「銀紙とストロー」の始まり②

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焼き肉店を出たAは、先ほどの一人の女性とペアになり、残りの三人とはその場で別れそして、コンビニに入り買い物をした。


購入したものは、1,5lLのペットボトルのコーラが2本と、ウーロン茶が3本、そして20本入りのストローを一袋とアルミホイル。


店内には、先ほどまで車の中で控えていた、まだ顔の割れていない男の探偵が目視にて確認。


雑誌を立ち読みするそぶりで視線の合わないよう会計カウンターに置かれた品物だけをじぃーっと睨みつける。


一つ一つの品物が、バーコードをあてられて通過する度、緊張は高ぶった。


「間違いない」そちらの世界では、よくある光景だ。


「不自然に大量の飲み物と、ストローと銀紙」、三つが揃った。


探偵は、以前アルコール依存症でアル中病院に入院した事がある。


50歳を過ぎたのに、いまだにスリップの繰り返しだがここ数年は飲んでいない。


もう自分は、酒から逃げられないかと思っている。


この緊張感があるから飲まないでいられる、そしてこの仕事以外ほかに考えられない。


依存症の彼は「ため息が出た」。依存症は酒も薬物も一緒なのだ。


次にタクシーで向かったのは、新宿歌舞伎町2丁目のラブホテル街。


西麻布からラブホへ行くなら、そのまま国道246を走り渋谷の円山町に行った方がよほど近いのに、わざわざAは2倍の距離の新宿を選択したのだ。


探偵は、一人が先ほどのコンビニに残こされており、すぐに応援部隊を依頼し合計8名へと膨らみ追跡を続ける。


現場へ到着した探偵チームの一組は、お同じホテルの同じフロアへ部屋を取り、残りのチームは外で張り込みを続ける。


長い夜を探偵たちは覚悟した。


もしかしたら、翌日の昼まで、いやそれ以上の時間を待機させられるかも知れない。


探偵稼業には、よくある事だ。


A達が、ホテルを出てきて二人が分れたならば、女性の方も、ふた手に分かれて尾行しなければならない。

女性の住まいから名前、仕事などすべだ。

特に暴力団関係者との付き合いが無いかどうかなど。


これらの行動の要所要所は、カメラに収められ、写真と日付、時刻を明確に記録し調査報告書で、依頼主である私に提出しなければ、それなりの金額を要求できない


全員ここは、大きな山場だと知っていて、緊張はますますと高まっていく。


今回の2週間、24時間行確(行動確認)の予算は、前もって決められていない。


実際に要した経費と、その成果によって探偵事務所の調査報告書をいくらで買うか互いに決めるのだ。


もし何も成果が上がらなくとも経費と固定の金額は払わなければならないが、今回のように大収穫を得た場合、探偵事務所は大金を要求出来る可能性がある。


逆をいえば、探偵事務所側も何の成果が私にとってどのくらいの価値があるのか解りえない。


だから今回のように、旦那の浮気を見つける家庭の主婦のような依頼ではなく、とにかくAの素行についての漠然とした調査に絞りこまれてきた時、どの情報が高く売れるか検討もつかない。


女の住所職業から、何から何まで徹底的に調べ上げる作業。

情報が多ければ多いほどヒットする確立は増えてくる。


基本の料金は、前金で半分受け取っているから、あとは情報をヒットさせるだけでまるでパズルの絵合わせと同じ事になる。


依頼主と探偵事務所。


何が出てくるのか、そしてそれがいくらの価値なのか知らないままに作業だけが進んで往く。


地上げ屋からの依頼だから現場の規模から相当のお金が動いている事くらいは判るが、一体いくらで仕入れていくらで売り、その差額の利益がいくらあるのかなどか探偵側は、分るべきもない。


たとえそれが犯罪行為であったとしても、地上げ屋の我々にはまったく関係のない事で、私が知りたいのは「何故、最後の15坪を売ってくれないのか」その理由だけである。


もしかしたらヤクザと地上げ屋の違いはそこだけかも知れない。


何でも金に換えるヤクザ、恐喝であろうと何であろうと、最後の最後までしゃぶり尽くすのがヤクザ。


私にとって理由さえ解れば、その情報は今回の場合1億円出しても惜しく無い金額なのだ。


探偵もヤクザも、その情報の最大の値打ちを判別するすべがない。

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「銀紙とストロー」の始まり①

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私は「地上げ屋」です。

では、いよいよ印刷屋のバカ息子「銀紙とストロー」の物語の始まりについてお話し致します。


地上げの現場全体敷地、550坪(地権者27人)の表通り15坪だけが残った状態。

地権者(所有者)27人と言っても、中には借地と底地人に分かれている場合もあれば、さらに貸家としてテナントが入居している場合もある。

それらの関係者全員をこの現場から立ち退かさなければならない。

すると交渉相手は50人くらいに膨れ上がってしまう。


つまり、全体の535坪坪は、全部の契約交渉が終わっているのに、最後の一軒(印刷屋の15坪)だけが、何故か売却に応じようとしません。


現場は、この一軒さえ終われば完成ですから、担当者を外し自ら交渉に入ることにしました。


以前お話しした通り、私は探偵を使い、印刷屋のご主人の一人息子を探偵事務所に尾行調査させて、「ある証拠」を握っておりました。


息子の事を、A君と呼びましょう。


Aは尾行されている事など全く気付かず、ある晩六本木のクラブに行った。


入場料6500円を払うと、すぐに店内に居た、女性二人、男性二人と5人が合流し、丸型のテーブルカウンターで、楽しそうに会話を始めだした。


こちら側の探偵も、店の外の車の中で待機せていた二人の内、一人の女性探偵をすぐに店内へと誘導したのだ。


即席の男女のカップルとなった探偵たちは、さりげなく急接近する。


会話の内容も、まる聞こえする、ほんの50cmほどの距離。


もちろん集音マイクで録音しています。


今のところは、何も不自然な事もない。


20代後半から30代前半のちょっと遊んでいるオトナの会話がしばらく続く。


1時間余りが経過した後、Aは一人で離れ、黒人の店員と何やら話しを始めた。


Aは、どうやらこの店の常連客の様だ。


5分程度の会話の後、Aは、また丸テーブルに戻りコーラなどちびちびと飲む


この5人のグループの中でAが中心格かと云えばそうでもなさそうである。


皆に大盤振る舞いしてバカ金を使っている様子でも無さそうだし、親分肌の様でもない。


後から聞いた女性探偵の話だと、「どちらかと云えば引きこもりの少年がある程度大人になってから遊び始めた、女性にとっては、コントロールしやすいタイプかも知れない。」


女の臭覚は敏感だから当たっているのだろう。

Aは、アルコールを口にしない。

相変わらずたった一杯のコーラを舐める様に、ちびちび口を乾かしている。


しかし、テーブルに戻ってものの10分もしないうちに、Aはトイレに入った。


そして先ほどの黒人の店員も続いてトイレへと。


探偵は躊躇したが、その場は泳がす事を判断したのだ。


そしてその判断は間違っていなかった。

Aは黒人のボーイから何かを受け取って3分後にトイレを出たのだ。


トイレから戻ってきたAは、結局2時間程度の時間をクラブで過ごし、次は5人で西麻布の有名な焼き肉店へとタクシーで向かった。


Aは一人の女性とカップルで。


残りの三人も同じくタクシーで向かったのだ。


六本木のクラブと西麻布は、歩いてもせいぜい10分、眼の前には麻布警察署がある。


タクシーでワンメーターもいかない距離だ。


この辺が、普通のサラリーマンとは感覚が違う。


焼き肉店での食事は、小一時間。


会計は、男性三人の割り勘だった。


焼き肉店での支払も5人で2万円程度だから、これも普通の範囲で何も注目すべき事はない。


ところが、ここからが不可思議な行動へと移っていったのだ。



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銀紙とストロー⑰

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私と所長は、インターコンチネンタルホテルを後にして仕事の成功の実感を味わいました。

後は予定通り留学の手続きをして、お父さんと不動産売買契約を締結するだけです。


この話は、殆んど事実です。


そして莫大な利益を得ました。


しかし、それから数年後にリーマンショックですってんてんになってしまいました。


殆んどの地上げ屋は、財を残しておりません。


財を残した、「地上げ屋仲間」を私は知りません。


ジェットコースターのような40年間の不動産人生でした。


穏やかな、人生。


エキサイティングな生活。


どちらを選ぶか、自分の選択の様に感じますが、実は違うかもしれません。


自分自身が、誰かに決められた人間かも知れません。


まるで熱帯魚の水槽の中で泳ぐ魚と同じように。


この世は、箱庭や盆栽のように作られている気がします。


偶然は無く必然だけの世界。


私がA君であったり、A君が私になったり。


刑務所に入ったり、会社の社長になったり。


結局、全てはひとつの事から始まったのではないでしょうか?

次回は、「銀紙とストロー前編」についてお話します。




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銀紙とストロー⑯

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そして、A君はわずか一週間で、呆気ないほど簡単にあっさりと降参してしまったのです。


美人探偵は、美人だけに一際目立つ。


強面のアル中探偵もサングラスをかければ、一そう目立つ。


この名コンビで、ウロウロ尾行すれば誰でも気が付いてしまう。


尾行に気がついたA君は数日間、自宅へ帰らずホテル住まいを転々とした。


ホテルの支払いもカードは使わず、キャッシュで清算をしていたのだ。


現金の尽きたA君は、自宅へお金を取りに立ち寄った。


いつもなら、両替用の千円札が数十枚と、売り上げの万札がレジの中に数枚入って居る筈だ。


ところが、今日はコインしか入っていない。


困ったA君は、母親にお金の算段をした。


「私では判らないから、お父さんに相談したら?」


A、「お父さんは、何処?」まるで少年。


「町内会の集まりで今夜は8時頃帰ってくると言ってましたよ。」


A君は、「じゃまた来る」と言って外出したのです。


お父さんから、その報告を受けた私は「今夜」だと判断しました。


「お父さん、今夜インターコンチネンタルホテルに誘い出して、留学の話をして下さい。」


「良し分かった。やってみます。」


私は、現場で所長と一緒に待ちかまえておりました。


しょぼくれたA君と、お父さん。


やはり、ノミの心臓、 チキンハート。


覚せい剤患者に良くある、追跡妄想か何らかの罪悪感を感じて逃げ出したい一心です。


そわそわして、周囲を窺うその姿は、まぎれもなく中毒患者の在りのまま。


つまり、彼の体内にはまだ何らかの物質が入っていて、尿検査でも出てくるし、頭の中は狂っています。


「捕まりたくない」、心の中はそれしかないのです。


これは、常習者です。


マリファナなどは、脳天気になり脅えたりしません。


この態度は、「冷たい方」、つまりコカインや覚せい剤常習者特有の兆候です。

しかし、銀紙とストローがゴミ箱で発見されたからには覚せい剤のあぶりを意味する。


今後、留学の手続きを取り、飛行機に乗るまでボディガードを探偵達に最後まで、お願いするしかありません。


Aのとち狂った頭で、まともな判断など出来る訳もない。


万が一またやらかした時は、強制的に抑え込む手段も覚悟しなければ。。。


彼の頭の中は、クスリと恐怖と快楽で、すべてを牛耳られています。


忙しい頭は、他の事を考える余裕など無いのです。

夜、インターコンチネンタルホテルのティーラウンジ。


お父さんが勝負に出る、「今日、警察の方が見えてお前の事を訪ねてきたが何か在ったのか?」


「いや、何も無いよ。」Aは、震えながら答える。


「今仕事は、何をしているのかね?」


「何もしていません。」


「そうか、お前海外へ留学をして英語を勉強してこいよ。」


考え込むA君は、とても30才には見えません。


ただの高校生のガキたれとしか、眼に映らないのです。


私は、方向性集音マイクを向けて、所長と一緒に10メートル位の距離で、会話の内容を観察していました。


A、「分かった、留学させて下さい。」判断不能な人間の哀れな最後の言葉です。


「よし、ならばここ一週間くらいホテルへ泊まっていなさい。留学の手続きなどはお父さんが、行うから。」


A、「分かった、とりあえずお金をいくらか貸して下さい。」


私は、A君の背後から、目配せで「ダメダメ」と合図を送りました。


ここで、又「六本木のクラブ」などへ行かれたら水の泡です。


それこそ、探偵達と一緒になってA君を拉致しなければなりません。


「いや、今は現金の持ち合わせがないから、今夜はこのホテルに泊まりなさい。カードでデポジットするから。」


「分かりました、じゃルームサービスでお酒を飲んで寝ます。」


どこまで往ってもこの大馬鹿息子は、無神経極まりない。


酒を飲む段ではなく、刑務所が大きな口を開けて待っているのに。


お母さんの言っていた通り、1年間じゃ治らないかも知れません。


厚生省白書によると、「薬物懲役囚の70%は、再度刑務所へ入所」するそうです。


所長と視線を合わせ出て行く事にしました。


銀紙とストロー⑮

テーマ:

四谷に在る興信所。


「所長、ビッグボーナスのお話しです。」


「おう、やはりビンゴだったか?」


「お宅の美人探偵とA君を結婚させて下さい。」


「なんだってぇー!!!」


「冗談ですよ、、、半分だけね!ワハハ」


「おい、いきなり何を言い出すのかと、ビックリしたよ。」


「はい、それで作戦は、、、、どうでしょうか?」


「なるほど、それは人助けにもなるし、良いアイデアだな、しかし追加の料金はいくら出して貰えるのかな?」


本当にちゃっかりしている、この所長さん。


「今回は弾みますよ。留学まで行って成功したら一本、出来なかったら2千万でどうでしょうか?」


「よし判った、良い話だねー、今夜メンバーを揃えて作戦会議をしましょう。」


「いいですねぇー、私の会社の接待と云う事で、美人探偵と居酒屋で一杯やりながら会議をしましょう。」


この作戦は、難しくありません。


居酒屋でお酒を飲みながら行っても大丈夫です。


飯田橋の居酒屋。


集まったのは所長さんと、強面の元アル中探偵、美人探偵、他2名。


所長さん、「では地上げ屋さんの最後の仕事に向かってカンパ~イ!!!」


私が、アル中でベロンベロンの時代を知っている所長は、ウーロン茶を飲む私に感心して「ユキオさん、相変わらず頑張っているなぁー。」


「ワハハ、酒より仕事の方が大切ですからねぇー。地上げオンリー!大好きで~す。」


「皆でワイワイはしゃいでいるうちに、あのホテルから出てきた刑事のカップルは一体誰を(的、マト)にしていたのだろう?」


所長、「解らないなぁー、警視庁でも警察庁でも出てこない、しかしAが調査対象の一人である事は、間違いないな。なんだったら、六本木のクラブを、別料金で調査してみようか?」


何処まで往っても、今回の地上げの利益にあずかろうとする所長。


「別料金は無いでしょう、もしA君がパクられたらお互い損するのは、同じ事なんだから。」


強面の元アル中探偵は、コーラを飲みながら参鶏湯をバクバク食べている。


「ところで、あの録音テープの回収は見事でしたね。」


美人探偵、「もちろん、私が下着の中に隠して運んだから、万全よ。」


「えー、下着って、下の方の下着ですか?」


「そうよ、ちゃんとパンティの中、職質などされても身体検査など絶対に応じないから。」


う~ん、私が録音テープになりたかった。


興味は、そそぐがこれ以上は、セクハラになってしまう。


しかし、この女探偵はセクハラなど一向に気にするタイプではありません。


自分の「女」を武器に戦う「最高の仕事を務めている」キャリアウーマンです。


強面の元アル中探偵、「社長が、元アル中などと初めて知りましたが、失礼ですが何年位お酒を止めているのですか?」


「いえー、飲んだり止めたりを10年間位繰り返しています。今は、最高記録の3年間の断酒生活ですよ。」


実は、ウソで数か月に連日飲んだり止めたりの繰り返しです。


「いやぁ、私もアル中でして、苦労しています。」


「そうですか、アル中仲間と会えるのは嬉しいかぎりです。お互い頑張りましょう。」


そんな楽しい夜も終わり、自宅へと向かった。

銀紙とストロー⑭

テーマ:



「でも、そんなに大きな心配は無いと思います。A君程度の事で、警視庁や検察局が動く事は考えにくいのです。しかし、地上げの現場の長男坊となると、組織犯罪を取り締まる「生活安全課」が、動いた可能性は充分あります。」


考え込むお父さん、茫然としているお母さん。


「安心して下さい、A君は暴力団との交際がありません。だから、あのニアミスは他の誰かかも知れません。とにかく早く留学してもらいましょう、イギリスの学校の事や住居などすべて手配します。そして、一人だけ僕のファンド仲間で日本語が流暢なイギリス人をお友達として接近させます。」


「解りました、ユキオさんよろしくお願いします。」


「刑事の扮装は、これから興信所の所長に依頼しに行って来ます、よろしいですね?」


「本当によろしくお願いします。」


「それから、ご自宅の売買契約ですが、A君の留学が決定したら締結して下さい。お互いの交換取引です。」


「良くわかりました、私も頑張ります。」


私は、周囲を観察して怪しい者がいない事を確認し、その足で興信所へ向かった。


四谷に在る興信所。


「所長、ビッグボーナスのお話しです。」


「おう、やはりビンゴだったか?」


「お宅の美人探偵とA君を結婚させて下さい。」


「なんだってぇー!!!」


「冗談ですよ、、、半分だけね!ワハハ」


「おい、いきなり何を言い出すのかと、ビックリしたよ。」


「はい、それで作戦は、、、、どうでしょうか?」


「なるほど、それは人助けにもなるし、良いアイデアだな、しかし追加の料金はいくら出して貰えるのかな?」


本当にちゃっかりしている、この所長さん。


「今回は弾みますよ。留学まで行って成功したら一本、出来なかったら2千万でどうでしょうか?」


「よし判った、良い話だねー、今夜メンバーを揃えて作戦会議をしましょう。」


「いいですねぇー、私の会社の接待と云う事で、美人探偵と居酒屋で一杯やりながら会議をしましょう。」


この作戦は、難しくありません。


居酒屋でお酒を飲みながら行っても大丈夫です。


銀紙とストロー⑬

テーマ:

地上げの交渉は決まってしまいました。


地上げのポイントは、売ったお金の使い道を教えてあげる作業です。


地上げ屋の作業とA君」


私は、更に詳しい段取りの説明を印刷屋のご夫婦に致します。


「先ほど、私の会社の社員を刑事に扮装させると言いましたが、この件は当社の社員も誰も知りません。知っているのは、この情報を僕に提供してくれた興信所の方だけです。だからA君をダミーで尾行するのは興信所のスタッフです。」


「興信所はそんな事までしてくれのですか?」


「はい、僕達はしょっちゅう興信所に依頼をするので、かなり詳細な部分まで調べてくれます。そして、興信所とは守秘義務を背負っていますから、この件が外部に広がるおそれはありません。A君が限りなく黒だと云う見解です。」


「実は、息子の行動がおかしいので私達も過去に、興信所を使った事があります。しかしはっきりした事は判りませんでした。」


「もちろん、お金のかけ方が違いますから個人で依頼しても、非合法な調査活動など行いません。しかし彼らはプロです。だからクライアントの立場を考えてそれなりのお金を要求しますが、我々に対しては、きっちりとした写真や盗聴録音テープなどをつけた調査報告書を作成してくれます。」


「その調査報告書を見せてくれませんか?」


「お父さん、それは出来ません。僕も興信所に対して守秘義務があります。当社の社員にも誰にも見せられない機密事項です。私の信用を失ってしまいますし、お父さん達も見ない方が賢明です。」


「なるほど、プロ達の世界の掟が在るのですね?」


「そうですね、何とも言えませんが唯一つだけ気になる事が有ります。」


「どういった事でしょうか?」


「実は、興信所のスタッフが在る処で張り込みをしていたら、本当の刑事とすれ違っています。これがA君をターゲットにしていたのか、どうか判別出来ていません。」


「本当ですか!!!」


「遭遇したのは、間違いありません、その後警視庁に探りを入れて見たのですが、全く何も出てきません。解らないままです。」


お父さんもお母さんも「絶句の為息」を漏らした。

銀紙とストロー⑫

テーマ:

「早速ですがお父さん、奥様には昨晩のお話しはご説明戴いているのでしょうか?」


意外にも、母親の方から言葉が出た。


「はい、主人から伺っております。私達の教育が悪かったせいで息子はあのように育ってしまいました。学生時代から、レジのお金を勝手に持って行っても注意しなかった私達の監督不行き届きです。」


「分かりました、では留学のアイデアは如何でしょうか?」


またもや母親から「今まで考えてもおりませんでしたが、とても良いアイデアだと思います。息子を現在の友人関係から引き離すにはそれしか方法が無いのかも知れません。」


のっけから飛びついてきた。


少なくとも母親は、銀紙とストローの事に気づいている。


「不動産屋さん、1年と云わずあちらで就職する事も可能でしょうか?」と、お母さん。


「ちょっと待ってください、僕は不動産ファンドを行っていますから投資家の殆んどは欧米の会社です、OOOファンドジャパンなど云う名前の会社があるでしょう?あれらはすべて欧米企業の日本支店です。だから不可能ではありませんが、今回僕が請け負ったのは、就職と結婚と子供作りです。そうなると、海外でのお見合いは責任が持てません。」


「そうですな、嬉しくて早まり過ぎてしまいました。ところで息子は本当に留学を決心するでしょうか?」


「お母さんは、どう思われますか?」


「はい、場合によってはもしかしたら、、、」


「その通りです、その(場合によってはの状況)を作り上げましょう。」


夫婦は、眼を真ん丸にして私を見つめた。


私は、更にボディーブローを打ち込む。


「私が何故、アメリカではなくイギリスを選んだか解りますか?」


二人とも恐怖の眼差しを私にむける。


「アメリカは、薬物中毒者がとても多くヨーロッパも同じです。ところがイギリスは非常に厳しく普通の人達には、入手が難しいお国柄です。」


更にワン、ツー、スリーのストレートを決める。


「僕が言う、状況とは簡単で、当社の社員を一見警察の刑事のように見せかけ、わざとバレルように尾行させます。お父さんは、タイミングを見計らってA君に留学の話を持ちかけて下さい。」


考え込む二人。


数分の時が流れた。


「僕は今回の作戦に応じてもらえなかったならば諦めます。もう売ってもらわなくて結構です。利益が2割位少なくなりますが、来年の10割より、明日の8割を選択し今回の件はすべて無かった事で終わらせます。私は卑怯者呼ばわりされたくありません。」


「不動産屋さん、そこまで知っていたのですか。。。」


「いえ、僕は何も知りません。でも、もしA君に何か後ろめたい事があったならこの作戦は成功するかもしれません。あくまで僕は何も知りません、そしてサヨナラで、今日の話は何も無かった事でお別れです。」


更に数分の時間が流れた。


お父さん、「今夜一晩だけ考えさせてもらって良いかね?」


途端に奥さんが叫んだ、「お父さん、もう任せましょう、今まで私達では解決できなかった事じゃないですか。」


これですべてが決まった。


私は、重い荷物をまた背負ってしまった。


「イギリスでは、ルームシェアを選んでください、そのルームシェアには日本人が居ない事。完全に英語をマスターさせ、孤独をきっちり味わってもらう事になります。又、1年間の留学費用は、400万円です。住居や学費などすべてを含んでそれ以上のお金は渡さない事。」


「ユキオさん、お願いしますよ。」


「大丈夫です、本当の孤独を味わったら、人間関係を大切にする人物に成長します。」


「売却の条件は、我々はこの現場を1坪3千万で卸す事にしています。だから4億5千万プラス1億円を税金の掛からないお金でお支払します。ただし、A君の就職とお見合いに成功したら3千万をその時点で私に個人的な報酬として払って下さい。出産までは、時の運で責任持てませんから。」


「了解しました、子供まで作ってくれたら、その時はまたお礼をしますよ。」


交渉は全て上手くいった。


後は実行あるのみ。。。。


銀紙とストロー⑪

テーマ:

「身勝手な親の愛も実は欲望の一つなのです。」


私は、少し早くインターコンチネンタルホテルに着いた。


8時半、チェックアウトの宿泊者がホテルカウンターに並んでいる。


このホテルは、元々ANA全日空ホテルだった。


ところがオペレーションをインターコンチネンタルに売却した途端、圧倒的に外国人利用者が増えたのだ。


私は、ホテルの喫茶ラウンジに行き、ウェイトレスに3人である事を告げ、注文は皆が揃ってからしてくれるように伝えた。


今回は、とてもプライベートで神経質な問題を抱えた交渉の為、一緒について来たがるこの案件の担当者を、またもや外した。


担当者は、自分の取り分が少なくなる事を心配していたが、問題ない事を説明している。


5人ほど座れるボックス席のソファーに腰を下ろした。


テーブルに届けられた、氷の入ったお冷で乾いた口を湿らせた。


私もかなり緊張している事が分かった。


2分後、A君の両親は現れた。


私は立ち上がり、「奥様初めまして、今回の現場を担当させて頂いている、ユキオです。」


「はい、よろしくお願いします。」


質素だが、清楚な雰囲気で控え目な奥様である。


「ご注文は何になさいますか?」


お父さんは、コーヒーを、奥様は紅茶を、私もコーヒーを注文しました。


「あらためてご挨拶いたしますが、この度はご迷惑をおかけしております。」


お父さんは、「平成バブルの頃も一度こんな大騒ぎがありましたから、いつかは又来るだろうとは思っていました。」


「都心3区(中央区、千代田区、港区)で、民家が点在する場所は限られてきていますから、どうしても再開発の候補地に挙がってしまいます。」


「そうでしょうね、住んでいる私達は何も思わないのですが、人が住む街ではなくなってきて入る事は良く判ります。」


「そう云って戴けるのは、とてもありがたいです。」


この夫婦は、自宅の売却に関してあえて逆らおうとしていない。


やはり売らない原因はA君のクスリの事で、売れない原因がA君の事だけなのだろうか?


私は最初のジャブを飛ばした。

銀紙とストロー⑩

テーマ:

「息子は留学などしないでしょう。」


「いえ、しますよ。今のうすっぺらな友人達に囲まれていれば孤独だと自分でも気がついているはずです。留学させて毎月の仕送りでは足りない分をアルバイトで稼ぐでしょう。そして白人の黄色人種に対する迫害も受けるでしょう。言葉も良く使えないしもっと孤独になります。」


「いや、そもそも、、、」


「黙って聞いて下さい。A君はそれで初めて独立して、本当の孤独を感じます。そして現在の薄っぺらな友人達からもクスリからも遮断されます。」


そしてA君は1年後に帰国します。


「A君は何をするのでしょうか?又昔のお友達と深夜に遊び続けますか? すかさず就職させてお見合いなどさせては如何ですか?」


「A君は、現在の生活を満足しておりません、逆に逃げ出したい筈です。」


青山学院大学卒業、イギリス留学、親はお金持ち、仕事は流暢な英語を使った不動産会社の社員。


これで、お見合いをすれば「一発でそこそこの女性はOKする筈です。そして出産」


このストーリーを、私は現実化せねばなりません。


お父さん「いやぁー素晴らしい、本当にそんなことが出来ますか?」


「僕は、出来ると信じています。具体的な策を練りましょうか?」


「ぜひ聞かせて下さい、お願いします。」


「分かりました、今日はお酒も入っているし、奥様もいらっしゃいませんから、明日奥様と三人でお話ししましょう。」


「ユキオさん、私を裏切らないで下さいよ、明日の朝早くても良いでしょうか?」


「もちろん、何時でも結構です、9時にANAインターコンチネンタルホテル2階のティーラウンジは如何でしょうか?」


「分かりました、明日は店を午前中閉めてきます。本当にそんなことの可能性が有るのでしょうね?」


「私は、地上げ屋のプロです。話を聞いて自分で理解し選択してください。ただし、時間は限られています。」


何処まで経っても疑り深いお父さん、かと言ってなんでも信用してすがりつきたいお父さん。


明日の朝は、絶対「うん、と言わせ紙に書かせる」、決心をしました。