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平昌オリンピック2018
フィギュアスケート日程

❄️男子シングル
・ショート☞
2月16日(金)10:00〜14:30

・フリー☞
2月17日(土)10:00〜14:25

❄️女子シングル
・ショート☞
2月21日(水)10:00〜14:30

・フリー☞
2月23日(金)10:00〜14:10

❄️エキシビション
2月25日(日)9:30〜12:00



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✴︎短編小説✴︎

「空っぽの夜明け」

もし。
もしも、俺がこの瞬間に存在してなければこんなことにはならなかっただろうに。そう思った。
「あんたさえいなければ」
彼女は唇を噛みしめながら怒りで充血した目で絞り出すようにそう言った。

彼女は、俺の母親は俺が幼い頃から俺のことが嫌いだった。俺は母親から愛されたことがなかった。
母親はそもそも子供など欲しいとは思っていなかった。親父と結婚したのも、母親の中に幼少の頃からあった深い孤独から、結婚という救いになだれ込むように辿り着いたというだけだった。

妊娠してしまった母親は親父の「ガキの1人くらい持ってみてーな」という軽い言葉に押され、親父を手放したくないという思いのみで俺を産んだ。
それが母親が30歳の時だった。
「あたしはね、子供なんて欲しくなかったのよ」
彼女はうつろなまなざしで躊躇することなく、はっきりとそう言った。
手入れのされていない肩まで伸びた白髪混じりの頭、シワが増えカサついた肌のすっぴんの顔は疲労に満ちている。
「ごめん」
それしか言えない俺は、そう呟いた。
親父は子供を欲しいと軽々しく言ったものの、産まれてきた俺にはほとんど興味がなく、女遊びに明け暮れていた。

親父は母親が留守の時に女を連れ込むことも何度かあった。
見知らぬ女と親父が裸で絡み合う姿を、俺は何の感情もない冷めた気持ちでドアの隙間から眺めていた。

「大人」という名前のついた、あらゆる感情に寄生され孤独で弱い哀れな生物たち。
浮気が母親にバレると親父は屈託のない人懐こい笑顔で「まあまあ」と母親をなだめ抱きしめた。親父の持つ中毒性のある甘いオーラに飲まれると、母親は力なく親父のことを抱きしめ返していた。

高校を卒業して1人暮らしをするその日の夕方、親父は蒸発した。
母親は発狂し、家を出ていく俺の後ろ姿に向かって、
「さっさとどっかに消えちまえ!」
と大声で叫んだ。
俺は淡々とした気持ちでため息をつきながら駅へ向かった。
駅の前には、蒸発したはずの親父が立っていた。
「……何やってんの?」
俺はもう何が何だか分からず混乱した。
「おまえ、まだ気がつかないのか?」
親父は俺を哀れむような悲しげな顔でそう言った。
「何が??」
俺が聞き返すと、親父は1つ息を吐いて遠くを見つめた。
「おまえには息子なんかいない。子供なんかいないんだよ。自分の姿を見てみろ?」
体の芯が冷たくなる。
感情が消え失せ、世界がしんと静まりかえるようだった。
俺は……私は、駅前に設置された鏡に視線をやった。
トレーナーとズボン姿の枯れたようなおばさんがそこにはいた。

私には子供など出来なかった。旦那をつなぎとめたくて、子供が欲しいと言った旦那の望みに答えたくて、私は私から逃げ続け、架空の存在に憑依していた。
しかしそれでも旦那は私を愛してはくれなかった。私は私自身に向かって言い放ちたい暴言を、私の息子という架空の存在に向かって叫んでいたのだ。旦那はその間、罪悪感からか生活費だけは入れてくれていたようだった。
私は気がつくと二重人格者になっていた。
「おまえは、おまえなんだよ」
旦那が私の両肩を掴んで言った。
そして彼は荷物を持って、ホームに滑り込んできた電車に乗り消えて行った。

私は、空っぽになった。
冬の夕闇に包まれる公園のベンチに座ると、そのまま明け方まで呆然としていた。

夜が明け自宅のアパートに戻る。
6畳の部屋が二部屋、ゴミのようなその空間を片付け、ゴミ袋30個分に次々と物を放り込んだ。
最後のゴミ袋をゴミ捨て場に運び終わり部屋に戻る。
部屋には小さなちゃぶ台1つと、スーツケース2つだけが残っていた。そのまわりには陽だまりができていた。
湯のみでお茶を入れると、静まりかえった畳の部屋にコポポポという良い音が響き、湯気が朝日に照らされ、茶葉の香りが部屋に広がった。

それをゆっくり味わうと私はスーツケース2つを両手に立ち上がり、一階の大家の部屋を訪ねた。今日でこのアパートを退去したいことを告げると、よほど私の事が前々から迷惑だったのか、早く出て行けとばかりに部屋のドアを乱暴に閉めた。

財布にあった2万円のお金で、私は二十年と帰っていない田舎の実家に向かった。2万円で帰れる距離にも関わらず帰れなかった。

昔と全く変わっていないよくある古い一軒家、玄関先で年老いた父親が腰を曲げ草むしりをしていた。
父親は私に気がつくと「どちらさんですかい?」と言った。無言でいる私を見つめ、父はゆっくりと立ち上がると、
「中に入らんか」
まるで小学生に向かって言うような柔らかい口調でそう言って笑った。
私は玄関先でこれでもかというほど子供のようにわんわん泣いた。こんなに人間の体からは水が出るのかと驚くほど泣いた。

日のあたる居間、こたつに入ると私はこれまでの何十年のことを全て話した。
父は全てを聞き終わると、お茶をすすりながら静かに微笑んだ。
「それで、何でこんな何十年も帰ってこれなかったんだ?」
父は微笑みながらも寂しげに私を真っ直ぐ見て言った。私の中で深く深く埋もれていた恐れが鮮明に見えてきた。逃げも隠れもせず目の前にそれが現れた。
「お父さんを失うのが怖かったの、小さい時から……だから遠く遠くへ逃げたの」
小さい時に病気で母を失い、父までも失うのが恐ろしくてたまらなかった。
そのうち、自分が疫病神なのでは? と思え父から逃げ、あげくに私は私自身からも逃げた。逃げたかった。遠く遠くに。
「何十年も帰れないほど怖かったんだな、人の愛情と向き合うことが」
父は全てを受け入れ許すように微笑んだ。
私は愛情と向き合うことが恐ろしく、しかし愛情を向けてもらえないことにも恐怖を感じ、がんじがらめになっていた。人の愛情と向き合うことも失うこともどちらも恐怖だった。そしていつも結局孤独を感じていた。小さい時から心を閉ざし孤独だった。
「いい方法がある」
父はそう言うと笑った。
「人の愛情となんか向き合わなくていい。愛情と思うから重くなる。愛情に同じだけ答えねばならない、同じだけ答えてほしいと思うから重く逃げたくなるんだ。それによって罪悪感を感じるんだろ?
お互いもっともっと軽くいこう。親だから親孝行をなんて考えなくていい。どれだけ親孝行できたかなんてみじんも考えなくていい!もっといい意味で軽い友達になろう、これから。そして私がいつかこの世を去った時は、近所の人も集めてパーティーしてくれ友よ。君は永遠の友だ」
父はそう言うと、
「私の友達になってください」
とふざけたように言い、片手を差し出し握手を求めてきた。
私は泣きながらも吹き出してしまい、ゲラゲラ笑いながら、その新しい友達と握手を交わした。
私は何かに成ろうとしなくてもいいのだ。自己肯定もしなくていい。
私は空っぽ、空っぽのままで私なのだ。

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