もうね、何が好きといって、サイレント喜劇ほど好きなものはないのである。 どのくらい好きかというと、アニメ好きの人がアニメを好きな度合いに、ほぼ匹敵するだろう。

私なんかが中学高校の頃はネットが発達していないどころか、そもそもネットが存在していなかった。 米国防総省あたりには存在していたのかもしれないが、よくわからないし、私には関係ない。

ともかく、そんなわけで『キネマ旬報』や『ぴあ』(明日21日発売号でもって休刊ですね)を頼りに、岩波ホールなんてハイソな施設から新宿の怪しげな雑居ビルまで、サイレント喜劇の上映場所を探して回ったものである。いや、そんなもんは滅多に上映していないのだから、「探して回る」という表現は的確ではない。 それを考えるとアニメ好きなんていうのは、実に優遇されていると思う。

サイレント期のコメディアンで誰が好きかといえば、それはもう断トツでバスター・キートンである。では、ここで、1921年の『キートンの船出 The Boat 』をご覧いただくことにしよう。

日本語字幕がなくてもわかる内容だが、一つだけ注釈を。船の名前が「ダムファイノ Damfino 号」とつけられていて、これは「知るもんか Damned if I know」に音が似ている。嵐のさなか、救助を求められた無線技士が船の名前を聞くと、キートンは 'Damfino' と応える。馬鹿にされたと思った技師が無線を切るというギャグがある。





新宿文化圏や渋谷文化圏に育った人にいわせると、池袋は怖い街だそうだ。完全に池袋文化圏で育った私にとっては、子供の頃から庭みたいなものであって、ちっとも怖くない。新宿や渋谷の方が怖い。

だから、中学生だった私は、新宿や渋谷に映画を観に行くなんてときには、交通費と入場料とは別に数千円、靴の中に仕込んだものだ。まあ、カツアゲ的なものには一度も合わなかったのだが。

なぜか大学生になってからは、映画館までサイレント喜劇を観に行ったという記憶がない。たぶん、一緒に行く女の子の趣味に合わせていたのだろう。まったく、だらしのない話である。

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