おまけのようなまいにち

1級ファイナンシャルプランナー・中小企業診断士が、等身大で語る人生のエッセイ。



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以前、穴田君という危険な友人を紹介した。
彼と知り合ったのは中学時代。

穴田君とは別々の高校進学をすると共に疎遠になった。

だが、年に2~3回くらいは会って近況を聞いたりもしていた。

高校2年のとき、穴田君に久しぶりに会ったとき、その危険人物っぷりは既に高校生の僕には想像もつかないところまで行っていた。


「最近は何してるの?」

「ん。これさ。」

穴田君は机の引き出しから小さな電子部品を取り出して見せてくれた。

ICチップのようなものがついた小さな基盤だ。人差し指の先に乗せられるようなサイズの小さなものだ。
そして、よく見ると机の上にはハンダゴテが置かれていた。

「これを大量生産してるんだよ。」

「ふーん。これなんなの?」

「プレステのコピー解除チップさ。」

僕はスーパーファミコン時代でゲームを卒業してしまったので、あまりプレステには詳しくないのだが、世の中にはそのディスクをコピーしたりして問題になっていたことは知っていた。
だから、詳しく聞かなくても想像はついた。

要するに、最近のプレステはコピーしたディスクは読み取れないようにガードがかかっているが、そのチップを付ければそのガードを外して、コピーしたディスクを使えるようになるっていう話だ。

「これを8000円で学校の知り合いに売ってる。取り付け費用は別途3000円。」

自分でチップを取り付けられる人は少ないだろうし、おそらくみんな取り付けも頼むだろう。
つまり、一人1万1千円だ。

「一つ作るのにいくらかかるの?」

「数百円。中身が空っぽのチップを買ってきて、プログラムを入れるだけだ。アセンブラのプログラムを入手したんだよ。」

どこで入手したかまで聞くのはやめた。面倒臭そうだったから。

「買う人いるの?」

「ほとんどみんな買ってるよ。コピー版のディスクは一つ300円で売ってるんだ。大量にゲームのデータは持ってるから、チップが高くてもゲームをあとでたくさん買うなら元は取れる。つまりこれは、ウィンウィンのビジネスなんだ。」

僕が生まれて初めて「ウィンウィン」という言葉を聞いたのがこの瞬間だ。
「ウィンウィン」という言葉は、格好良く聞こえるかもしれないが、実は怪しさ満載の言葉だということもその瞬間に学んだ。穴田君はやっぱり僕の先生である。教え方が衝撃的すぎるけど。


「すごい儲かってそうだね。」

「まぁね。頻繁にクラスの友達にしゃぶしゃぶとか奢ってあげてるよ。」

まぢか。僕はしゃぶしゃぶ大好きなのに。呼んでくれよ。奢ってくれよ。


「どのくらい稼いだの?」

「300万円くらい。」

「は!?まぢで」

穴田君は、『こんなのちょちょいのちょいだぜ』という表情でニヤリとした。

やっぱり穴田君はすごい。ストッパーがないんだ。明らかに犯罪なんだけど、『ウィンウィン』という言葉であっさりとやってのけるのだ。

でも、あまり関わると危険だな、やっぱり。


僕はその日以降、ほとんど穴田君と会わなくなった。
受験期に入ったからというのもあるが、別世界の人間だとようやく感じ始めたからだ。




だが、一度、突然穴田君から電話が来たことがある。

高校3年の3月上旬のことだ。

「助けてくれ!」

穴田君が僕を頼るのは、実はこれが初めてのことである。何事か。

「確か数学得意なはずだよな?」

なんだ、勉強のことか。穴田君は勉強だけは全然できなかったからなぁ。

「うん。どしたの?」

「数学の追試があって、これで赤点だと留年になるんだ。」

高校3年の3月に卒業と留年の狭間に立たされてる穴田君。切羽詰まってるんだね。

「それは大変だ。いいよ。教えられるよ。どの分野がわからないの?」

「わからない。とりあえず全部わからない。」

勉強わからない人がよく言うセリフである。どこがわからないのかわからない。とりあえず穴田君はパニクっていた。

「うーんと、どうしよう。週末教えに行こうか?」

「それだと遅い。」

「追試いつなの?」

「明日。」

ぬぁにー!なんでそんな直前になるまで助けを求めないのだ。しかも、今23時なんですけど。本当なら寝不足で実力が出ないと困るから寝なさいと言いたい時間だぞ。

平静を装って僕は応対した。

「そうか。今から教えに行くこともできない時間だから、電話でなんとか教えよう。」

「ありがとう。」

「試験の範囲は?」

「わからない。」

いやいやいや、教えようないから。

「っと、、、追試なんだよね。ってことは本試のときのテスト用紙はある?それと同じ範囲じゃないの?」

「あ、そういえば、そうだった。」

大丈夫か?穴田君。本当にヤバイと思ってるのだろうか?不安になってくるよ、まったく。

「全部で何問あるの?」

「大問が5つ。」

「ということは、大問一つあたり20点だね。得意そうなのを2つ、しっかり勉強しておけば赤点は免れそうだね。念のため3つくらい対策しておいたほうが安心かな。得意そうなのはどれ?」

「全部わからない。」

はい。質問した僕が悪かったです。

「1問ずつ読み上げてみて。」

「えっと、エックス2乗プラス・・・」

「あー、それは平方完成をして、最小の(x,y)を求めるんだけど、・・・」

「平方完成ってなに?」

「えっと、そうか、平方完成をまず教えるね。二次関数の頂点を求めるときに使う式変形のことなんだけど。」

「はぁ。」

「二次方程式ってあるじゃん?」

「何だっけ。」

「えっと、エックス2乗から始まる式のこと。」

「あぁ、あれね。」

「普通その式を見たら因数分解したくなるけど、それとちょっと違うんだ。」

「因数分解ってなに?」

ここまで話して、事態のまずさに僕は気付いた。

「えっと、因数分解は中学のときにやったと思うんだけど、カッコエックスプラス1の2乗、みたいなやつ。」

「なんとなく覚えてるような。で?」

「その『カッコエックスプラス1の2乗』を展開すると、エックス2乗プラス2エックスプラス1になるよね。」

「展開ってなに?」

まぢか。そこからか。そして、さらに追い打ち。

「それわからないと解けないの?」

そーだよ。解けないよ!それがわかってないとわからない理論をわかって、ようやく問題の意味を理解できるんだよ。スタート地点だよっ。

「・・・んー、ちょっとまってね。そこから勉強しなおすと到底間に合わないから、どうしたらいいか考える。」

「わかった。よろしく。」

僕は穴田君に数学を教えることを諦めた。
そして、『穴田君を留年させないこと』に目的を絞り込むことにした。

穴田君の高校のレベル、穴田君のレベル、その生徒を持ってたぶん嫌気がさしている数学教師の気持ち、高校3年の留年がかかっている学期末テストで赤点を取って最後の最後の蜘蛛の糸となる追試テスト、、、
様々な状況を考慮に入れた結果、僕が導き出した答えはこうだった。

「よし。わかった。追試テストは、本テストと全く同じ問題が出る。答えを丸暗記していって。」

「えー?本当に?もし違ったらどうするのさ。」

「大丈夫。信じろ。もし違っても似た問題だから、中間点くらい貰える。もし全然違うとしたら、そもそも今からどうしようもない。」

穴田君は半信半疑で僕の提案を承諾し、電話を切った。


一体どうやって今まで進級できたのか不思議である。やっぱりいろんな意味で穴田君は凄いのだ。
ある意味で見習いたいところ満載なのである。

ちなみに、翌週穴田君にメールをしたところ。
『大丈夫だった。同じ問題だった。』と返信が来た。



なお、それから5年以上穴田君とは音信不通となった。
15年近く経つ今も連絡は取り合っていない。

だが、穴田君は今、どこかで代表取締役の仕事をしていることだけわかっている。

まぢ、何者?



P.S.
そういえば、高校卒業前後だったかに一度連絡取っていた気がする。
内容は、「彼女が妊娠した」だった。
もー、どんだけ~!

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