その事件は突然やってきた。
14:30
外出しようと服を着て、カバンを持ち準備をする。
忘れ物はない。万事オッケー!
駅へと向かう。自転車である。
駅前のパン屋で優雅にお茶でもしようかと目論み店内へ。
注文をする。
お会計が出る。290円。
いつものようにお金を払おうと後ろの右ポケットに入れている財布に手を伸ばす。
!?
いつも財布を入れている右ポケットに財布の膨らんだいつもの感触がない!
しまった!家に財布を忘れたか!
いや、違う!財布は間違いなくポケットに入れたはずだ。
落としたのか!?
俺、落としたのか!
気を失いそうになる自分を何とか奮い立たせ店を出る。
とりあえずは今来た道のりを辿る。
自転車に跨がり、地面に目を凝らしながらゆっくり戻る。
途方もない苦行だ。
結局、見つからないまま、自宅まで辿り着いてしまった。
いや、待て?
念のため部屋に戻ろう。財布を持って行き忘れの可能性はゼロではないはずだ。淡い期待を抱く。
淡い夢砕かれる。
終わった。盗られた。まず、盗られた。終わった。終わりだ!
しばらく自宅で茫然自失。ぼーっと。ひたすらぼーっ。
15:00のことだ。
財布の中身を思い出してみる。
現金はおそらく二万五、六千円は入っていた。
それも痛いが、キャッシュカードや国民健康保険証などのガード類がやっかいだ。
止めねばならん。
警察に行くか?
いや、警察に行ったところで無駄足になる、間違いない。
盗られたのだ。戻ってこない、断言できる!
テンパり過ぎて、またぼーっとした。
正確に言うと、ふて腐れていた。盗ったやつを想像し、呪った。
16:40
我にかえる。
ガードを止めねばならん。
が、銀行のガードを止めるのは時間的に無理だ。明日だ。その他カードも厳しそうだ。明日だ。
国民健康保険証は?
悪用されないとも言い切れん。
これは区役所か?
電話で聞くと17:00までだ。ダッシュで行けば間に合う。
間に合った。再発行には認め印と身分証明できるものが必要なのだが、財布の中に入っているのでパスポートを持参。この辺りは機転がきいた。
数分で再発行完了。
うむ。我ながら素早い対応だったと満足している。
で、することがなくなった。。。
数時間前に優雅にお茶をしようとしていた自分がいたかと思うと、なんて呑気なクソヤロウかと思う。
タイムマシンがあったら……。
これを想像してしまっている自分は割りと末期だと思う。
喉が渇いた。水が飲みたい。ただ一円もない。
恐ろしい。
あらためて、金がないと何もできないことを思い知らされる。
出しとくか、被害届。
近くの警察署へ。
被害届を書く。
茶色の財布。二つ折り云々。
現金二万五、六千円云々。
なになにのガード云々。
書きながら思う。
そう、初詣のおみくじは中吉。
そこにはハッキリと
「落とし物……すぐ出るでしょう」
やかましいわ!
財布に入れたおみくじごと紛失したわ!
ブツブツ念仏のように呪いの言葉を呟きながら窓口に被害届を提出する。
被害届を一瞥して、事務員は「少々お待ち下さい」と吐き捨て消えていった
。
賭けてもいい。出てこない。
一ミリも出てくると思えん。
そんな僕の期待を裏切り、戻ってきた事務員は「届いてます」
突然のことで思わず「何が?」と言ってしまいそうだった。
しかし、それは紛れもなく、僕が紛失した財布であった。
おお!神よ。奇跡が起きた!
こぼれそうになった「絶叫」を必死で堪え「ありがとうございました」と一言。
顔は強張ってなかっただろうか?
その後、届け主への感謝が込み上げてきた。
「届け主はどちらの方ですか?」
「届け主は匿名を希望されているのでお答えできません。謝礼もいらないとのことでした。」
うおお!やはり神だ。生き神様だ!
どなたか分かりませんがこのブログにて感謝の言葉とさせていただきます。
世の中捨てたもんじゃない。
呪いの言葉を呟いていた自分の小ささを呪った。
人間ていいな。
そんなことを窓口でぼーっと考えていたら事務員から一言。
「中身を一応確認してもらっていいですか?二万五、六千円と書いてありましたが、一万九千円でしたので。」
なんか、急に恥ずかしくなった。
Android携帯からの投稿