ロシア語通訳家のエッセイ。(文春文庫)
まるでイタリア語のようなタイトルもガセネタ、下ネタの駄洒落であって、通訳仲間から聞いた裏話やロシアの裏話満載。

例えば、ツルゲーネフは美男だったが、トルストイは、というと....
伯爵家の御曹司のトルストイを拒める農奴女はいなかったから、生まれ故郷からモスクワまでの道筋に彼の子どもが200名ほども産み落されたと、今でも語り草になっている。しかし醜く野暮ったいトルストイは、自分と同じ階級の女には、絶対的にモテなかった。
"アンナ・カレーリナ"や"戦争と平和"で女にモテる美形男が、彼の小説では決して幸せな結末を迎えられないのに対して、不細工な男には、最後には穏やかな幸福が用意されているのは、偶然だろうか。」.....


「ソ連時代、本屋に本がなかった。ある本といえば、マルクス、エンゲルス、レーニン著書、そしてチェーホフ、ドストエフスキーなどの純文学。たまに新作とかでると、たちまち売り切れ。大江健三郎の新訳が出たときなど、客同士、つかみ合いの喧嘩になり、発売開始30分で売り切れ。増刷などしない社会主義経済、皆でタイプで筆写してまわし読みまでしていたという。
ところが現在は「売れる本」の氾濫。ハーレクインロマンス、ハウツー本、B級推理小説、ゴシップ雑誌。純文学なんて今のロシアじゃほとんど見向きもされない。本屋にも置いていない。
まるで雑誌と受験参考書と漫画だけの本屋ばかりの日本の書店のような、自分と自分の同類がどうやら絶滅へ向かっているらしいという予感。.....」


私の初海外旅行はロシア、いや旧ソ連だった。まだその頃はソ連の事情など、日本では何も情報がないに等しかったから、見る物聞く物、すべてが新鮮で、カルチャーショックで、エルミタージュを見たときなんかは、ワインの味も知らずに極上のワインを飲んでいる、と感じたものだった。
今ではロシアもどんなに変ったのだろう。
私としてはあのときのロシア体験があるから、どこの国に行ってもさほど驚かずにいれるのかとも思う。