時雨でございます。   前回のお話⇒≪本当にあった話  一話≫



山口弘美は勝気な女性でした。勝気じゃないと男ばかりの職場で戦ってはいけません。でも、それは仮の姿であって、本当は自尊心の弱い、とても繊細な女性でした。幼少頃から両親が自営業で忙しく、弟や妹の面倒を見なければならず、自分が甘える場所も、そして甘える事も知らなかった弘美は、常に自分を強く見せないといけない立場で育ったため、自尊心なども傷つかないようなバリアをはる癖がつき、自分が頑張る事で、自分が能力を上げる事で、自分が他よりも強い人間であると思いこませる事で、自分の立場を守ってきた女性だったのです。



ただ、世の中はそんなに甘くはありません。次々と課題をつきつけ、時には理不尽極まりない制裁すら飛んでくるのです。特に昭和40年代などは、まだまだ男尊女卑が酷く、何かを言えば「女のくせに何を生意気な!」と言われる時代です。そこで闘い続けようなどという行為自体が、他の平凡な女性から見ても「なんて無謀な事を・・」と思われるような行動派で勝気な女性、それが弘美だったのです。



部長と、自分の部下からの裏切りをされ、会社も解雇され、一人途方に暮れて、毎日毎日弘美は考えました。


「一体私の何が悪いって言うの?」

「女だと思って差別をして・・絶対に許せない!」

「独立して、彼らを見返してやりたい!」

「法律が許すなら、本当に殺してやりたい!」

「恩も知らず裏切り、なんて卑怯な男達なのかしら!」


とにかく、納得できない不満が怒りとなって、毎日毎日弘美の心の中をぐしゃぐしゃになるまで掻きまわし、この怒りをどこにぶつけていいのか解らず、最後は怒りが悔し涙に変わり、空しくて力尽きる、家に引きこもり活力もでず、毎日が抜け殻のような生活をしていました。


そんなある日、あまり家に閉じこもっていてはいけないと思い、気分転換に散歩をしようと近くの公園までいきました。そこで弘美はベンチに座り、子供たちがサッカーボールで戯れて遊ぶ姿を頬杖をつきながらボーっと見てました。


すると、弘美の目の前に杖をつきながら白髪白髭のお爺さんがニコニコとして笑顔で近づいてきて、こう言いました。


「冴えない顔じゃの?まだ若いのに、綺麗な顔が台無しじゃ。若い女性はもっと表情豊かにしてないとな。頑張り過ぎじゃ。顔に出とる。何をそんなに片意地はっておるのじゃ?」と。更に続けて


「人生には人に騙されたとか、裏切られたとか、そういう事もあるだろうけど、でもその原因は全部、自分にある。それを知らずしてただ怒りに任せて生きても何も解決はしない。今のアンタの顔を見てると、何も解ってないようじゃな」



弘美は思いました。


「何だろう?この御爺さんは。いきなり話しかけてきて、言いたい放題。。でも、何で私の今の状況が解るだろうか?」と。


弘美はお爺さんに言いました


「あの、どうして今の私の心境が解るんですか・・?まさに、仰る通りで、ビックリしてます。そうなんです。実は、最近仕事で裏切りがあり、解雇され、そして日々途方に暮れてる状況でして・・・お恥ずかしながら・・もう2週間も無職のまま仕事も探さずに日々ダラダラと過ごしてます。誰にも相談できずに苦しくて・・・うぅぅぅ」



弘美は自分で話しながら涙が出てきました。


お爺さんは言いました。


「実はな、ワシはある人物から依頼されてきたのじゃ。その人物が誰かは今は言えん。ただ、君がもっとも信頼できる人間からの依頼じゃ。そして、先に言うが、君は今、心身も、仕事も、全てが最悪な状況にあると思い込んでる。でもそれは違う。今の君はワシから見て、これほどまでに幸せな女性はいるかな?と思うくらい良い状況にある。だからワシは、君にまずこう言いたい。『良かったね』と。」



弘美は思った。

「もしかして・・・暇つぶしの説教爺さんの戯言にでも捕まってしまったかな・・・?」と。



「あの、私は心底、落ち込んでます。そして悩んでますし、この先もどうして良いのか解らずに苦しんでます。その私に向かって、いきなり『依頼されてきた』とか『良かったねう』とか、馬鹿にしてるんですか?ふざけないで下さい!もう帰って下さい!」



お爺さんは言いました


「いやいや、そう熱くなるな。悪かった。そうじゃな、確かにその通りだ。じゃあこうしよう。ワシは君が今回の問題、悩みをキッカケとして、今までが比較にならない程の人生の飛躍をする、そしてその飛躍をしっかりとやり遂げ、順風満帆な人生を歩み続ける事を知ってる唯一の人物である。そして、それを達成するに十分なほどの才能と可能性を秘めてるのが、君じゃ。君自身じゃ。それを教えに来たのじゃ。」



弘美は思った


「このお爺さんの佇まい、オーラ、そして自信満々の説明、そして私を見る確信に満ちた眼力、何かを知ってる。只者じゃないのは私にも解る・・・気味が悪いけど、もう少し話を聞く価値はありそうだわ・・」



「あの、正直、いきなりの事でビックリしてます。一体、どこからどこまでの話を信じて良いのかも解りませんが、今の私が苦しみ、藁をも縋る思いで現状から脱却したいというの事実です。なので、もし私に何かアドバイスを頂けるなら聞いてみたいと思います。」



お爺さんは、老人独特の線香のような臭いを漂わせて答えました


「そうかそうか。よし解った。よいか?人生には予期せぬトラブルや問題はつきものじゃ。それを回避しようと考える事自体が問題なのじゃ。何故なら、それは回避できないからじゃ。それらに出合った時にどう生きるか?で人生が大きく左右される。ただ闇雲に感情に任せて一喜一憂していては益々ことを悪化させるだけじゃ。君には軸がないのじゃ。中心となる軸がない。だから問題があると直ぐにブレるのじゃ。」



弘美は言った


「軸・・ですか?軸と言われても・・・」



「軸とは、自分に起きる出来事を判断するときに、ブレない、しっかりとした価値基準の事じゃ。過去の偉人を見てみなさい。彼らには必ずゆるぎない軸があった。軸があれば自分に起きた問題の意味を正しく理解し、自分が次に何をすれば良いかを知る事ができる。まず、真の心の豊かさを実現するには自分の中心となる軸を定める事がポイントになるのじゃ。」



弘美は言った


「中心の軸ですか・・?私も大手の会社で女ながらに課長職をやっていたくらいですから、それくらいの自己啓発なり哲学、軸は持ってるつもりですけど・・?」



「そうかね?ワシには君が軸を持ってるとは思えなんな。」




とこういった問答が繰り広げられ、お爺さんは弘美に軸がない事を看破する質問をしました。その質問とは・・



続きは本当にあった話  三 話 でお話します。



つづく