どうして、米国企業は外部事務所に特許業務を依頼するのか | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

一勤さん、こんにちは。
コメントをありがとうございました。

どうして、米国企業は外部事務所に特許業務を依頼するのかについて、明確な解答はないと思いますが、私なりの考えを以下に書かせてもらいます。



まず、米国企業は、結構な割合で自社出願もしています。だから、一概に外部事務所を使うとは限りません。それを、前提として書かせてもらいます。

私は、米国は独立自尊の社会だからと思います。

日本では、小組織で働くより大企業で働く方が偉い、大企業で働くより公務員の方が偉い、みたいな順序付けがあります。米国では、その順番が正反対になります(極端に言うと)。大きな組織の歯車となって働くのではなく、アメリカンドリームを実現できる可能性のある職場を米国人は好みます。

我々の業界で言うと、一番優秀なのはローファームで働き、その次に優秀なのが大企業の知財部で働き、もっともダメなのが特許庁で審査官をする、というような社会構造に米国はなっているのです(極端に言うと)。
したがって、企業が高品質の仕事を求めるのであれば、ローファームで働いている弁護士さん(弁理士さん)を使うのがベストなんです。

また、独立自尊の精神構造を持った皆さんは、企業で働いていてもそこへの帰属意識は高くありません。無責任ということではありません。責任は果たすのですが、帰属意識はそれとは別ということです。
日本語で「XX会社で働いています」は英語で「I work for XX Inc.」となります。“For”を使うのです。自分と会社とはあくまで別体という意識があります。日本でも法律上は別体なんですが、伝統的な意識は同体みたいになっていて、たとえば特許庁の面接審査に社員だったら代理権無しの無資格者でもOKみたいな違法ガイドラインを作っても平気なのです。米国では、絶対にそうはなりません。

ということは、社員であっても外部の者であっても、その会社に対するサービスの提供意識には大きな差がないのです。社員であっても、その会社が必要とするひとつのサービスポジションについているだけです。
社員の場合には会社が倒産したらモロトモですので、その意味では外部の者とは帰属意識に差があるといってよいかもしれませんが、会社が倒産しても米国の場合には自分のポジションを求めて他の会社に転職するだけのことに過ぎないともいえますので、モロトモの点を考慮しても日本人が感じるほどに差はないのです。

というような次第で、社員であっても外部の者であっても、会社にとっては「他人」に過ぎず、それらの「他人」のうちでどちらが優秀かといえば外部ローファームで働いている方なので(もちろん、例外はいくらでもありますよ)、米国企業は外部事務所に特許業務を依頼することになります。
あとは、価格とのバランスの問題が残り、安いからという理由で、品質が少々落ちても社内で処理するという形も自然です。もちろん、その場合でも、日本みたいに「社員は会社の一部だから無資格者にやらせます」みたいな違法行為はしません。そんなことをしたら株主総会で社長がクビになるかもしれません(笑)。社内の代理資格保持者だけが代理行為をします。



日本でも、今後米国のこのカルチャーが浸透していくのか、していかず日本は独自の道を歩むのか?さて、どうなっていくでしょうね?
私は、日本が豊かな国である状態をこれからも発展させていけるのであれば、日本の状況もこの米国のカルチャーに近いものになっていくのだろうと予測します。