工事の人。
工事現場の人たちは、通りすがりの人に対して、とても
礼儀正しい。すごく気を使っているのが分かる。
どうしてか?
それは、映画「雨あがる」ではないけれど、
「お互いが頼りの仕事だから」
ということもあるのだろうと思っている。
多くの場合、実際に作業している方というのは、下請けの
人たちである。
下請けは、その場にいる人たち全員が同じ事務所というわけではなく、
寄り集まっていることが多い。
その場で集まり、仕事が終われば、また別の現場で、別の人と
チームを組む。
私は学生時代の最後、練馬に頭金六十万の仕事場を借りるために、さまざまな
アルバイトをして、3ヶ月で二十万円溜めなければならなかった。
(本田まさゆきはパソコン業務のバイト・写真の大友は新聞会社のバイトをした)
私は教材の営業のバイトをしたが、歩合制で一ヶ月で八万しか稼げず、
結局トラックの運転手兼人足(引越し現場などの作業員)をした。
家電製品の運搬では、家電販売の社員と一緒に、東京中の一人暮らしを
始める若者の部屋をまわって、テレビや冷蔵庫、洗濯機を配達、設置。
客は皆私と変わらない年頃で、ぴかぴかの家電を運びながら、なんだか
とてもうらやましさを感じた。私はまだ部屋を借りるための頭金すら
持っていないのだから。
また別の現場では、引越し会社の社員二人が、ぴかぴかのトラックで
待ち構えていて、私は作業着もトラックも使い古しのボロを着て、
(どうやら私の雇われている事務所は下請けの下請け、貧乏事務所のようだった)
プロのふりをして現場に行かなければならず、この二人の社員に散々しぼられて、
上司らしき50代くらいの悪代官みたいなやつが、ろくに説明もせずに
私をこきつかおうとする上に、いちいち
「さっさとやれおら!」
「とろとろすんな!」
などといい、あんまりひどいものだから、ついに
切れてしまい、トラックの後ろのハッチをバカーン!
とやったら、
「ああ、別におこってるわけじゃないんだよ、こういう言い方
しかできなくて、悪かった」
となって、それからは丁重に扱ってくれるようになった。
それからは、この世界はおとなしくしていては、だめだな、
強気でやっていかないと、と思った。
そこから先にあるトラックが数十台もある大所帯の現場では、
もう怒号のようながなりたてる長州力のような風貌の
責任者がいて、こちらもいちいち睨みつけるような目つきでかからないと、
どんな扱いを受けるか分からない。
そうかと思えば、下請けのトラック運転手たちの連携や、温かみを
感じる現場も多かった。
目黒から千葉への引越しでは、トラック二台で、学生のバイトたちを
引き連れて引越しを行ったが、もう一台の福島さん(福島の会社の方)
が、夜遅くまで作業が長引いて、学生たちを解散させるときに、
「気の毒だから駅まで送ろうよ」
と言って二台で駅まで学生たちを送り、夜遅くになって、ようやく福島に帰って
行った。
「明日はようやく休みがもらえるから、家族サービスをするよ。」
と言っていた。ちなみに学生たちのバイトも、私と同じ年。
私も彼ら同様へばっていたが、彼らは私を業者だと思っていろいろ
指示を求めたり頼ってくる。
それで、次の日は、銀座のオフィス移転作業だったのだが、ここでは
「七人の侍」のごとく七台のトラックが集まったが、また偶然にも福島さんがいて、
「やあ、休み返上されたよ」
と言って笑っている。
金髪にサングラスの運転手、ねじり鉢巻の熊のようなおじさん、福島さん、
徳永英明のようなハスキーボイスのお兄さん、演歌歌手の小金沢君のような
おにいさん、五十台くらいのおじさん、私。
みんなで協力して作業をして、昼ごはんを一緒に食べた。
それである事件が起きた。
トラックの前でどなリ散らしているおじさんがいる。
身なりは高そうなスーツをきて、メガネをかけ、白髪を横わけにしている。
「なにやってんだ!おまえたちみたいのがいたら営業妨害だって!」
と怒鳴っている。
熊のおじさんと、金髪が対応している。
「すみません。すみません。」
と頭を下げている。
「おまえたちみたいの、」という言葉がやけに気に障った。
行こうとしたら、福島さんがニコニコして言う。
「大丈夫。大丈夫。」
小金沢も徳永もニヤニヤしながら見ている。
「いらいらしてるねえ、あのおっさん。」
私は頭にきていたのが、彼らの余裕の様子をみて、
行くのをやめて、戻ってきた熊と、金髪に声をかけた。
「ひどいですねえ。大丈夫ですか?」
「ああ、ぜんぜん平気だよ。絵が売れないからいらいらしてんじゃないの、
ははは。」
と熊はみんなを笑わせるほどの余裕だった。
そこは、画廊で、前に止めてあるトラックが邪魔だと文句をいっている
のだった。
私は、
「僕はこれから有名なイラストレーターになっても、あの画廊には
絵なんか飾りませんから。」
とのど元まで出かかったが、止めた。彼らは私のことを、
新米の運転手と思っているに違いなかった。彼らは皆私より
年上だったし、見た目も荒くれ者のようだったが、誰一人、
私に先輩風を吹かすこともないし、それどころかずっと敬語
であった。
七台のトラックは、遠いところから来ている者から順に、
荷物を降ろすことにして、それぞれ挨拶もせずに、
去っていった。
二度と会うこともないだろう。
彼らは、お互いのことを思いやり、チームを組んで
見返りを求めない人々である。
●
デザインコンビ目黒雅也の作品保管庫
絵本「むしうた」(作・画・デザインコンビ目黒雅也)はアンドロイドマーケットにて無料ダウンロード中です。
なお、PCの方は制作室デザインコンビホームページの販売コーナーで試し読みできます。
制作室デザインコンビホームページはこちらからデザインコンビの新企画
デザインコンビの西荻四十八景始めました。