続いて港屋、柳屋、その他の一枚ものをご紹介いたします。


(二)港屋版


「港屋版」は「港屋」という絵草紙店が足掛け3年しか営業していなかったので、その出版数も少なく、およそ8点ほどです。その中で代表的なものとしてこの「港屋絵草紙店」があげられます。一つの画面でこれほど大正ロマンを感じさせる作品が他にあるでしょうか。


前景の男女3人が一番大きく、そのすぐ後ろにまた3人の人物が少し小さく、そして遠景には洋風の建物とその前の柵にもたれて話し合っているシルエット風の人物が10人描かれています。それらの人物から、和から洋へと急激な変遷を遂げた大正の風俗がよく伝わってくるではありませんか。照明はと見ればこれもまた提灯・行灯・瓦斯燈と、和と洋の混在した時代を象徴する風景です。外国からたくさんの文物を日本へ運んできた船が提灯に描かれています。夢二の配色・構図・描写・構想が見事に結実した傑作です。





館長のブログ-港屋絵草子店
港屋絵草紙店

館長のブログ-治衛兵みなと
治兵衛


この作品は大きな画面の中央に顔だけを描き、あとは余白として残し、人物全体を鑑賞者の想像で完成させるといった心憎い構想。この顔を見ているだけで振りが見えてくるから不思議なものです。

館長のブログ-マスクみなと
治兵衛のマスク


この作品の構図は抜群です。幕の影に身を隠し、顔だけ見せる一座の花形役者。鑑賞者に強い印象を残します。一枚一枚袋(下図)に入れて販売したものです。おそらく港屋の木版画はこのように袋に入れて販売されていたのでしょう。袋がそのまま残されているのは珍しく、貴重な資料です。

館長のブログ-一座みなと
一座の花形


館長のブログ
「一座の花形」袋


夢二の一枚ものの版画で風景は極めて珍しく、この「ちょうちん」と恩地孝四郎が彫って摺った「榛名山」などが代表作と思われます。「ちょうちん」は道の両側に2本の電線が引かれた電信柱が何本か描かれ、建物の土台の石と縦の腰ばめの木が美しい線を構成し、それと屋根との間の白壁が時代を感じさせます。道には人影も無く、なぜか遠くに提灯が8個ぶら下がっています。昼間の風景なのに題名が「ちょうちん」なのはそのせいでしょうか。

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ちょうちん


この「梅川忠兵衛」は「柳屋」でも再販されますがそのときは右上の文字が取り除かれています。(柳屋版を参照してください)

館長のブログ-梅川みなと
梅川忠兵衛