父の日

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「元気にしているか?」

携帯から響いた言葉に、ドクリと心臓の音が鳴る。


「ど、どうして……」

少し掠れた声を返すと、「どうしてはないだろう」と電話の向こうで苦笑された。


「今日は何の日だと思っている?

薄情な俺の娘は、電話一本くれる気もないのか」


情がないと電話越しに責める言葉は、それでいて飽くまで優しく

穏やかに微笑む姿が記憶から鮮やかに蘇る。


とーさん……!

浮かんだ呼び名は、唇から零れることなく胸の内だけで木霊した。



「おい、聞いているのか」

「聞いてます。あんまりびっくりして、声が出ませんでした……っ」

「バカだな。父親が電話をかけてきたぐらいで、そんなに驚くことはないだろう」


驚きますよ!

携帯に番号を登録こそしていたものの、実際にかけた事もかかってきた事もなかったんですから!

そんな反論も頭の中だけで、喉元にさえ上ってこない。


「お前は、私に声を聞かせてはくれないのか?」

「先生……」

「それは違うだろう?きちんと呼んでくれ。その為に、お前に電話をしたのだから」


「あ……えっと、お、おとっ……おとっつぁ……さん」


繰り出す音が変に詰まって、言葉にならない。

たった一言をまともに言えない自分に失望し、がっくりと肩を落とす。


「落ち着いて、慌てずに言ってごらん。……キョーコ」


初めて―――


初めて呼ばれた、私の名前。

お腹の底から湧き上がった何かが、大きな波となって目頭まで込み上げた。


「おとう、さん……お父さんっ!」

叫ぶように呼び掛けると、フッと笑うような吐息が耳元に流れ込んだ。


「ありがとう。今日という日に最高のプレゼントだよ」


目に見えない大きな手に、柔らかく頭を撫でられた気がした。




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君との年の差は

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君との年の差は変わらないけれど

「大人」と「子供」の差は、年を重ねるごとに埋まっていく。

その節目の時が訪れるのも、あと少し。


今年も伝えよう。

愛しくて大切な君に

誰にも先を譲れない、この一言を。


誕生日おめでとう、最上さん。



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思った時には

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しまった、と思った時には遅かった。

「へぇー、そうなんだ……」


ああ……

出てしまった、敦賀さんの決まり文句。


普段、物腰も柔らかに丁寧な言葉遣いをする人が

こんな風に突き放した物言いをするのは

芸能界広しと言えども私ぐらいなものだろう。


恐る恐る視線を上げると、待ち構えていたのは煌びやかな笑み。


「これからは一番に俺に言うように」

にこりと朗らかに告げられて、ふにりとホッペを抓まれた。


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抱えて

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大きなトサカ頭を小脇に抱えて

ぷきゅぷきゅと足音を立てて歩いている


そんな半獣の姿でさえ

可愛くて仕方がないんだと


うっかり口に出したなら


相棒であるアイツら二人は

腹を抱えて笑うんだろうな


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「目に痛い」の光バージョン。

なんか、こっちの方が可愛い気がする……。





それは、ごく自然に

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それは、ごく自然に唇から零れ出た。

呆然と俺をみつめる君に、自分が犯した失敗に気付く。


「もう……お戯れが過ぎます、敦賀さん。

そういう冗談は、もっと機転の利く大人の女性にするべきですよ」


……冗談?

戯言にしようとしているのは、君の方だろう!?


俺の本音を一蹴して、平然と酷い事を勧める君に

どうしようもなく苛ついて……そして自覚せざるを得なかった。


俺はもう、この子に逃げ道を与える事すらできないのだと。


「君がそう思いたいなら、望む通りに受け取ればいい。

戯れでも冗談でも……勿論、本気でも」


彼女の小さな左手を取り、片膝を折って跪くと

少し遠くなった君の顔に、動揺の色が走った。


「だけどね、これだけは言っておくよ」

ビクリと震えて引きかけた手を、逃がさないよう親指で留める。


「他の女など、いらない」


欲しいのは、掌に感じるこの温もり。

そして。


―――その先にある、全て。



**********


カエさんの見たいシチュエーション第二弾、『キョーコちゃんの手を取り傅きながらも、その視線だけで彼女を追い詰める夜の帝王』でした。

イメージが浮かぶと良いのですけど。



嫌です、なんて

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もう裏切られるのは嫌です、なんて

君は俺に誰を重ねているの?


こちらに背を向けたまま、全身で拒絶をしている愛しい娘は

あまりにも深い傷を負っていて。


何を言ったところで伝わりはしない、役に立たない言葉の代わりに

俯く少女に近づいて、そっと後ろから抱き締めた。


細身の体に回したこの腕が、彼女の心をも抱けているようにと

切にそう願いながら

想いの分だけ篭る力を、止めることはできなかった。


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本誌10号で募集された、スキビの表紙コピー募集。

いつも素敵なコメントをくださるカエさんが

「応募はしなかったけれど見たいシチュはあった」というお話だったので

しっかりと内容をお聞きして、宜しければと小ネタにさせていただきました!

カエさんご了承ありがとうございますv

ちなみにイメージは

『すっごい切ない顔で背後からキョーコちゃんを掻き抱く敦賀氏』でした。

あともう1本あるので、そちらも近々UPします。


母の日

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「今日は助かったわ、京子ちゃん。良かったらこれ、持って行って」

ツナギを着た少女に差し出されたのは、大きな赤いカーネーションの花束。


「取引をしている花屋さんに貰ったんだけどね、

私の実家は離れているから、今日中には渡せないの。

だから京子ちゃんのお母さんに差し上げて?」

彼女の家の事情を知らない女性は、心からの好意でそれを渡す。


十年以上も前に深い森の中で、一人ぽっちで泣いていた小さな女の子。

その姿が脳裏を過ぎり、一歩足を踏み出した時。


「ありがとうございます! こんなに素敵な花束、きっと喜んでくれると思います」

明るい声が、廊下に響いた。



「最上さん」

少しの躊躇いを押し隠し、少女の背中に声をかける。

「敦賀さん! お疲れ様です」

いつもと変わらない元気な挨拶。

抱えている花束に目を移すと、赤い華の向こうにある瞳が柔らかに細められた。


「綺麗ですよね。事務員さんにいただいたんです。

せっかくなので、下宿先の女将さんに差し上げようかなと思いまして」


てれてれと笑う彼女から、無理は感じられなくて。

この子は新しい関係を作り上げているのだと、そのしなやかな強さを知る。


「君からのプレゼントなら、とても喜んでくれると思うよ」

確信を持って伝えると

抱いた花よりも鮮やかな、煌めく笑顔が咲きこぼれた。



素直に笑えない事が

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―――素直に笑えない事が、これほど辛いとは思わなかった。



「……という訳で、昨日は予約で席が半分以上埋まっていた上に

次から次へとお客さんが来て、おおわらわだったんです」


本当に目が回るほどの忙しさでしたと

昨日の下宿先での手伝いについて、部室に立ち寄った先輩に話をすると。


「ああ、それはさぞてんてこ舞いだったろうね」


サラリと返ってきた尊敬する方のお言葉に

どんなに苦しかろうとも、飲みかけていたお茶を噴出さなかった

自分を褒めてやりたいと思う。


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シリアスネタが続いたので、そろそろ落としておかないといけませんよね……?



大丈夫ですよ

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大丈夫ですよ。

彼女は笑って、そう言った。


俺がそんな嘘を信じるとでも?


逸らしたままの瞳に告げると

敦賀さんは意地悪ですと

小さく震える手が俺のシャツを掴む。


時には騙されてくれることだって、親切になるんです。


そんなつれない台詞を口にする君の

身体をそっと引き寄せた。