれば、そこは伐採作業中。
警備を担当の人が「ここまで来て引き返すのはなんですものね。今、作業を止めます。ピーガー(トランシーバーの音)はい、自転車一台行きます。お願いします」「すいません」「ただ、笹子トンネルも工事してるから、そっちは通してくれるかどうかわからないよ」「そん時は引き返してきますからよろしく」。
登りなんだけど、疲れてるんだけど、なんせ皆さん一斉に作業を止めてくれて
いるので、んなこといってられません。「ありがとうございました~」と、お礼を連発しつつガシガシと通過。
トンネルまで来てみれば、なるほど重機が道をふさいで、その周りで作業員た
ちがお茶しています。
「通れますか?」「通れますかって、よく上がってきたね」「いえ、下は自転車なら構わない、と、快く(ここ強調)通してくれました」「どこからきたの」
「どこって、東京ですけど」「走って?」「ずっと走って」「休み無しに?」
「休みましたよお」「いや、下から休み無し?」「いえ、矢立の杉で休みました」「そうだよな、そうじゃないと疲れるよな」。
なんだかかみ合っているような、すれ違っているような会話の後、「ここまで来てもどるって法はないだろう」「帰れって訳にはいかんだろう」「トンネル作業の手前に警備員がいるから聞いてみな」「たぶん大丈夫だ」。
「ありがとうございました~」で、トンネル内へ。
あちゃあ、電装持ってきてないな。これじゃあっちからわからないじゃないか、と思いきや、後ろからでかい声で 「自転車が一台いったぞ~!」。親切に言ってくれているのはわかるのだけど、なんか聞きようによっては「自転車が一台強行突破していったぞ~!!」 と聞こえなくもないので、「すいませ~ん、自転車です!通してくださ~い」 と付け足して、工事の照明の中へ。
心配するまでもなく、こちらも作業の手を止めて「ご苦労様です、気をつけて
お通りください」「いえ、手を止めさせてすいません」。見下ろしている作業中(手を止めているけど)の皆さん、警備員さんにお礼を言ってとっとと通過
しました。
トンネルを抜ければ、地面には落ち葉、木々もまだ芽吹いていない。
峠の春はこれから、といった寂しい風景です。
でも、あんなにくたびれていた気分はなんだかすっきり。
やっと「来て良かったなあ」の一言が浮かびました。
気分はすっきりしたけど、くたぶれた体も、お尻もペタペタのまんま。
「甲斐大和から輪行」
するべく、峠を下れば、甲斐大和の村は桜が満開なのでした。
※1 下りの途中に「通行止めは平成17年4月21日まで」の表記がありました。
※2 時代小説にも登場する旧甲州街道の名所…というか、このコース唯一の名所。写真のように根本から中にはいることが出来る。
中はがらんどう。枯れを防ぐためか焦がしてある。
杠 聡 イラストライター 東京・日野市在住
後日談。
ガムのべったり付いたサドルは、皮サドル用のミンクオイルで綺麗に。
翌日、はいていったニッカを洗濯してくれた相方が、「あんたこれで帰ってきたわけ?」「そうだよ」「お尻がこんなに裂けていたわよ」と親指と人差し指をいっぱいに広げた。で、現物を見ると「わああ!!」。
電車の中はともかく、駅のプラットホームから上がるエスカレータで私の後ろにいた人は、ガムがベチャアとついて、ガバと裂けているズボンを見てどう思ったでしょうか。
その日の夕食と、翌日の職場(学校)での話題を大提供してしまったなあ。