5-16 自然との戦い 1 | 夢、成る瞬間

夢、成る瞬間

ダグラス・コマエ物語

 生活は穏やかそのものだった。
 海からの風は優しく、波の音は耳に心地よかった。人間関係はあたたかく、陽の光はいつにも増して柔らかかった。
「赤ん坊にとってこれ以上の環境は望めないだろう」
 それほどアダコアは理想的だった。
 一か月の滞在のあと、祝福の二人は日本に帰っていった。二人はアダコアでの日々を充分に楽しんでくれたようで、必ずまたいつか戻って着ますと社交辞令を残して去っていった。
 これにより生活のリズム――というよりもバランスが微妙に傾いた。初めは気のせいかと思うぐらいだった。
「最近うちの猫見ないわね」
 オルータがわずかに表情を曇らせた。ネズミ退治のために二年前から飼っている猫のことである。
 名前は特になかった。普段は猫(プッシー)と呼ばれていた。

  

          当時飼っていた黒猫(2002年)

 

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