いねむり先生

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いねむり先生/伊集院 静
¥1,680
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 妻(夏目雅子)の死後、ぼろぼろに落ち込んだ著者が、色川武大氏との出会をきっかけに立ち直っていく過程を描いた自伝的小説です。色川氏の何ともいえない人間的な魅力に助けられた著者の感謝の気持ちが全編に流れている。色川氏のふところの深さを強く感じた。

 また、著者の飾らない文体も好感がもてた。著者は「正岡子規」を題材に小説を連載しているらしいので、それも楽しみだ。


★★★★

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原子炉時限爆弾

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原子炉時限爆弾/広瀬 隆
¥1,575
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 今回の東日本大震災で、福島第1原発が大きな被害をうけ、大量の放射能漏れが起きるという、これまでにない甚大な事故が起こった。原発の安全性が大きく揺らぎ、原発推進の賛否が議論されている。
 原発に関する議論は、これまで「賛成派」・「反対派」という二元論に終始してきた。この本は、「反対派」の先頭を走ってきたジャーナリストの作品なので、そのことをふまえて読まなければならないが、原発について改めてじっくり考えなければならないと強く感じた。この本で取り上げているのは、東海大地震と中部電力の浜岡原子力発電所の例であるが、私たちが住んでいる福井県の原発にもあてはまる内容がふんだんに取り上げられていて、大いに恐怖感を感じた。
 原発を今すぐ廃止することは、現実的にできないと思う。電力不足と代替エネルギーの問題、原発立地地域の経済の問題など、様々な問題が山積みである。今回の事故が、原発依存体制を脱却し、クリーンエネルギー開発利用の第一歩になればと、心から願っている。


★★★★★

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三陸海岸大津波

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三陸海岸大津波 (文春文庫)/吉村 昭
¥460
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 解体新書の翻訳者の一人である前野良沢を主人公とした『冬の鷹』など多くの歴史小説を書いている吉村昭の記録文学である。著者は、東北地方を襲った明治三陸大津波、昭和三陸大津波、チリ地震津波を、文献や実際に津波を体験した人びとの証言を丁寧に取材してまとめている。
 今回の東日本大震災では、テレビで津波の映像がライブで報道され、その恐ろしさを改めて実感した。しかし、この本で紹介されている、津波の経験者の文章や、聞き取り調査をもとにした記述は、映像とはまた違った臨場感を読み手に与えている。特に津波を経験した子どもたちの作文には、家族や友人を津波によって失った悲痛な気持ちが強烈に出ていて、思わず目頭が熱くなってしまう。
 著者吉村昭は、「津波は、時世が変わってもなくならない、必ず今後も襲ってくる。しあし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにないと思う。」という津波経験者の言葉を紹介している。しかし、今回の東日本大震災は、この言葉をいとも簡単に打ち砕いてしまった。今回の地震では、自然の脅威を改めて認識し、自然に対する謙虚な姿勢が大切だと感じた。今回の地震・津波で犠牲になった人びとのご冥福を祈りたい。 


★★★★

『日本の農業を考える』

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農業の視点から日本の戦後史の流れを学習するのにうってつけの本。

関連箇所引用

「日本の農業と食料は、一見なにも関係ないようにみえる日本安保によって強いしばりがかけられていた・・・」


政治や国際関係、あるいは多国籍企業によって、大きな影響をうけている現代の農業について、わかりやすく説明している。また、これからの日本の農業が何をめざすべきなのかについても、多くの例を示しながら論じている。


農薬について

「・・・塩素系殺虫剤の使用量と人体脂肪中への残留量との関係をみたものです。日本は年間使用量ヘクタール当たり約800グラムで世界一です。それを繁栄して残留量もインドに次いで二番目です。・・・」(p122)


★★★★★★★★★★

日本の農業を考える (岩波ジュニア新書 (466))/大野 和興
¥819
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あやしい健康情報とニセ科学について、科学ライターが解説した本。「納豆ダイエットのウソ」「自然志向の罠」など興味深い内容だったが、読んでいるいちに何が確かな情報かわからなくなってしまった。


情報リテラシーの重要性を改めて考えさせられた一冊だった。


満足度 ★★★★★★★★★

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)/松永 和紀
¥777
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上田紀行『目覚めよ仏教!』

テーマ:
チベット問題で話題のダライラマ14世へのインタビューをまとめた本。
東京工業大学教授である上田紀行氏の鋭い質問に真摯に答えるダライラマ14世の姿勢がすばらしい。

目覚めよ仏教!―ダライ・ラマとの対話 (NHKブックス 1087)/上田 紀行
¥1,124
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満足度 ★★★★★★★★★★

井上ひさし『ボローニャ紀行』

テーマ:

久しぶりに記事をアップします。

朝日新聞の読書欄に紹介されていた『ボローニャ紀行』を読んだ。

イタリアに興味があったわけでもなく、ボローニャに行ったこともないが、そんなことまったく関係なく楽しく読めた。

ユーモアを交えながら真摯な姿勢でボローニャ方式のすばらしさを伝えている。

日本やイタリアの政治家などを皮肉の対象として、社会や政治のあるべき姿を追求していて、とても興味深かった。

特に「社会的協同組合」方式には見習うべきことが多いと思った。


ボローニャ紀行/井上 ひさし
¥1,250
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満足度 ★★★★★★★★★


『秀吉神話をくつがえす』

テーマ:
秀吉神話をくつがえす (講談社現代新書)/藤田 達生
¥777
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久しぶりに記事を書きます。

今読んでいるのは、藤田達生著『秀吉神話をくつがえす』。書店で何気なく手にとり、おもしろそうなので購入したが、しばらく積ん読状態でした。昨日から読み始めて、かなり興味深い。秀吉神話とは、出自の秘密、本能寺の変、豊臣平和令など。


出自の秘密では、筆者は秀吉は「賎民的な非農業民」であったと主張している。秀吉の卓抜な情報収集能力と経済感覚は、遍歴を繰り返す非農業民として、木曽川筋や津島で商人的な才覚を磨いたからだとする説である。


本能寺の変については、旧来の「野望説」や「怨恨説」など明智光秀の個人的な動機を重視する説をしりぞけ、本能寺の変を秀吉と光秀の派閥抗争の終着点だと位置づけている。


豊臣平和令については、読書中なのでコメントできないが、出自の秘密にしても本能寺の変にしても大変興味深い説である。


小林英夫『日中戦争』

テーマ:
日中戦争 殲滅戦から消耗戦へ (講談社現代新書)/小林 英夫
¥756
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直前に読んだ『満州事変から日中戦争へ』があまりにも詳細かつ難解だったが、この『日中戦争』は非常にすらすら読むことができた。その要因は、作者の主張する論点が非常に明確であり、その主張に妥当性を感じたからだと思う。

この本の主張は、「日中戦争とは、日本の殲滅戦略と、中国の消耗戦略との激突であった」というものである。この視点で満州事変や蘆溝橋事件・南京事件などを分析しているが、非常に妥当な意見だと思った。


また、その国の軍事力や産業力をハードパワーとみなし、政治力や外交力、さらには国家の文化的な魅力をソフトパワーとみなして、日中戦争を分析している。著者は、中国人兵士のみならず一般市民までが大量に虐殺された南京事件は、日本の軍隊がいかに残虐であるかを国際社会で証明するに十分な材料を提供し、日本のソフトパワーを著しく減退させるとともに、中国のそれを大きく増大させたと主張しているが、この考え方にも賛同できる。


先日、安倍首相は東南アジアを訪問して、その成功に自信をのぞかせるような記者会見をしていたが、安倍首相や日本の外務省のソフトパワーはいかほどのものがあろうか。現在の中国や韓国、北朝鮮と比較しても、かなり劣るように思える。日中戦争頃と同様にハードパワー一辺倒の状況は変わっていないように感じられる。その点で、この著作は非常に興味深い指摘をしていると思う。


満足度 ★★★★★★★★★