先日、このブログで「タイヤはハイトが高い方が原理・原則的に剛性もグリップも高い」と書いたら、ある方面から、「世間でいわれていることと正反対じゃないか。その原理・原則とやらを説明してもらいたい」というご意見をいただきました。




当然といえば当然ですので、説明しましょう。



その前にインチアップのおさらいを。

本稿でいうインチアップとは、タイヤの外径を変えずに、ホイール径を大きくして、タイヤの偏平率を下げて(ロープロファイル化)、タイヤ幅を広げることを前提とします。




ここまではOKでしょうか?

つまり、インチアップして、タイヤの幅を広げると、必然的に偏平率は小さくなります。




で、一般的にはタイヤ屋さんも、ジャーナリストも、自称タイヤマニアの皆さんも、「偏平率が小さいほどCPは高くなる」と信じておられる節がある。



※CP=コーナリング・パワー 簡単にいうと、ステアリング操作に対するタイヤの応答性の良し悪しのこと。


でも、「偏平率が小さいほどCPは高くなる」というのは本当だろうか?


CPは、タイヤのサイドウォール剛性に左右され、剛性が高いほど、タイヤのたわみ量が少なくなるので、ステアリングレスポンスがクイックになる=CPが高くなる。



これについては、皆さん同意いただけることと思います。




問題はここからでして……。

つまり、ロープロファイルタイヤの方が、サイドウォールの剛性が高い=CPが高いという考えが、誤りなのです。




「そんな馬鹿な!」と思うでしょうが、これは純然たる事実なので、冷たいお水でも一杯ぐびっと飲んで、冷静にこの先のお話をお聞きください。



タイヤの専門書などを読めば、きちんと書いてあることですが、

タイヤのサイドウォールの剛性は、サイドウォール内のカーカスなどの繊維が弓状に反ることによって生じる張力剛性で決まるんです。

その張力剛性は、タイヤの構造や空気圧など他の条件が同じなら、繊維=サイドウォールが長ければ長いほど高くなる。




つまり、ハイトが低いロープロファイルタイヤは、サイドウォール剛性が、ハイプロファイルタイヤに比べ相対的に低いので、放っておくと、腰がなく(=乗り心地が良く)、CPが低いので、ハンドリングがダルになる。



おまけに、サイドウォールの形状はできるだけ垂直に近い直線的な形状の方が、剛性が高い。


これは、タイヤが垂直方向に荷重を支えていることを考えれば、よくわかるはず。

なのに、タイヤというのはロープロファイルになればなるほど、このサイドウォールの形状が、短く丸くなっていく。


ゆえに、ハイトの低さだけでなく、サイドウォール形状が丸いために、二重の意味で剛性的に不利な宿命を宿している。



「ロープロファイルになると、ハイトが短くなるのはわかるが、どうしてサイドウォールが丸くならなきゃならんのだ?」




それはもっともな疑問です。

でもそれほど難しい話ではありません。

タイヤはチューブなので、そこに入れられた空気は上下左右均等に広がっていこうとします。


つまり放っておくと、偏平率は限りなく100%に近づこうとするわけで、本来なら、自転車のタイヤみたいに、接地面が極小になるわけです。



そこでクルマのラジアルタイヤは、トレッド面に強度の強いベルトを張って、その接地面が平らになるように形を制限しているので、その分、サイドウォール側が膨らむことになるのです。




簡単にいえば、柔らかいボールか風船を床において、上から手で押さえつけているような状態です。

するとボールや風船はどういう形になるでしょう?

上下に行き場を失った空気の力で、ボールや風船は当然横に広がります。

これが偏平です!




こうして、上下につぶされて、サイドウォールが短く丸くなれば、すでに説明したように必然的に剛性は弱くなります。

そのため思いっきり補強を入れない限り、ロープロファイルタイヤは低剛性、低CPになり、そのかわり乗り心地マイルドになります。




だからタイヤメーカーは、ロープロファイルタイヤに思いっきりドーピングしているんです(そうしないと、スポーツタイヤとはいえなくなるので)。

つまり、補強を入れて、無理やりサイドウォールを固くしているということ。



しかし、ドーピングには副作用がつきものです。


よく、ロープロファイルタイヤは、エアボリュームが少ないからエアクッションが減って、乗り心地が悪いといわれるが、

乗り心地が悪いのは、エアボリュームのせいではなく(だってすでに証明したように、エアボリュームは変わらないのだから)、こうした補強の副作用と、ホイールの大径化によるバネ下重量増大のせいなのだ。




同様にロープロファイルタイヤが、ボディへの入力が厳しく、接地面の変化にシビア(操安性が悪い)で、ピーキーなのは、エアボリュームが少ないからでなく、無理やりサイドウォールを固くして、バネ下重量が重くなるから!



ちょっと考えてみてください。

本当に、ロープロファイルタイヤの方が、剛性面でメリットがあるなら、トラックやバスのタイヤが、超偏平タイヤじゃないとおかしいじゃないですか。

でも、車体重量や最大積載量が乗用車の何倍もある、トラックやバスのタイヤは、例外なくハイプロファイルタイヤオンリーです。




速く走るためには手段を択ばないF1マシンだって、ロープロファイルタイヤなんて履きません。

F1のレギュレーションでは、タイヤ幅とタイヤの外径は決まっていますが、ホイール径や偏平率に制限はありません。

ということは、いくらでも偏平率を下げられるのに、GYもBSもMIも、ピレリもロープロファイルタイヤを作らなかったのはなぜでしょう?

(ピレリはホイール径をデカくしたがっているという噂もありますが)



ハイプロファイルにして、ハイトを高くした方が、剛性がありグリップも稼げるからに他なりません。




もう一度いいますが、ドーピングには副作用がつきものです

一番わかりやすい副作用は、ランニングコストの高さでしょう。

コストが高く、身体(ボディ)にダメージを与えるが、気持ちはハイになれる。

なんだか、覚醒剤などの麻薬と同じといえば言いすぎでしょうが……。




「インチアップは趣味だ」という人に、文句を言うつもりはさらさらありませんが、原理・原則は押さえておきましょう。



※インチアップとグリップの関係は、次回(?)に続きます





四輪書「The Book of Four Rings(Wheels)」

ミハエル・シューマッハの黄金時代を築いたフェラーリに装着されたBSのタイヤも

F270/55-13 R325/45-13と偏平率は大きい

ただ、いくらハイトがある方が剛性が高いといっても、あまりトレッド面からホイールまでの距離が離れると、伝達時間が長くなってしまう(結果としてCPが低くなる)ので、スポーツタイヤの偏平率は、やはり50%前後が妥当と思われる

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