きくな湯田眼科-院長のブログ

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横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』


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オルトホウ酸 (H3BO3) はホウ砂 (NaB4O7・10H2O) を硫酸などの無機酸に働かせることで作ることができます。ホウ素の含有量は前者で17.46%、後者で11.33%になります。


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オルトホウ酸は170℃以上に加熱すると脱水が起こり、メタホウ酸metaboric acid (HBO2)になります。
H3BO3 → HBO2 + H2O


さらに300℃以上に加熱すると、さらに脱水が起こりテトラホウ酸tetraboric acid or pyroboric acid (H2B4O7)になります。
4 HBO2 → H2B4O7 + H2O


これらは全て弱酸で、これらをまとめてホウ酸と呼びますが、通常ホウ酸というとオルトホウ酸を指します。

ホウ酸をさらに加熱すると脱水が進み、最終的にガラス状の三酸化二ホウ素boron trioxide (B2O3)になります。
H2B4O7 → 2 B2O3 + H2O


ホウ砂、ホウ酸とも水に対する溶解性は似たもので、それほど良くありません。ホウ酸は吸熱性の溶解(22kJ/molの吸熱、よく比較される塩化ナトリウムは4kJ/molの吸熱です)を示し、加熱により溶解度が増すこと(吸熱度の低いNaClは加熱によっても溶解度はそれほど上昇しません)は小学校5年生の理科の実験で有名です。


水溶液は、ホウ砂は弱アルカリ性ですが、ホウ酸はその名の通り弱酸性です(18℃では0,1N溶液で0.0001%しか解離せず極めて弱い酸)。


ホウ砂とホウ酸は双方とも古くより、弱い殺菌作用があることが認められ、食品などの保存剤として用いられていました。一般に全ての酸は殺菌作用を示しますが(酢酸にしたした食品が腐らないのは酸による殺菌効果です)、ホウ酸の酸性は極めて弱く、その抗菌効果は酸としてより、ホウ素イオンによるものと考えられます。また、抗菌力はホウ酸の方がホウ砂よりやや強いと考えられます。


ホウ素の抗菌作用は殺菌的と言うより静菌的に働いています。抗菌作用を示す濃度のホウ素を含む培地で培養すると大腸菌の増殖は抑制されますが、ホウ素を除去すると再び増殖することが報告されています。その効果は嫌気的条件で著明で、従っていわゆるTCAサイクルが関係した解糖系とは無関係と考えられています。


ホウ素を含む培地で培養した細菌では細胞膜に変性が見られ、アミノ酸合成系(リジンとロイシンが主体と考えられます)に異常が生じた結果、膜の蛋白合成に問題を生ずるものと考えられます。


前回記載しましたが、ホウ酸は腐食性が強く副作用の多かった石炭酸に代わるものとして、リスターが安全性の高い消毒薬として使用した歴史があり、今日でもその2%溶液は消毒を目的とした洗眼剤として使用されることがあります。


しかし、その抗菌効果は静菌的で弱く、また耐性菌の存在も知られています。細菌の細胞膜にはホウ素イオンチャンネルがあり、このチャンエルを介してホウ素の細胞内取り込み、放出が行われていますが、ホウ酸耐性菌では放出系が亢進していて、ホウ素の細胞内濃度が低く保たれて、耐性が得られているものと考えられています。


一方で、ホウ酸は害虫駆除にも用いられています。ホウ酸団子はゴキブリ退治で有名ですが、そのメカニズムは昆虫の前消化管にダメージを与え、外骨格に小さな亀裂を生じ、脱水を引き起こすことによると考えられています(従って即効性はありません)。また、昆虫の補酵素に含まれる糖の水酸基(OH基)とキレート結合を作り、補酵素の作用を失わせ、昆虫の代謝を阻害する効果も想定されています。


建築現場では、昆虫に対する効果、真菌の増殖を抑制する効果から、シロアリ駆除やカビ防止の目的で、建材にホウ酸を染みこませ、耐用年数を増やすことも行われています。


ホウ酸はこの他にも、耐熱性から防炎繊維や耐熱プラスチックの原料として、またコンピューター液晶画面の強化ガラスにも用いられています。ホウ酸のナノパーティクルをオイルに混入すると、潤滑性が飛躍的に増加することから、オイルの使用を大幅に減少する効果も注目されています。


ホウ酸から合成された水素化ホウ素ナトリウムは水を加えるだけで水素を発生するので、水素の供給源として利用され、有機化学では強力な還元剤として用いられています。


こうして様々な用途で使用され、安全性が高いと考えられてきたホウ酸ですが、近年その毒性がクローズアップされて来ています。


ラットの半数致死量LD50は3.5g/kg程度で、食塩のそれとほぼ同じレベルです。体重60kgの成人の半数致死量は200g程度と考えられており、それほど強い毒性は示しませんが、急性中毒症として、悪心・嘔吐、腹痛、下痢、意識障害、ショック、発疹などが知られています。


これまで急性中毒の重症例では、病院でホウ酸とミルクを間違える事故で、多数の新生児が犠牲になった事例が報告されています。また、重症の火傷やおむつかぶれの消毒にホウ酸を使用し、死亡に至った事例の報告も為されています。


ホウ酸は服用するとその95%以上が吸収され、大半は腎臓から尿となって排出されます(半減期は4~28時間)。吸入により肺から吸収されることも分かっています。正常な皮膚からは吸収されることはありませんが、傷ついた皮膚や粘膜からは吸収されます。傷の消毒にホウ酸を用いることは危険と考えられ、今日ではホウ酸を消毒に用いることはありません。かつて用いられていたホウ酸軟膏も製造中止となっています。


一方慢性中毒としては、、食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢、発疹、脱毛、痙攣、貧血、腎障害などが起こるとされています。また、発癌性はないと考えられていますが、男性では精子に障害を生ずることが指摘され、骨に取り込まれることから胎児では発育障害の可能性も危惧されています。さらに、最近米国ではホウ酸に微量のヒ素が混入していることが明らかにされています。


これらのことから全世界で食品への添加は原則として禁止されていますが、東南アジアでは未だに麺類などに不法な混入がなされ、問題となっています。


また、様々な分野でのホウ酸の利用拡大に伴い、環境汚染が心配されており、排水などでホウ酸に対して厳しい規制が設けられて来ています(これに対してはホウ酸源泉など大量にホウ酸を排出する施設はどうなるのか等の問題があるでしょう)。


一方未だに洗眼用としてホウ酸は市販されており、点眼薬にもホウ酸が多く用いられています。


ホウ酸の殺菌効果は殆どないことから、点眼薬に混入されるのは、抗菌効果による保存剤としてではなく、PH緩衝剤としての利用と考えられますが、ホウ酸緩衝液はアルカリに傾いており(ホウ酸のpKaは9程度です)、点眼薬の緩衝剤として理想的なのか、疑問が残ります。何よりも涙の緩衝作用の方が、点眼薬に含まれるホウ酸緩衝液より有効に働いているのではないでしょうか?


また、洗眼用としては生理食塩水の方が安全で、今日眼科でホウ酸を洗眼用に使用している所はないと思います。


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