吉田裕子(塾講師)の国語エッセー | 古典(古文・漢文)・近現代文学・歌舞伎・狂言

”国語を学ぶことで、感受性と対話力を磨いたら、人生はもっと楽しい。”という思いのもと、ブログや書籍で情報を発信する他、定期的に「大人向け古典講座」を開催しています。予備校・高校・カルチャースクールの講師、ライター。

大学入試センター試験「国語」(2013年1月19日(土)実施)を解きました!

>> 解いてみての所感

そして、古文『松陰中納言物語』を全訳してみました。 >> 問題

なお、本文の前には、以下のリード文があります。

「東国に下った右衛門督は下総守の家に滞在中、浦風に乗って聞こえてきた琴の音を頼りに守の娘のもとを訪れ、一夜を過ごした。以下の文章は、それに続くものである。」







翌朝、右衛門督は娘へお手紙を送りなさろうとするも、送るような手だてもお持ちでないため、たいそう気をもんで時を過ごしていらっしゃったところ、家のあるじ(下総守)が参上なさって、

「昨日の浦風は、あなた様のお体におしみにならなかったでしょうか。たいへん心配で」

と申し上げなさったところ、右衛門督は「娘の琴のことを言っているのだろうか」とお思いになって、

「すてきな色香でございましたよ。あの琴は唐琴でしょうか、見とうございます」

とおっしゃると、下総守は、事情を察した訳ではないが、娘の琴を取り寄せた。右衛門督は、琴を演奏なさって、

「波の音より優れていたのももっともなことであるようだ」

と言って、箱に入れさせなさるに当たって、手紙を琴の絃に結びつけさせて、「これをさっきのところへ」と言って置かせなさったところ、(下総守の家の者は)琴を持って娘の部屋に入った。


娘は、琴を取り寄せなさったことを不思議だとお思いになって、箱を開けてご覧になったところ、満ち足りないままに別れた思いをお書きになって、

「【和歌】あなたに逢った後こそ悲しいものだなぁ 人目をはばかる心の癖があるもので
 今夜は、とても早く人々を落ち着けて(あなたのもとへ参ります)」

とあったけれども、娘は、どうしたらよいかということもお分かりにならない。


幼い弟が、

「お客さん(右衛門督)のところに参上しようと思うのですが、僕は、扇を昨日海に落としました。扇をいただきたいのですが」

と言いにいらっしゃった。娘は「あら、ちょうどよいこと」とお思いになって、扇の端に小さく和歌をお書きになさって、

「この絵は、面白く描いているから、右衛門督にお見せになって。もしそうしたら、きっと、小さい犬をいただくに違いないわ」

と微笑みなさったところ、弟は喜んで、母親のところに参上なさって、

「扇をいただいたんだ」

と母親に扇を見せなさったところ、母親はその端に書いてある歌を見つけなさって、不思議なことだとお思いになる。「もっと様子を見たい」と弟の後ろに立ち、屏風の陰から覗きなさった。

「この扇の絵をご覧になって。姉君がこんな風に」

と弟がおっしゃったので、右衛門督が、ことさらに美しく書き上げてあるとお思いになって扇をご覧になると、

「【和歌】悲しみに浸ることも、人目を忍ぶようなことも考えられない。私は別れたときのまま、動揺したままで」

(とある。) 右衛門督は、今朝の、琴に添えた和歌の返歌であろうとお思いになり、

「この扇は、ぜひ私に戴きたい。(かわりに)あなたには犬をさしあげることができそうだ。京都にたくさん犬がいるので、取り寄せてその後に」

と言って、黄金で作った犬の香箱をお与えになって、

「姉君にお見せになって」

とおっしゃったところ、弟がそれを持って部屋に入りなさったのを、母親はますますあやしいとお思いになって、

「私にも見せなさい」

と言って、その香箱を取ってご覧になったところ、「思った通りだ、昨日の琴の音色を逢うきっかけとしなさったのであろう」とお思いになるけれど、察している様子は娘に見せないようにしようと隠しなさった。弟が姉である娘のところへいらっしゃってお見せになったところ、娘は、「私のものにしよう」と言ってお取りになって、弟が「この犬を(くださったんだ)」とおっしゃるので、「私の言葉が当たらないはずがないのだから」とおっしゃって、娘が蓋をとってご覧になったところ、奥の方に、

「【和歌】別れてすぐの今朝はあなたの心も惑うでしょうが、今夜(また逢いに行く)と言ったことを忘れるな」

(とある。) 女は惜しくお思いになるけれど、人が見たら困ると思い、消しておしまいになった。


母君は、忍んでいらっしゃるだろうことも心苦しいだろうと思って、侍女をお呼びになって、

「今夜、右衛門督がお渡りになるだろうよ。よくご準備なさって。将来、あてになるころであるだろうから」

とおっしゃったところ、侍女は、

「思った通りだ。今朝からの娘君のご様子も、昨日、琴と笛とで曲のやりとりをなさったのも、気がかりだったので」

と言って、こういうことだとも言わないで、几帳をかけ、隅々まで塵を払うので、

「蓬の露をかきわけて来るだろう人もいないのに、そんなことをしなくても良いだろう」

と娘がおっしゃると、侍女は、

「蓬の露は払わなくても、あなた様の胸の露(悩み)は今夜きっと晴れるでしょうよ」

と笑うので、娘はとても恥ずかしいとお思いになる。
 





この訳は、速報的に作ったものなので、
今後こまごまと修正するところも出てくると思います。

大意をつかみ、設問を解く分には充分に使えると思いますので、
どなたかの参考になれば幸いです。
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