その昔、港で彼女とデートをしていた時に、
堤防に打ち上げられたヒトデを発見したので、
こんなことを言ってみた。
ヒトデの体内には普段はほとんど使わないけど、
水をためる袋があってね、
危険を感じると、水を一気に吐き出すんよ。
それで、2m位なら飛ぶんだぜ、と。
「ホントに?」と、
驚きつつも、半信半疑だった彼女に
僕は更に語った。
ヒトデは体を「く」の字にして、
広げた手足をくっつける要領で水を吐き出す、だとか、
全部のヒトデが飛ぶわけじゃない、だとか、
この堤防に打ち上げられたヒトデの半数は、
飛び上がったものの着水に失敗したのだろう、だとか、
そういったことをもっともらしく語ってみた。
ひとしきり感心された後で、
ウソだとバラした。
「信じた?信じた?
ぷぷっ、ヒトデが飛ぶわけねえじゃん!」と、
軽口まで叩いた。
そしたら、
「あなたの言葉はもう一切信じない」と、
顔を真っ赤にして怒られた。
当たり前か。
まあでもね、こんなもんかわいい嘘ですよ。
だって、ヒトデが空飛んだらロマンチックじゃないですか。
なんつうの?
ほら、シューティングスター?(語尾上げ気味に)
とまあ、適当発言を繰り返して生きている僕ですが、
世の中には、笑えない冗談が多すぎる。
カルトな宗教団体とか、マルチ商法まがいの集団とかさ。
僕は人を騙すのは好きだけど、
人を食い物にするのは胸クソが悪いし、
騙されるのも大嫌いだ。
リフォーム詐欺とか、オレオレ詐欺とか色々ありますけど、
宗教団体とマルチ商法は本当に勘弁。
というのも、実は以前に大阪に住んでいた頃、
友人がマルチ商法に手を染め、
その勧誘を受けたことがあるんです、僕は。
大学の同級生だった、友人のNちゃんが、
「ちょっと話したいことがあんねん」というので、
約束の場所に出向いたら、
「会わせたい人がおんねん」と言う。
この時点で僕の心の中は半分、
「あ、これはヤバいフラグきた」
という状況なのであります。
キナ臭い。
しかし、ここまできたらしょうがねえや、と腹を括り、
Nちゃんに案内されるがまま、
エグゼクティブな香りの漂うビルの25階(ぐらい)へ。
案内されたのは、大阪の夜景が一望できる
でっかい窓のある高そうな部屋でした。
「ここやから。すごい人が来るから」と嬉しそうにいうNちゃん。
この時点でテンパイであります。
そして、出てきたのは、
これまた高そうなスーツと時計を身につけ、
甘めの香水の匂いを漂わせた24歳ぐらいの男。
僕は、この男をアルマーニと命名しました。
そして…。
「今日はあなたにビジネスの話があるんです」とアルマーニ。
ハイ、死亡フラグきました。
●
その後、アルマーニの話は2時間におよびました。
その間、僕は「アイタタタ…、これマルチだよ…」とドン引きっぱなし。
ノンストップドン引きです。
ちなみに僕を部屋に招いたNちゃんはと言うと、
僕の傍らで、アルマーニの話にうんうんうなずきながら、
ものすごい勢いでノートにメモをとっていました。
これにもまたドン引き。
その勤勉さが切ないYo!
面倒なので内容は、はしょりますけど、
アルマーニの話を要約すると、
「15万円払えば大儲けできまっせ?
あんさんもカネ、欲しいでっしゃろ?」
という内容だった。
エグゼクティブな建物、羽振りのよさそうな男(アルマーニ)、
巧妙に作りこまれた金の流れる仕組み。
「ああ、こりゃ騙される奴は騙されるわ」と、
僕は悲しくなった。
断っておくが、Nちゃんは決して軽率な方ではなく、
むしろ堅実で面倒見のよいタイプだった。
きっと、話を断りきれなくて恐る恐る足を踏み入れたら、
どっぷり洗脳されてしまったんだろう。
断りきれなかったが故の泥沼。
アルマーニの話には致命的な盲点がいくつかあったけど、
その場で指摘しても意味がなさそうなのでやめた。
それはまさに、マルチ商法がマルチ商法たる部分だったから。
僕はアルマーニとNちゃんに、
「僕はそういうの興味ないっすわ」とだけ言い残し、
トボトボと家に帰った。
その後、Nちゃんとは1度も連絡をとっていない。
僕からは連絡をする気になれなかったし、
その話は、かなり強めに断ったので、
Nちゃんとしても気まずかったんだろう。
●
はあ。
そんなわけで僕は、
マルチ(まがい)商法が嫌いだ。
そんなので俺を騙せるとでも?って思うし、
より底辺の人間から搾取してやろうっていう、
不健康なシステムにも腹が立つ。
同じ騙されるんなら、
僕は、空とぶヒトデみたいなウソの方がいい。