(story) クリスマス(かあさまの秘密) | 軽井沢で美穂の時つむぎ

(story) クリスマス(かあさまの秘密)

いつからかだっただろう。。
クリスマスの夜にかあさまは私を前に決まって昔話を話してくれた。。
それはかあさまの小さな頃の話や世の中の話だったり、それが私が大きくなるにつれ、かあさまの恋の話を聞かせてくれるようになった。。
かあさまの作ってくれたクリスマスの料理とプレゼント。。そして、必ず12冊の新しい本をくれたっけ。。
私達はとっても仲が良かった。。
私には世の中で言うところの父親がいなかったから、かあさまはたった一人で私を育ててくれた。
いつもいつも忙しいかあさまだったけど、クリスマスには必ずお休みを取ってくれて私と一日中過ごしてくれた。。
でも、いくつかのかあさまの恋物語に私のとうさまの話は何故か出てこなかった。。

あれは私の心に一人の男性が現れた年のことだった。。。
私はかあさまにクリスマスの夜にデートをしたい、と告げた。。
かあさまは、あなたもそういう年になったのね。。と言うだけで反対、しなかった。。
正直、私の頭の中には彼のことでいっぱいで、かあさまの恒例の話などすっかり忘れていたほどだった。
クリスマス・イヴの夜、かあさまはいつもクリスマスの時に出すようなご馳走を食卓に並べた。。
私は少し、心が痛かった。。
その晩、私達はたわいも無い話をしながら夕食を取った。。
でも、かあさまの恋の話は何故かなかった。。かあさまは怒っちゃったのだろうか。。。
私は少し心配したけど、かあさまに振るでもなく、食事を済ませてしまった。。。

次の朝、目を覚ますとベッドの横に白い封筒が置いてあった。。私はバイトがあったので、そのまま封筒をバックに入れ、プレゼントの入った紙袋を持つと、朝食も取らずに家を出た。。
なんとなくかあさまの顔を見られなかったこともあったんだけど。。。
本当はかあさまの封筒がとっても気になって仕方が無かった。。だけど、見られずにいた。。どしてだろう。。。

バイトは時間通りに終わった。。
彼との待ち合わせまで一時間、間があったので、私は一人で喫茶店に入って時間をつぶす事にした。。
そしてかあさんの手紙を読むことにした。。。


とーこへ
大きくなったね、とーこ。。
あなたも一人前に恋愛するようになっちゃって、かあさま、嬉しいけど、寂しい気もしています。。
でも、今迄、とーこにはかあさまの話、たくさんしてきたからきっといい恋愛できる、ってかあさま、信じています。。
一人前に恋愛するようになったとーこへ、最後のアドバイスしようかな?
とーこもこれから色んな男性に出会うと思う。。その時に役に立つといいかなって思ってね。。
かあさまの男性論を書く事にしましょう。。。

かあさまは拘りを持った男性が好きです。。
何かに夢中になったり、真剣になれるものを持った男性が好きです。。
男性って言うのは社会に出て仕事が忙しくなると仕事だけになっちゃう人がどうしても多い。。
そうしているうちに、どうしても自分の中での占める割合が多いから、仕事での立場から自分を解放出来なくなってしまう。。。
会社では上司で、部下がいても、その人、個人になった時に、そんなものは何にもならないのに、切り換えが出来なくなっちゃう人って案外、多いんだよ。

だけどね、何か他に夢中になれるものを持った人は自分をすぐに解放できてる人だとかあさま思うの。。
よく「男はいつまでも少年の心を持ち続けられる」って言うよね。。
だけど、持ち続けられる人、かあさま、そんなに知らないです。。
この持ち続けられる人こそ、拘りを持った男性なのよ。。

ミニカーやプラモデルに夢中になっちゃっている男の子っているでしょ?それとか、夢中で外で遊んでいて、気がついたら真っ暗になっちゃって、怒られるんじゃないか、ってビクビクしている男の子、遠くに行き過ぎて迷子になっちゃって、心細い気持ちや涙を必死にこらえる男の子。。
そんな男の子がそのまんま大きくなっちゃったような人、かあさま知っているの。。

かあさまはその人がかあさまを目の前にして、お話してくれるの聞いているのが大好きだった。。
一晩中だって、かあさま、その人の話、聞いていたかったわ。。
目を輝かせて、一生懸命話をしてくれるその人にはかあさま、会社の歯車とか、組織の一部とか、そんなもの、何も感じなかったわ。。
でも、決して、お仕事を蔑ろにしていたわけじゃないのよ。。
お仕事はお仕事として、立派にやっていたのは言うまでもないわね。。
かあさまはその人のこと、とっても愛していたわ。。その人もかあさまのこと、とても愛してくれた。。。かあさまは幸せだった。。。

これから書くことはとーこにそうしろ、ってことじゃないの。。それは誤解しないでね。。

かあさまはとっても愛しているその人と結婚することを選ばなかった。。
とーこがかあさまのお腹の中に生まれた時、かあさま、一人で育てようって決めたの。。
かあさまは器用な人間じゃないから、あなたの母親でいながらあなたのとおさまの妻にはなれない気がしてね。。
とおさまの前ではずっと女でいたかったの。。
かあさまのわがままのために、あなたにとおさまと呼べる人、いなくしちゃってごめんなさいね。。
でも、かあさまはあなたの母親の前に自分、ってのがあったのよ。。
その自分を捨てられなかった。。
そして、もう一つ、かあさまはあなたのとおさまを家庭に縛りたくなかったの。。
とおさまのきらきら光る瞳をかあさまのせいで、輝きを失わせたくなかったの。。
男は家庭を持つとやりたいことの半分も出来なくなる。。
家族を養うために仕事をして、したいことも我慢して、でもね、普通はそれも、自分の作った家族のためならって思うものなのよ。。そして、それを幸せに感じる男性も多いの、それが普通なのよ。。
でも、かあさま、とても愛したその人との間の子、神様から授かった変わりに夫を持つことをやめたの。。
心から愛して、尊敬できる素敵な人の遺伝子、かあさまが未来に受け継げることが嬉しかったぁ~

その人にもずっと自由でいてほしかった。。
妻や子供達の為に生きるのではなく自分の為に生きてほしかった。。
彼を愛していたから、彼を一番よく知っていたから、彼をずっと愛し続けたかったから。。。
家族にはならない代わりに、それ以上のもの、かあさまはその人から貰った、って思っている。。

かあさま、今でも、勿論、あなたのとおさまを愛しています。。
そして、彼もかあさまを愛してくれています。。

結局、彼は家庭を持たなかったの。。
かあさまはそれがわかっていたの。。
今でも、彼の目は誰よりも輝いているわ。。

かあさまは自分の意志を通すことで、あなたに父親を持ったことが無い子にしてしまったけど、でも、あなたのとおさまを世界中の男性の中で一番愛しているの。。
あなたはそんな愛の中、生まれた子なのよ。。
クリスマスにいつも渡していた本、あれはとおさまからのあなたへのプレゼントだったの。。。

でもね、とーこ。。世の中には一生愛し合いながら夫婦として、父、母として、立派に家庭を持ち続けて幸せな人もいくらでもいる。。
それは忘れないでね。。
かあさまととおさまは出来なかった、ってだけだから。。。

かあさま、あなたが独立したら、彼の側に行こうと思っています。。
でも、間違えないでね、決して即しているわけじゃあないんだからね。。
とーこがどんな形でかあさまの所から巣立っても、かあさま、あなたが決めたことなら反対、しません。。
だって、とーこは彼とかあさまの子だから。。。

とーこ。。本当に愛せる人と結ばれなさい。。
あなたが本当に愛せる人を見つけなさい。。
その人と結婚したいならそれもいい。。
かあさんのように生きるならそれもいい。。
でも、女として生まれたからには、一生に一度は死ぬほど愛せる男を全力で愛しなさい。。

あなたの人生です。。人の迷惑にならなければ良いのです。。
好きなように生きなさい。。
あなたはそれができる子です。。


かあさま。。。私は女なんだね。。
かあさまのように強く、自分の意志のために生きられるかどうかまだわからないけど、私は私でやってみるよ。。
かあさまのように、一生涯、愛せる男にめぐり合うために、私もいい女にならなくちゃ、だね。。
彼が私の一生愛せる男かどうかわからないけど、今は彼が大好きです。。
とおさまのいる暮らしがどんななのか、私にはわからないけれど、私はいつもかあさまの大きな愛を感じていたからとおさまが居ない暮らしも平気だった。。
それに、私にはとおさまがいないわけじゃなかったんだね。。
クリスマスにかあさまがくれたプレゼント、あれも、嬉しかったけど、12冊の本、とおさまだったんだ。。
かあさまがお仕事で帰りが遅い夜、私は本を読んで過ごすことが多かった。。
私の本好きはとおさまのおかげだったんだね。。。

もうすぐ彼が来る。。
かあさまと一緒じゃない初めてのクリスマスだね。。
かあさま、私、幸せです。。。