地権者の息子、Aがポン中である事は、今のところ誰も知らない。


このネタは、値千金で探偵稼業の冥利に尽きる。


しかし、なんとホテルの中から刑事が出てきたという事は、外にも張り込みが居る事になる。


内偵どころか、逮捕の瞬間かも知れない。


我々は何故今まで気づかなかったのだろうか。


何処かに本物の同業者が居たのに、6時間も7時間も気が付かないはずがない。


パリジェンヌチームも大集合の大騒ぎになったが、所長から待ったの指示が入った。


「目立つ行動はやめろ、まずは録音テープの回収からだ」


:Aには、前科がないから職質で、品物さえ出て来なければ尿検査を受ける事はない。


:またこの時点でAに逮捕状が出ていれば、どう足掻いてもパクられるから依頼主の地上げ屋には時間の問題でバレてしまう。


:Aは初犯だから、いづれにせよ執行猶予で、Aは数か月後に拘置所から出てくる。


:Aの父親は、逮捕をきっかけに、息子の反省を期待して土地を手放してしまう可能性もある。

すると依頼主の地上げ屋は、何も分らないまま地上げに成功し、我々は基本料金に毛の生えた程度の報酬で終わってしまう。


個人の「浮気調査の場合などと違い、企業の調査依頼は、その報酬がうなぎのぼりに増えていく事もある」


今回の依頼主は、常連客の「地上げ業者の為」現場の利益によっては、結構な金額を払ってくれるケースがあり過去にもあった。


つまりここは、冷静沈着に、秒刻みの判断が必要で無駄な行動は逆に損をする。


「まずは警察無線の盗聴開始からだ」所長の指示が出た。


Aが、六本木のクラブに行くまでは、まさか警察が絡んでくるとは思わなかった。


さすが所長、瞬時の判断で臨戦態勢モードに全員が突入。


録音テープの回収は女性探偵一人が簡単な上着をはおり、手には財布だけを持って、再度ホテルに戻るふりをしながら、コンビニエンスストアに駆け込み店内で他の探偵が回収の手筈。


本物達は、こちら側の動きを察知している可能性があるから、回収側は顔の割れていないパリジェンヌチームの一人が動く。


元アル中でカジュアル姿の強面探偵はサポートに回り、もしもの時は、警察に体当たりして暴れまくり、女性探偵は横付けした車に飛び乗りテープは、車の中で焼いてしまう。


ストーリーは整った、「パリジェンヌ、車両、強面、女性探偵、呼吸を合わせて全員スタートしろ」指示がでた。


朝方その報告を受けた私から言わせれば、このポン中、害虫バカ息子の為に、大のオトナが何の為に何か月も、何十人も振り回されるのか、、、とっとと首でも吊って死んで欲しいくらいだった。


しかし結果は、こいつのおかげで現場は大成功、完成に向かった。


コンビニに向かう女性探偵は、ご丁寧にパンティの中にテープを隠し手には、指示通り財布だけを持って歩いて行く。


度胸があるのか居直っているのか、わき目も振らずさっさと歩くその姿に、見守る探偵達は、あらためて敬意を表した。


テープを、依頼主に渡す訳にはいかないが、確実な証拠が挙がらない場合、Aの彼女の尋常ではない「あえぎ声」を聴かせる必要がある。


テープの回収は、何事も無くあっけないほどに終了した。

警察は誰も追ってこなかったのだ。


私は後に居酒屋で聞いたのだが、コンビニの店内でどうやってパンティの中のテープを取り出したのか知りたかったが、美人の本人が目の前に居たので聞けなかった。


ただし、テープの回収に成功したからと云って、本物の「的」がAではないと言い切れない。

警察は、我々探偵チームの行動に気がついている可能性が非常に高い。


その場合むしろ、Aがターゲットの可能性が高くなる。

邪魔が入ったから今回は逮捕を見合わせたのかもしれない。


歌舞伎町に夜明けは無い。


朝の7時になってもA達二人はまだ出てくる気配もなく、酔っぱらって勢いのついたホスト達が客のホステスを連れ、紫色や黄色のスーツを着て、あちらこちらから次々に出没してくる。


ホテルの中に居た男女の探偵二人は、交代要員とチェンジの為パリジェンヌへ向かい、そこで新たな男女の探偵とバトンタッチした。


二人のホテル組の探偵は今回見事な仕事を行った。


私が莫大な報酬を探偵事務所に支払ったのも彼女に惚れてしまったからかも知れない。


度胸の据わった女ほど魅力的なものはなく、しかも美人で女盛りの独身女性。


賢い男なら絶対惚れてしまうタイプだ。


現場には、刑事どころかパトカーの巡回も来ない。


ホテルから出てきた男女のカップルの男が耳にイヤホーンを付けていたからデカだと断定した訳ではない。


その場に居合わせた探偵達全員が、「あれは、間違いなく刑事だ」と云う。


同業者同士、臭覚で絶対に判るとも言った。


しかし、その後警察関係者は一人も現れなかった、つまり無駄な大騒ぎをしていただけだ。


警察側の「的」は、ほかの人間だったのかもしれない。


やはり所長の判断は、正しくて我々が居たから警察は手を引いたのかもしれない。


朝の10時半に事は動き始めた。


やっとA達二人がホテルから出てきたのだ。


今度こそ、依頼主に提供できる、調査報告書の確実な証拠を掴まなければならない。

そのままタクシーで二手に分かれられたら、今日は証拠を挙げられない。


ところが、わずか3分後に証拠が挙がってしまった。